第12話(4) 王都へ……勇者とプリースト
僕は部屋の扉を開けると行きなり女の子が頭を下げてきた。
「【勇者】ですーーー仲間になってください!」
突然のことで言葉に詰まった。何が起こったのか全然わからない。僕の他に世界に8人いる【超越位階】しかもその中でも代表と言ってもいい【勇者】が僕の前に突如あらわれるなんて!
……しかも、よくよく見ると宿屋の一件からやたらに絡んでくるヒカリとかいう女の子じゃないか!? その子が【勇者】だって!? ちょっと情報を整理しないと……でも先ずは……
「うん。断ります」
その場の空返事は厄介事になる……ルリさんとスピカを含めた3人で相談しないと!
「どうしっ……て……」
ヒカリという子が顔を上げて絶句する……そうですよねー……僕もそうなりましたよ。というか仲間って何で? どうして僕のことを?
「とりあえず、エントランスにいてもらってもよろしいですか? そこで話を聞かせてもらいます。僕たちここを借りてる期間の都合で今出るので」
「は……い……わかりました」
ヒカリはコクコクと頷いたあと彼女も状況が整理できていないのか。上の空のようなふわふわとした足取りで廊下を歩いて行った……
僕は部屋に戻り二人に来訪者が昨日の女の子。【超越位階】の【勇者】で仲間になってくれと頼まれた旨を伝えた。
「昨日のやつが勇者なの!?」
「……勇者……?」
「そうらしいです。なんか力を感じないですけどこの世界の勇者って何をするんですか? なんか、世界平和がどうとか言ってましたが……」
「そっか、めぐるはこの世界に来たから勇者を知らないのか。【勇者】は生まれながらのジョブと言われていて、そのジョブを手に入れた者は必ず何かしらの伝説を残している」
「伝説ですか?」
「そう……例えば、魔王討伐、攻めてきた亜人族を一人で倒す、戦争の終結とかいろいろあるよ。ただ、今の勇者は王都騎士団の象徴くらいしか聞かないね。特別過去の勇者たちみたいな伝説のようなことはしてないかな」
「……私にとって……めぐるが伝説……(親指を立てグッドサイン)」
「ははっ。よくわからないけどスピカありがとう。……で、今回の勧誘はどう思いますか?」
「まあ、王都は昔からプリーストなどの回復者が不足しているから喉から手が出るほど欲しいのではないかな? でも、そうだな……王都には既に3人の【超越位階】がいるからもしかしたら、めぐるの存在を知っての可能性もあるな」
「とりあえず、話を聞きに行かないとですかね。ところで話が変わりますが亜人とは?」
「ああ、私はヒューマン。つまり人間族だけど。エルフや獣人とかを亜人と言っている。ちょっと差別だけどね……王都近隣は人間族しかいないな。ただ帝国、聖教国、魔国には山ほどいる」
「そうなんですね。王都のあと色々周りましょうね」
「……スピカも……」
「ふふっ、私とめぐるを守っていこうな?」
「……うん……」
「あはは! 二人ともよろしくね! ……さて、降りてお話を聞きにいきましょう」
……
……
ヒカリは重い足を持ち上げながら階段を下りていく……気分はかなり憂鬱だ。そのまま受付を過ぎてエントランスの真っ赤なソファーに重い腰をおろす……
「はああああああー……」
自分でもびっくりするほどのため息がでた……レイナと約束したのにダメかもしれない。出会いは最悪だ。こっちから暴力も振るったし。
「はぁ……一人じゃ何をしゃべっていいかわからないよ。国王特権を利用するのも気が引けるし……レイナ早く戻ってきて……」
私の国王特権とは王都の国王が勇者に与えたいくつかの特権でその特権の一つは【プリースト以上の回復魔法使いは王座で面会しなければならない】というもの。
「悪魔アモンとその配下を退けためぐるさまは絶対にプリースト以上なんだ……なんとしても引き入れないと……」
ドタドタと外から足音が聞こえて宿の扉が荒々しく開け放たれる。
「おいっ! なにやってんだ!」
「うるさい! 黙れ! 私は王都騎士団隊長だぞ! 控えろ!」
宿屋のオーナーが荒々しく入ってきたレイナを怒鳴りつけるのだが、レイナの鬼気迫る迫力に押され黙ってしまう。レイナは玉のような汗を流し、全力でここまで駆けつけたのだろう。
「レイナ! 来てくれて良かった! これからめぐるさまが降りてくるんだけど……」
「事実だったんだ!」
これからの流れを説明しようとしたときそれを遮るようなレイナの悲痛な声が私の頭をまた真っ白にした。
「あの3人がギルドで絡まれたことはギルド内の人に聞いたら皆知っていて口をそろえて王都騎士団中隊長ジーク=アルバインのせいだと」
「そんなっ! 騒ぎを起こしたのはあの人の偽物で本人は私たちと遠征していたのに!」
「一般人にはこちらの事情などお構い無しさ! 自分たちの目で見たことしか信じない!」
「ひどい……あんまりだよ……」
ソファーにどすんと力なく座り込む。向かいにはレイナも……
そんな最悪のコンディションの中、階段を下りてくる音がぎっぎっ……と聞こえてくる。私は拳をぎゅっと握り、レイナの方を見た! レイナも真剣な私の表情を見て察してくれたようだ!
「くよくよしてても始まらないな!」
「そうよ! なんとしてもめぐるさまを王都騎士団に招き入れないと!」
私は気合いを入れて階段を睨み付ける……
足音はどんどん近付いてくるのであった……
つづく