第11話(4) アモンの魔獣
……
「はあっ!」
ルリさんが聖剣を横薙ぎに振るう。
「……んっ……外れ」
スピカが切り裂かれたと思ったらそのまま消えた。ルリさんの後ろに急にスピカが現れて喉元に短刀をまわす。
「……私の勝……」
「じゃないっ!」
ルリさんの聖剣がまぶしく光る。
「……うっ……」
スピカが目をぎゅっと閉じたタイミングで喉元にあるスピカの右腕をルリさんの左手が掴む、そのままスピカの右腕脇にルリさんの右肘が入り込みそこを軸に自分の前に投げる。
「……ぐっ……」
「これで私の勝ちだ」
聖剣をスピカの喉元に付ける……
「……う……うー!」
足を悔しそうにバタつかせる。
「やったー! めぐるっ! 見ていたか? 出来ていたのか【背負い投げ】ってやつ!」
「はい! タイミングばっちりですよ!」
「……くやしい……」
「はいはい。スピカも惜しかったですよ。【ヒーリング】」
2人に回復魔法をかける。先日の酒場の1件で2人に火が着いたらしく特訓をここ3日間、朝から日暮れまで行っている。自分自身のスキルや魔法や武器の特性、そして僕の体術までをも覚えようとしていた。
「なんか、2人がどんどん強くなっていくから僕の出る幕もないですよ……」
「……それでいい……よ?」
「スピカの言う通りだ。めぐるを守るための力なんだからね」
「ははっ。嬉しいです」
2人が強くなり、僕自身の立場が……それからこの2人が張り切るのにはもうひとつ理由がある。
【魔獣による惨殺】
この街についた翌日の朝、路地での惨殺死体……惨殺肉塊と呼んだほうがいいだろう。死者は多く3日間で50名あまりの人命が散った。犯人は恐らく魔物の仕業、肉片や外壁には鋭い爪や歯形。さらには大きな手形は人ならざるものだと知らしめられる。
女神さまに連絡を取った際、
『めぐちゃま……時間をください。魔王を問い詰めて確認いたします』
と言われ本日の夜コンタクトを取る予定となっている。今回の惨殺の件はギルドでも問題となりチームにて事に当たっているのだが犠牲者は増加している。
王都騎士団が在中していて中隊長ジーク=アルバインの呼び掛けにより5人の騎士が30人に増えたのだが状況は改善されない。
「よし! そろそろ戻りましょう!」
「そうだね」
「……おなか……すいた……」
そんなことを考えつつ帰路につく。2人とも少し気が張っていることがわかる。気分転換もそろそろしないといけないのかもと思い……
「ルリさん、スピカ。今日は奮発して食事は高めの所で行おうか?」
「……いく!」
「めぐる、大丈夫なのか?」
「はいっ。たまにはこう言うのもいいのではないでしょうか」
「そうだね……だが、そのお店にいくにはドレスが必要だろう! それも用意しないと!」
「僕の服はネクタイを締めれば多分大丈夫だけどふたりには必要だよね。僕はこのあとやらなきゃ行けないことがあるので宿で集合にしましょう」
「……だめ……あぶない」
「スピカの言う通りだ」
「日がある明るいうちは大丈夫ですよ。それに用はあっても宿の部屋の中でやることがあるだけで外にはでません……この事態を把握するためにも必要なのです。むしろ、2人だけにすることのほうが抵抗ありますが」
「そう……そうしたら、【リープ】で部屋に戻って絶対1人では外にでないってことなら」
「……やくそく……」
「はいっ。2人のドレス楽しみにしています!」
それは本当に楽しみにしていて笑顔になる。2人は少し顔が赤くなっている。テレたのかな。僕は【リープ】の魔法を使い宿へと戻った……女神さまとあうために……
……
……
「めぐちゃま~!」
女神さまが抱きついてくる。今までにない過度なスキンシップにどぎまぎしてしまう。
「ママ!? どうしたんですか!?」
「周りに2人も女の子を連れていい感じに、なんてそんなチャラチャラした子に育てた覚えはありません! そもそもめぐちゃまはママの子で愛しているのに~」
「ママ! 大丈夫です! 僕もママを愛しているので!」
「ふへぇ~……はっ!? こほんっ! めぐるさんママに甘えたいのは痛いほどわかりますが、ふざけないで聞いてください。現状のことについてです」
「あっハイ」
