第13話(2) 御前試合
「陛下……お断り致します」
僕の言葉により一層周りがざわめく、レイナががわなわなと震え……
「貴様っ! 陛下のお言葉だぞ! 何を考えているのだ!」
「めぐるさま! 私たち王都騎士団はあなたの回復魔法を必要としています! 一緒に傷ついた人々を救って行きましょう!」
ヒカリが続く……そして陛下は考えた後ゆっくりと口を開く。
「まずは静かにしたまえ」
ヒカリ、レイナだけでなく騎士団全員が、はっとして口を紡ぐ。しかし、顔に明らかに不快感が現れている。
「王族に仕える名誉ある仕事であり報酬もかなりもらえる立ち位置を用意すると言っても断る理由を聞いてもいいかな?」
怒っている雰囲気を全く感じない優しい口調で話しかけてくる陛下に僕は思っていることを聞く。
「陛下のお納めするこの王都では奴隷制度を禁止し差別なく国民が生活を遅れるようにしていると聞きます」
「そうだね」
「スピカ……ごめん。僕の横に来て目と耳を出してくれないかな」
「……? ……いいよ……」
僕の横にピタっとくっついてきたスピカはこの場にいる全員の前でエルフの綺麗な緑色の片目と、人間とエルフの間の長さの少し尖った耳を銀色の綺麗な髪をかきあげて見せた。
周りが驚き、ざわめく……
なっ、ハーフエルフだと…… 穢れた存在が王座の間に…… 立場を考えていないのか…… ありえない…… などの声が聞こえてくる。
「陛下。僕の大切な仲間のスピカです。スピカはハーフエルフですがどう思われますでしょうか?」
陛下の返答にこの場に全ての人間が注目する。しかし、陛下は当たり前のようにこう答える……
「私はこの国の王だ。しかし、王である前に私は人だ。この世界を作り出した神々からしてみると私は人間という集団の一人でしかない。君の大切なスピカというハーフエルフだが私の考えはハーフエルフはハーフエルフでしかない。それ以上でもそれ以下でもない。君の言いたいことはわかるよ……私はそういった意味で奴隷や差別を嫌う」
「陛下のお心が知れて大変嬉しく思います。皆陛下のようなお考えが持っていれば嬉しいのですが、今の周りの反応をご覧になって頂いた通り、そして、何より隊をまとめる勇者と頂点の称号を持つ騎士が同じ考えという時点で私はこの王都騎士団を軽蔑し仲間になるなどは今は考えられません」
「そうか……残念だが納得した。私の不敬が招いた結果だ。めぐるくん、スピカくん、許してほしい」
椅子に座りながらではあるが陛下が頭を下げた。僕は王都の陛下が改めて凄い存在だと言うことを認識した。僕たちのような下民がこのようなことを言うと普通は不敬罪で処刑されるだろう。しかし、陛下はしっかりと僕の言葉を聞いてくれた。
「……気にしてない……私はめぐると入れればオッケー……」
「ははっ。よかったよ。ありがとう……スピカくん」
少しずつ周りの固い空気が解れていく……よかったと思っていたら
「納得できないっ!」
突如ヒカリが叫んだ……
「私もレイナも国の皆に幸せになってもらいたい! 悪いやつらが入れば捕まえにいく! 世界中の怪我をしたり苦しんでいる人を助けることができる! なのになんでその程度のことで助けてくれないの!」
「ヒカリ。めぐるくんは王都騎士団には所属しないと言うことだ。諦めなさい。」
「陛下! お言葉ですがこの者が超越位階者である以上わがままは言えません」
わがまま?
「ねえ! めぐるさま! あなたは私たちと同じ超越位階者でしょ! 目の前の傷ついた人たちを見て見ぬフリをするの!? あなたはプリーストでしょ!? どうなのよ! 何とかいいなさいよ!?」
ヒカリの叫び声が王座の間に反響する。
「……どくせ」
「えっ!?」
「めんどくさいって言いました」
「なっ何を言って……」
「あなたの並べてるのは自分勝手な綺麗ごとです! 僕たちの考えも聞かずに好き勝手言って!」
「貴様っ! 口を慎め! プリーストだろ! 黙って言うことを聞いて入ればいいんだよ!」
「口を慎むのはあなたたち二人の方です! あなたたちの今の発言が陛下そして、王都騎士団の評価を下げていることに何故気づかないんだっ!」
「っ!」
ヒカリ、レイナが黙る……追って陛下が話しかけてくる。
「ヒカリ、レイナ。君たちの国を思う気持ちは重々わかっている。しかしな、先ほどからの君たちの人を助けるなどの声の前に、ハーフエルフのスピカを傷つけている。目の前にいる人を助けるどころか傷つけている君の言葉にどうして彼……めぐるくんが力を貸してくれようか」
「しかしっ! 納得できないものはできない! 騎士団の皆もこれからは死ぬことはない! 間に合わない傷をおった人も助けられる! なんで! なんでなのよ!」
ヒカリは泣きながら訴える。
「ヒカリ……」
僕はだんだん嫌気が差してきた。そうしたらレイナがいきなり剣を向けてきた。
「めぐる! 私と一騎討ちをしろ! そして負けたら我が騎士団のヒカリの命令は絶対という条件で入隊してもらおう!」
「なっ!? なにを勝手なことを言ってるの!? めぐるの気持ちも考えないでっ!」
僕を庇うように前に立つルリさんを押さえ……
「いいでしょう……僕が勝ったら王都騎士団は今後僕たちに関わらないというのが条件です」
「めぐるっ! なんで!?」
ルリさん。ごめんなさい。普段ならこんな厄介ごとは問答無用で逃げて関わらないようにしたいです。だけど……だけど、僕はかなり今回のことにムカついてしまっていてそれ所ではない。
「レイナ! 私の前で何を勝手なことを!」
「陛下! いいんです! 僕もこのしがらみを解消したいです!」
「……しかし、条件が釣り合っていないではないか」
「そういたしましたら、陛下……こういう図々しいお願いをするのは大変恐縮ですが王都騎士団には入りませんが、陛下や王家の方々との友好関係を結んでくださらないですか?」
「金の亡者か!? プリースト!」
騎士団からのヤジが飛び交う中。
「よいっ! 認める! 私も君を気に入っているのでこれで縁を切られたくないのでね!」
「陛下! よろしいのですか! このような何処ぞの者かわからぬ者たちを!」
「だまれいっ! もともとは貴様ら! 王都騎士団が巻いた種であろう! 今更何を言っている! 恥の上塗りをして! 全員を処罰するぞ!」
「陛下。その処罰を私がこれから行いますのでお手を煩わせません」
「貴様……」
「ははっ! 私はめぐるを支持している! 場所は兵の訓練場でよいだろう! 私も同席する!」
「わたくしも! 同席いたします!」
「リリーナもか! ……本当にこの数分で大分変わったな」
こうして因縁の戦いの火蓋が切って落とされたのであった。
つづく