第11話(3) アモンの魔獣
ギルドでの一件が終わり僕たちは武器屋を目指していた。道中ルリさんはウキウキしていた。
「めぐるめぐるめぐる~私が守ってあげるからね」
「……ルリ……へん」
「あはは、はい。お願いしますね。でも、ジョブを使いこなすためにこのあと近くの森で特訓しまょう。そのためには武器も買い揃えないと!」
「でも、ランク7って【超越位階】を別にすると上から4番目ですがランク7ってやっぱり凄いんですよね? さっきの騎士団で中隊長させて貰えるくらい」
「そうだね。ランク7だとギルドだと上から数えたほうが早いね。チームを作らないでどこかの貴族直轄の仕事もできるくらいのランクよ」
「なるほど、スピカの特種ジョブは?」
「通常から派生する滅多に現れない希少ジョブで例えば【召喚術者】や【忍】とかね。【盗賊】の隠密、暗殺、窃盗。【アーチャー】の命中制、感覚制とかいい部分を抜粋して使えるジョブ。私浮かれてるけどランク6でも他ジョブよりランク2ぐらい上の価値があると言われているの」
「……?」
「とにかくスピカは凄いってことですよ」
「……(どやぁ)」
どや顔する頭を撫でると嬉しそうな顔をする。そして反対側にいる女の子の頭も撫でる。
「ルリさん……これからもよろしくお願いいたします」
「っつ! ああ! 任せてくれ!」
初めての武器屋に到着する。見た目は豪華な武器屋純白の壁に所々金も使われている。
「ここに入るの……? ここ超高いよ……」
「そうですね……ただこう言う所は高いけど掘り出し物がありそうです。やたら装飾だけしてて高い。装飾は地味だけど効果が凄く他より安めとか」
扉をあけるが軋む音が全くない。きらびやかで沢山の武器が並ぶ中、どちらかというと紳士のような店員さんが近づいてきた。
「いらっしゃいませ。当店は初めてのお客様ですね? 当店は貴族階級の方々、その方とお仕事できるチームランクB以上の方しかご利用できません」
「めぐる、指輪見せて」
「はい」
「確かに指輪に装飾されている青い宝石はランクBの証ですね。ようこそ当店にいらっしゃいました。私は店主のダンテと申します。チーム名とお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「僕の名前はめぐるです。青髪がルリさん、銀髪がスピカです。チームは今日初登録したばかりですが【月兎=玉兎】といいます」
「初登録したばかりでランクBとは素晴らしいです。そのようなお話は中々伺えません。今後の活躍は私も確認させて頂きます」
ダンテさんからのお褒めの言葉を頂き店内を散策する。そして、1本の小刀に目が止まる。見た目は日本刀の小刀に類似しているが刃が燃えているかの如く赤く揺らめいている。
「それは【鬼神刀=烈火】といいます。鬼という上級の魔物がいまして、その中の紅き鬼の角から作られています。系統の小刀はもう1刀ございましてこちらは、翠き鬼の角から作られた【鬼神刀=疾風】です」
「……めぐる……よくわかんないけど……これがいい」
「そう致しましたらこの小刀2刀ください。あとは投げるようのナイフ、クナイのような物を20本ほど頂けますか?」
「かしこまりました。めぐるさまあなたは……おや……ふふっ……失礼致しました。あなた方はとてもいい目利きをしていらっしゃいますね」
ダンテさんの視線に目をやるとそこには1本の剣の前で佇むルリさんがいた。
「……めぐる。申し訳ない。買ってもらうつもりはなかったんだがこの剣が……」
ルリさんの前には透き通るような白銀の剣があった。そこには【オラクル】の自分だからこそ解る神秘的な力が秘められている。
「めぐるさま……あなたもルリさまと同じ上級のジョブでございますね?」
「なぜ?」
「私も若い頃はギルドで野を駆け回っておりました。武器の目利きだけではなく、人の目利きにも自信がございます。あの剣は世界に数本しかない聖剣の一振り【聖剣 クラウ=ソラス】悪を光で裂く剣です。王金貨1枚で取り引きさせて頂いております」
