第11話(6) アモンの魔獣
「王都騎士団中隊長……早く剣をとれ……」
「ひぃっ! ちっちがう! 私はちがうんだ! 王都の魔族に魔法で姿を変えられて成り済まして騎士団を一部借りていただけなのです! 本人は勇者と共に竜族の都市へと向かってます。私は騎士を魅了する魔法もかけてもらい……あの魔族もあんたのお仲間だろ!? お仲間はやりたいことがあるから私を使わせたはず! だから確認するまでは私は殺さなくて言いはずだ! そうだ! プリーストとランクBのチームができた! プリーストは回復ができるからそいつを殺さないとあとあと貴方たちの邪魔になるのではないでしょうか!? 私を殺すより目障りになるプリーストを始末した方がいいと思います!」
「なるほど。たしかにプリーストは過去の戦争でも真っ先に仕留めなければ戦力が回復されてしまうからな。そいつが各勢力に吸収される前に殺すかこちらの陣営に引き込まないとな。ありがとう。じゃあ、もう死んでいいぞ! お前の姿を変えた奴の深意は読めないがな……」
「ちょっ、えっ! まって! やっ、やめっ……ひいいいっ!」
ガキィッン! 銀狼の爪はルリさんの聖剣により弾かれた。偽ジークと銀狼の間に僕たちは割って入った。僕は周りの兵士に回復魔法を使った。
「【ヒールサークル】」
めぐるの周囲100メートルに青く光輝く魔方陣が形成された。この中にいる兵士たちの傷がどんどん癒されていく。ただ、回復できるのは僅かでも命があるものだけ。7人ほどの騎士が身を起こして身体の具合を確認して驚きの表情を見せる。
「きっ傷が!」
「動ける! 痛みを感じないぞ」
「皆さんの負傷は完全回復させました。聞こえていた方もいると思いますがこいつは中隊長殿に化けた偽物です! 捕縛してください! こちらは食い止めるます! 皆さんにかかっていた暗示の魅了も既に解いてあります!」
一瞬だけぽかんとしていたが騎士たちはすぐに起き上がり偽物を捕縛した。だが、一番厄介な奴が残っている。
「ほう……貴様がプリーストか? ……いや、魔法の質からしてもっと上級ランクか?」
「なぜそう思ったのですか?」
「魔法の質だよ」
話に乗ってくれた! 先ほどの偽物とのやり取りを見ていて銀狼は会話だけでなく考える知性を持っていることがわかった。だから僕は回復魔法に強く魔力を込めてみた。向こうにもこっちが未知の存在だと思わせるために……
「そもそも腕が千切れたり、骨が粉々、臓物ぐちゃぐちゃの奴がこんなに一瞬で回復するわけねえだろ。相当な魔力量だな。それに連れてる人間とハーフエルフも未熟だがなかなかやる。」
ルリさんが聖剣を構える。スピカも瞬時に行動できるよう姿勢を浅く構えている。
「銀狼さん……でよろしいですか? 僕はめぐるといいます」
「俺の名はガジェという。正直、強者と戦うのが俺は大好きなんだよ……」
僕は突破口を見つけた気がした。
「ガジェさん。僕たちは実は力を手に入れたばかり……偶然が偶然を呼んだと言う感じです。時間を頂ければもっと強くなって楽しい一時が過ごせると思いますよ?」
「そういう事情じゃあ確かに魅力的だねぇ……」
「では……」
「でも、このまま逃したらお前らは絶対に脅威になる……今屠る!」
急にガジェから殺気が向けられる。3人とも少し後ずさるほどの脅威的な殺気。後ろの兵士たちも震え上がりガチャガチャと鎧の震える音が聞こえる。もう戦闘は避けられないと思った瞬間……
「やめたまえ」
ガジェの殺気が消える。声の方角へ全員が顔を向けると黄色綺麗な月をバックに男が宙に浮いていた……男は喪服のような底の見えない深淵のような黒いスーツ。スマートな体型で紳士のような雰囲気を醸し出している。しかし、顔は梟のような鳥の顔をしていた。そしてなによりも、ガジェが即座にひれ伏している。
「お初に御目にかかります。わたくしはアモン……72柱の悪魔の序列7で侯爵の地位でございます。この度はわたくしの配下が大変お世話になっております。ガジェ……今日は撤退しますよ。目的は果たしましたから」
「はい! お言葉ですがあの者らを放置してよろしいのでしょうか?」
こちらの身体がギュッと強張る。アモンという悪魔が現れてから重圧が尋常ではない。身体が地面にめり込んでいると言われても嘘に感じない。全員汗びっしょりで息が荒い……スピカは僕にしがみついてガタガタ震えている……
「ガジェ……あそこの人間に手を出しては行けませんよ……気が付きませんか? アルナ……女神の匂いがする……」
「ママを知っているのですか!?」
『ーー えっ!? ーー』
あっ……ああああああああああああああああっ!
この場にいる人間が全てこっちを向いている。アモンとガジェですらこっちをキョトンとした顔で見ている。やってしまった! この歳でママと口外してしまった! だって仕方ないじゃないか! めちゃくちゃプレッシャーだったんだもの!
「あ~君はあ~れかね? アルナ……ママの子どもなのかね?」
おいいいいいいいいっ! 掘り返すんじゃねーーーーー! でもまあ、ルリさんとスピカにもカミングアウトしないと出し、あああああ……
「……はい。どちらかというと養子に近い関係です」
「めぐる……そうだったの?」
「ごめんなさい。遅くなりましたが詳しくは後で話さしてください」
「……めぐる……ママ……は女神さまなの?」
「君の名前はめぐると言うのですね。君のママは本当に女神アルマなのかね?」
「あのーすいません……実は人前でママ言うの恥ずかしいのでやめてくれませんかね! ぶっちゃけ、ママと呼ばないと反応ないどころか最近は怒ってくるんですよ! 僕を……僕をそんな目で見ないでえええええええええ!」
静寂がこの場を包み込む……いや、静かになるなよ。気まずいじゃないか! もー! 穴があったら入りたい! ひきこもりたい!
そんな空気に耐えかねた悪魔アモンが気まずそうに……
「……えーあーそんな感じでガジェ。女神アルマの子どもに今手を出すのは得策ではないのでね。今回は退こうと思うのだよ。また、会う機会があると思うのでその際はよろしく頼むよ。女神の子めぐる」
アモンとガジェの周りに黒い靄が一瞬にして覆い、靄が霧散した時にはその場には何もなかった。
これが最初に遭遇した悪魔。命の危険を感じ今のままではダメだと思った……
「……めぐる……ママって……」
もうね……ホントにいろいろダメだよね……
つづく