第12話(5) 王都へ……勇者とプリースト
階段を下りた先のエントランスのソファーにヒカリとレイナの二人が睨み付けるように立っている。なんで、この人たちそんな親の仇みたいな目で僕たちを見てるのだろう? あれ、僕たちを勧誘しに来ているのかな?
「……かんじわる……」
スピカがぼそっと文句を呟くと僕の脇下をすり抜けて前にでる。僕たちと彼女たちの距離が近付くにつれて
「……ぐるるるるるる……」
と威嚇が始まる。向こうから声をかけてきた。
「先ほどは突然の訪問ごめんなさいっ! 私たちの話をあなたに聞いてもらいたくてそれで」
「わかりました。話はお伺いします。まずは座りませんか?」
ヒカリと言う女の子からマシンガンのように話がスタートしそうだったので一先ず切り上げて、座るように伝えた。向かい合わせの赤い長めのソファーに向かい合うように2対3で座ったのだが、スピカが僕の前に身を乗り出し、まだ威嚇をしていた
「……がるるる……」
「なあ、お前の仲間をなんとかしてくれないか? 流石に話ずらかろう」
「ですよね。スピカありがとう。とりあえず座って話を聞きましょう」
「……うん……」
威嚇を止め、そのままちょこんとソファー……ではなく僕の膝の上に座った。
「ああーーーーー! おいっ! スピカ! ずるいぞ!」
ルリさんが立ち上がり指を指し咆哮する。
「……ずるく……ない……早い者勝ち……遅い者負け……」
スピカがどや顔で早い者を自分、遅い者をルリさんと指を交互に指す。ルリさんはいつもの小さい子どものようにほっぺたを膨らませて。
「むううううう! ずるいずるいぞ! めぐる! 交代制にしてよ! お願いっ!」
「……めぐるに……直接交渉……反則……」
「譲ってくれないスピカが悪いのよ!」
バァンっ! 机を叩く音が向いからレイナという騎士が顔を真っ赤にしていた。
「うるさい! じゃれあうな!」
「……ルリ……あいつのほうが……うるさむぐ!」
「はいはい。ごめんなさい。こちらが騒がしくしてしまい今回は申し訳ありません。よっと、では話を始めましょう」
「……むー……」
スピカの小脇を持ち横の席に座らせる。こちらが完全に話を遮っているので一応お詫びをしたのだが……
「よいしょっと。……ん? ああ、私には気にせずに話を続けてくれ。なぁ……めぐる……」
「ルっルリさん!?」
入れ替わりでルリさんが膝の上に座ってきた! しかも、スピカとは違い横座りで首に手を回ししなだれかかってくるように! 普段なら嬉しい展開! ぽかぽかっ ぽかぽかっ と腕をスピカに叩かれる。
「……ずるい……ずるい……私が先なのに……ずるい……」
「スピカはさっき座っただろ。次は私がめぐるに甘える番だ。じゃないと不公平だろ」
「……むー……やだやだやだ……」
足をぱたぱたさせながらまた ぽかぽかっ ぽかぽかっ 叩いてくる……なにこの可愛い二人は……
バァンっ!
やべ……机を再び叩く音で我に返る。
「貴様ら! 真面目に……」
「あはははははっ!」
「!?」
その場にいた全力が笑い声の方を向いた。ヒカリという女の子が爆笑していた。
「ヒッヒカリ!?」
「あっはは! おっかしい! レイナ! こんなに仲のいい人たちなんだから、めぐるさんはいい人だよー……改めまして! 私はヒカリ=アルバイン! 王都騎士団の代表で【勇者】のジョブです! で、隣にいるのはレイナ=リリールフ! 王都騎士団隊長で私と同じ【超越位階】の【グランドマスター】なの! よろしくお願いします!」
「【超越位階】っ!」
「やっぱり驚いちゃうよね? 世界に8人しかいない最高位ジョブだから。つい最近、遠くの街で9人目の超越位階者が誕生して世界で9人になったんだけどね」
「ヒカリ。それは嘘だと思うぞ? 噂だと初めてのジョブ登録で回復系の最高位ジョブの【オラクル】という話だ。そもそも回復系のジョブは神への信仰心からどんどんランクが上がっていくものだから、行きなり超越位階からスタートはあり得ない」
「でも、私のような最初からのスタートの可能性もあるから確実ではないよね?」
「それはそうだが……まあ、それは置いておいてこっちの話を進めたほうがよくないか?」
「ああっ、ごめんなさい! めぐるさまの方も自己紹介とかしていただけると助かります」
少し置き去り状態だった僕たちも自己紹介を始める。
「僕の名前はめぐると言います。ランク7のプリーストです。青髪の彼女はルリ=セルルシアン、銀髪の彼女はスピカ=フェイクファー。二人ともジョブは説明しませんが上級ジョブで僕の仲間で護衛をしてくれてます」
二人は頭をぺこっと下げる
「そうなんですね! よろしくお願いします!」
「金で雇った女を侍らせてるかんじか?」
「ちょっと、レイナ!」
ビュッ……という風を切る音がなりレイナの前に聖剣が突き付けられる。
「ほう……これは聖剣だな? お前も聖剣使いか?」
「そんなことはどうでもいいです。それより私はいいけど、めぐるとスピカをバカにするような発言はしないでもらいたい」
「……ぐるるるるるる」
「さっきの風圧でチラッと見えたのだがそっちのハーフエルフは奴隷かなにかでおいているのか?」
「……!?……」
スピカがびくっと震える。
「えっ? そうなの? 私ハーフエルフ初めてあったからわからないんだけど」
「人間とエルフの間に生まれた半端な存在だからどの地域でも迫害されてるんだよ。王都は奴隷禁止だからな。まあ、影でこそこそしているやつらはいるけどな」
「かわいそうに……」
今にも斬りかかりそうなルリさんの手を握って押さえる。僕はそっとスピカの耳元で
「僕以外の言葉は気にするな……」
とスピカに囁く。スピカはぎゅっと僕の腕にしがみついてくる。
「僕たちの関係を詮索しないでください。で要件はなんですか? 手短にお願いいたします。僕たちは王都へ向かわないと行けないので」
「ああ! ごめんなさい! 話がそれましたね。王都へ向かうのであれば丁度いい! 私の転移魔法で王都へすぐ行けますし、詳しい話は国王がしますので!」
急に僕の腕を掴みヒカリは魔法を唱えた。
「【リープ】」
えっ!? と思う間もなく視界が変わり馬鹿デカイ立派な門の前にいた。白い綺麗な煉瓦の地面の先にはまさしく城と呼ぶにふさわしい大きな建物がそびえ立っていた。
「驚きました? 【勇者】の私が唯一使える転移魔法です! 一瞬で王都へ到着です」
「まあ、田舎は目が飛び出ても不思議ではないがな」
ヒカリとレイナの一言のあと我に返ると周りに違和感を感じた。
「じゃあ、レイナ! 私は一足先に陛下に面会のお話をしてくるから、めぐるさまを談話室にお通ししておいて! 【リープ】」
ヒカリが消える。
「おいっ。何をぼーっとしている。いくぞ」
「ちょっとまて」
「なんだ?」
怪訝そうにレイナが振り返る。
「早くしろ。陛下にお会いするんだ。モタモタするなよ」
「二人は?」
「二人?」
「僕の仲間のルリさんとスピカがいないのですが?」
門の前に先ほどまでいたのは3人だけだった。ルリ、スピカの姿はそこにない。レイナは続けて言う。
「は? バカか? 傭兵と奴隷なんかが陛下と会える分けないだろ? ヒカリがおいて行ったんだよ」
つづく