「世界に数本しかない聖剣なのにですか!?」
「はい……開業当初は王金貨1000枚で取り引きしておりました。世界中の方々が訪れましたがその聖剣を見つけることはできませんでした。この店にあるにも関わらず……聖剣は持ち主を選ぶのです。それがわかった今は業物の最適市場価格の王金貨1枚で取り引きさせて頂いております」
「ダンテさん……頂いてもよろしいのですか?」
「はい。もちろんにございます。誰にも見つけられることなくこの店にいるよりは主のもと力を発揮させることこそがこの聖剣の願いでしょう……どうぞ……ルリさま」
ルリさんが聖剣を手に取った際、あたりに光が一瞬立ち込めた。刀身は白い光を帯び生き生きと生命が宿ったように別のものに見えた。
「……ぴかぴか……」
「ダンテさん。ありがとうございます。ルリ=セルルシアン……主を守るため聖剣 クラウ=ソラスと共に尽力致します」
「はい。お願いいたします」
……
……
みなそれぞれ思い思いの武器の購入が終わり、街の外で訓練を行ったあと宿の近くの酒場で食事を行っている。
「めぐる……私は今日を振り返って思ったんだ」
「どうしました? ルリさん?」
「……(がつがつ肉などを頬張る)」
「なんか私はズルいなって」
「ルリさん……」
「私自身大した実力はないのにめぐると出会いなにもしないまま、力を与えられて……地道に頑張ってる人をあっと言う間に追い越してさ。さっきまで訓練してわかったけど、私もスピカも尋常じゃないくらい強くなってる。プラムの街で最強だったボルグすら瞬殺できると思う……めぐるは自分のジョブを手にしたときどう思ったの?」
「僕は……」
上手いことばが見つからない。ルリさんに何を伝えたらいいのか……
「んぐっ!」
いきなりルリさんの口に骨付き肉をスピカが突っ込んだ。
「なんなんら……んぐっ! スピカ!」
「……ルリ……ばか?」
「なんだと!」
ガシャンと机を叩きスピカに掴みかかろうとするルリさんを止める。
「ルリさん! 落ち着いて!」
「……なぜ……おこる?」
「お前はなんとも思わないのか! 急に力を手に入れて! 最初は嬉しかったさ! めぐるを守れると思うことができて! でもさ……それって結局私の力なの? ズルして力だけもらって守るっていえるの!? 周りはどう思うの!?」
「……私は……めぐる守る……周り……関係ない」
「っ!」
「……こんなに早く……強くはなれない……でもラッキー……強くなれた……今日から守れる……」
「……」
「ルリさん……僕はルリさんがズルしたなんて思っていませんよ。むしろ、僕が原因ですし資金も母からの譲りもの。よっぽど僕のほうがズルですよ」
「……そんな……ズルっ子のめぐるを……スピカが守る……」
「ふふっ。ありがとう。ルリさん、あなたと主として最初で最後の命令してもいいですか?」
「えっ」
「僕とこれからも一緒にいてください……周りなんか気にしないで僕だけの騎士でいてほしいです。誓って頂けますか?」
「めぐる……はいっ! ちかいまむぐっ!」
「……スピカがちかうー……」
「んぐっ! スピカーーー!」
「ふふっ、はははっ」
3人の笑い声が響く
「めぐる……誓います。あなたの側に……」
「うん……よろしくね」
「……まあ……ごはんたべなよ……」
スピカの呑気な一言でまたルリさんが笑う。少し途中ブルーになったけれど、いいメンバーだと改めて思った。
……
……
「はあっ……はあっ……なんなんだよ!」
夜の裏路地を男は走って逃げる。止まると消されてしまう。生物の本能がそう危険信号を発している。そして、男は行き止まりに追い込まれてしまう……
「はあっ……はあっ……うっ……うぎゃああああああ」
男が惨殺された。これがこの異世界で僕が巻き込まれる最初の事件となる。
つづく