いや、抱きついてきたのは女神さまでしょ? 前から思っていたけど本当に女神さまってスイッチのON、OFFの切り替わり激しいですよ。でも、本題が聞ける。この街に何が行っているのか……
「72柱の一部が魔王を裏切りました」
「72柱?」
「めぐるさんの全世でも話を聞いたことがあると思います。魔神72柱」
「72柱って72体も魔神がいるんですか!? それって普通にこの世界滅亡レベルでは?」
「めぐるさんのいる王都近郊はほとんど人間ですが帝国、聖教国、魔国に近づくに連れどんどん他種族が増えていきます。それに72柱のごくわずかが現魔王に反旗を翻し、今魔国内は政治的、武力的にもめているのですぐに大事になることはないです。しかし……相手も頭がわるいですね……」
今までに見たことがないようなくらい女神さまが冷たい顔になった。
「魔族……いや魔獣ですね。王都には勇者の他に超越位階が2名います。王都で問題を起こしてもすぐに粛清されます。だから、王都にもっとも近く栄えている街で問題を起こしたのでしょう。そこでの出来事からまずは王都に魔王を攻める口実を作らせた……」
「女神さま……敵は強いでしょうか?」
「めぐるさんとあの2人、あとは王都騎士団のジークなら大丈夫でしょう。……本物であればね……ただ、主の72柱がでたら今のあなた方では壊滅です。リープでお逃げなさい」
「……」
女神さまが神殿の壁に触れた瞬間、バキバキっと亀裂が入る。大気が震えているようだ……
「あの魔神どもめ……私のめぐるに手を出したら神の立場なんて関係なく滅ぼしてやる……」
女神さまの周りにどす黒い影が集まり周囲に闇が発生する。なんか、ヤバそう。息がしずらい。
「……まっママ?」
女神さまはハッとなり、後ろを振り向きいつもの優しい笑顔で
「めぐちゃま、ごめんなさいね。生前のころのわたくしが出てしまいました。もういつもの優しいママでちゅよ~」
尻餅をついてる僕を抱きしめ囁く
「もう、あなたの仲間が迎えに来ます。そろそろ時間です。最後に1人だけ。あなたの中にある本の中に『エンチャント・ウエポン』と題した本があります。それを特訓して極めなさい……」
そう一声残し僕は現実へと戻っていく
……
……
目を覚ますとそこには宿の天井が移った。意識がどんどんはっきりとしていく中
「めぐる……」
と2人の僕を呼ぶ声がした。声のする方へと視線を動かすとそこにはドレスを着た2人が立っていた。ルリさんは黒いドレスでそのプロモーションの良さがはっきりとわかる。青い髪の色が宝石のように輝き黒いドレスが大人の女性の艶やかさを極限に写し出したようだ。そして、スピカのドレスは薄いピンク色のドレス、幼い顔立ちにぴったりの色合いで銀色の長い髪が揺らめく度に可憐さを感じさせられるが、その幼さとは別にあるスピカの爆乳という凶器がまたインパクト与える。
「……」
「めぐる?」
「……おーい……」
「ごめんなさい。2人を見たら言いたいことが山ほど頭に浮かんで……つまり、見惚れてしまいました。2人ともとても綺麗です」
僕は思わず赤面して恥ずかしさのあまり下を向いてしまう。2人は満足そうにニヤニヤしながら僕を挟むように横につき
「じゃあ、エスコートしてもらわないとね!」
「……めぐる……エスコート……して」
「はっ、はひ!」
「ふふっ」
2人に笑われながら宿を出る。食事をする館はいかにも高級感漂うきらびやかな建物。食事も綺麗な食器に盛り付けられ食事は美味しいがかなり堅苦しいものに感じてしまったかもしれない。
「おいしかったですね。ただ少し申し訳ないです。堅苦しい思いさせちゃったかもで……」
「……足りない……」
「私は満足だし堅苦しい感じはなかったよ。よし、今度はスピカを抜いて2人で……いたひいたひ」
スピカがルリさんの頬をつねる。
「……仲間外れ……いや……」
「わかっひゃ! わかっひゃから!」
「一体何をしているのだ!」
少し離れたテーブルから罵声が聞こえる。
「貴様らはそれでも名誉ある高貴な王都騎士団のメンバーなのか! 3日間もありながら何も情報をつかめんのか?」
「申し訳ございません!」
「……かんじわる……」
「スピカっ!」
スピカの口をふさいだが言葉が放たれた後で既に無意味であった……
「そこの無礼もの!」
あちゃー……火に油を注いでしまった。
つづく