第11話(5) アモンの魔獣
「そこの貴様ら! さっさとこっちにこい!」
「はーい……」
やる気のない生徒のように立ち上がると向こうでもこちらの顔を知ってる連中……特に中隊長のジークが露骨に敵意を剥き出しに反応する。
「ジーク=アルバインさま、お久しぶりです」
「また、貴様か……私を……王都騎士団をどれだけ侮辱する気かね!」
「侮辱したつもりはございません。気に触ったなら謝らせて頂きます。申し訳ございませんでした」
「めっ、めぐる……」
「……っ!」
ジークに頭を下げた。別に頭を下げる程度でこの場が収まるなら安いものだと思う。別にプライドとかあるわけでもない。ただ、ルリさんとスピカは自分たちのために頭を下げてると思っているのだろう。悔しそうな顔をしていた。
「ほう? 意外とすぐに頭を下げたな。ようやく自分の身の程がわかったようだ」
「……では、これにて失礼致します」
と踵を返そうとしたところ
「え!? おいおい! ちょっと待ちたまえ!」
「はい? 僕たちに何か?」
「いやいや、これでさよならはないだろう。こっちは許したわけじゃない。そこのドレスの2人はこの前の女だよな? 差し出したまえ」
「中隊長殿、飲み過ぎですよ」
「それで水に流してやると言っている。私の楽しむところを是非君に見てほしい」
7人の騎士が周りを取り囲む……
「君もしっかりと歩いて帰りたいだろう?」
「……めぐる……くびきっていい?」
「なっ! ひっ!」
いつの間にかスピカがジークの背後に立ち首の前に刃を突き付けていた。騎士たちがガチャガチャ鎧の音をたてながら振り替える時、宙にスピカが赤い小刀、烈火を放った……
「そうだよね……」
涼しげな綺麗な声が聞こえたと思ったらジークの目の前にルリがいて、パシッと烈火を掴みジークの股関へと刃を当てる
「中隊長殿は私たちと遊びたいのよね?」
「ひいいいっ!」
「……ルリ……変なとこつけるな……ばっちぃ……」
「あははっ。スピカごめんごめん!」
騎士たちは唖然として動けない。というより僕もちょっとこの2人こえーと思いました。とりあえず、
「はい! 2人ともそこまで! それ以上やるとその人チビっちゃうから」
「きっ、貴様! 私をまたもや侮辱するか!」
「いや、僕が同じ立場ならチビってるので同じ気持ちかと」
「お前ら! あいつをやってしま」
「中隊長! 中隊長殿! 第3班6名が例の事件の首謀者と街入り口の噴水前にて交戦中! 至急応援をお願いします!」
ドタバタガチャガチャ騒がしい足とともに騎士が1人この場に割り込んできた!
「なっなんだと!?」
「はい! 至急応援……この状況はいったい!?」
「ルリさん! スピカ!」
綺麗なピンクと黒のドレスが軽やかに宙を舞い僕の横に……
「では中隊長殿お疲れ様でした」
「さよなら中隊長殿」
「……ばいばい……」
「【リープ】」
3人のギルドチームの姿が一瞬にして消えた。
「転移魔法だと……あいつら……」
「中隊長殿!」
「ええい! わかっている全員入り口へ迎え! 巡回が終わっていない5班も現場に向かわせろ! いそげ!」
……
……
めぐるたちは宿の部屋に転移で帰ってきた。
「ルリさん、スピカ……2人のドレスもっと見ていたいけど準備できる」
「ああ!」
「……おっけ……」
「あの人たちを加勢するわけじゃなく今後の僕たちの平和を脅かす可能性があるものの正体を見に行こうか……」
戦う気持ちはない。自分たちに危害を加えるまでは……無駄な争いは避けるが吉。しかし、将来巻き込まれる可能性が0ではないため、めぐるたちは魔物の正体を見に行くことにした。
……
……
「下がれ! 下がれ下がれ下がれ下がれ!」
ガッシャんっ! 騎士が1人壁に弾き飛ばされる頭から壁にぶつかり頭が変な方向に向いている。遠くから多くの鎧がすれる音が聞こえてくる。
「中隊長殿!」
スパンっ! 振り返り声をあげた騎士の首が飛ぶ……
「やはり……魔族! いや! 魔獣か!?」
ジークがたどり着いた時には既に5人の騎士の最後の1人の命が散った瞬間だった……
魔獣は二足歩行の銀狼で体格はホッそりとしていて、体長は3メートル。腕は地面に着くほど長く鋭い爪と牙を持っていた。
対するジークたち王都騎士団は25名。
「ふん! 魔獣ごときが王都騎士団中隊長ジーク=アルバインの名において討伐してくれるわ! いくぞ!」
「ガオオオオオオオオオオオオオオっ!」
「!?」
ブォンという風を切る音が聞こえたと思った。ジークは視線を横に向けると腹を貫かれた騎士が横にいた。
「げっえっぶ……」
「がおえっ」
その魔獣の腕は甲冑を2人分貫いていた。リーチの差を思い知らされた瞬間であった。騎士2人を貫いたまま魔獣は腕を戻し、片腕の入った銅に余ったもう一本の腕も差し込み2人分の身体を一気に引き裂いた。
血の豪雨が一瞬だけ周りに降り注ぐ……
「んぐっ……があああああああ……王都最強の騎士団とかこの程度かよ……おらぁっ!」
「ひいいいっ!」
ジークが魔獣の言葉に尻餅を着く……
「おう……中隊長とやら……かかってこんかい」
「おっ……お前らあ! 早くっ! 早く攻め込まんか!」
「うっうわあああああああっ」
騎士たちが魔獣に攻め混んでいく。魔獣が長い手を振るうたび1人……また1人と宙を舞う。
その惨事をめぐるたちは入り口の塀から見ていた。
「ねえ……ルリさん」
「どうした? めぐる?」
「あれが魔獣? とっても見た目がお化けのように怖いのですが……」
「……めぐる……こわいの? ………ぎゅってしてあげよか?」
「スピカ!」
「それに王都最強の騎士団って……戦略もなにもないの? あのジークって人一応凄いとは聞いていたんだけど……」
「たしかにあれでは仲間を無為に殺してしまうだけだぞ?」
「でも、少し勉強になりました。魔獣に対しては無策に飛び込んでも一撃で致命傷になる可能性があります。ルリさんもスピカも必ず警戒するように……これは人間よりも厄介です」
「……うん……あっ……もうあいつ1人だけ……」
「助ける義理なしです」
騎士団はジークを残し全滅。息のある者も4~5人いるが大半は息がない……街の守護のため派遣された最強の王都騎士団が全滅した。
銀狼がゆっくりとジークに近づいていく……
つづく