第10話 ありがとうの対価
スピカによる年増発言から始まったルリとの鬼ごっこが終わり2人の手を握り【リープ】で次の村に瞬間移動する。
「ここが【リューフェ村】ですね。今日の宿を探しましょうか。ルリさんはここに来たことありますか?」
「ここはないよ。すみませーん! このあたりで宿や教会など泊めてくれる場所ってありませんか?」
ルリさんが確認しに通行人に話しかけにいった。僕の横でスピカが服をキュっと握って
「……外にいたほうが……いい?」
「ダメです。一緒に泊まります。例えスピカがバレたとしてもね。というか僕のほうがバレたとき不味いんですけど……」
「……なんで?」
「スピカにはまだ話してなかったよね。夜部屋で教えますね」
「……えっち……」
「何がエッチなんだ!」
「ルリさん! これは違くて!」
「……めぐるが……夜……部屋にこいって……」
「そんなうらやましいことはわたひを差し置いてゆるしゃないぞ!」
「……ルリ……何語?」
あっ、久しぶりに裏返った。
「こほん! ……ルリさん、宿は見つかりましたか?」
「……あるって。でもめぐるは野宿だな!」
「勘弁してください……」
「冗談冗談。宿はこのさきの……」
「たすけてくださいっ!」
村の入り口を見ると小さい女の子が泣いていた。
「メグちゃん!」
めぐるは自分が呼ばれたかと思ってドキッとした。どうやら、小さい女の子の名前らしく近くの村人がぞろぞろ集まってくる。
「ゴンが丘から落ちて足が変ななって!」
「大変だっ! 場所はどこだい!?」
「こっち!」
老若男女5人くらいが女の子についていく……
「んで、話が途中でしたが宿はどちらでした?」
「こっちよ」
「……? ついていかないの?」
不思議そうにスピカが首をかしげる。僕が答えに困っているとルリさんが助けてくれた。
「めぐるの力のことは広めようとはしないでね。実はスピカよりも正体がバレたら大変なの」
「!? ……絶対言わない! ……めぐる守る」
「その仕事は私の仕事なんだけど……とりあえず、宿はこっちよ」
ルリさんの案内を受け、扉を開けると酒場のような場所でむっきむきで色黒で肩まで袖を捲っている男性が元気よく出迎えてくれた。
「いよっ! らっしゃい!」
「こんにちは。3人で1泊したいのですがいくらですか?」
「よっ、色男! 銅貨3枚だぜ! 両手に花とか羨ましいぜ! ちくしょう!」
「あなた……からかうんじゃありません。ごめんなさいね」
むっきむき男の後ろから恰幅のいい女性が出てきた。
「あはは……銅貨3枚です。夜食事もお願いしたいのですがそれは?」
「夜は酒場になってんだからよ! その時食べた分の飯代くれりゃいいよ! そうさな……3時間後くらいに飯食いに下りてきてくれ! そのあとのデザートはそこの2人だろうがな! かっかっかおごおっ!」
「あんたっ!」
奥さんの拳が炸裂しました。旦那さん床に倒れてピクピクしてる。完全に水月に入りました。空手か何かやってるのかな? お手本のように綺麗に入った……唖然としてると妄想されたと思われ……
「「えっち」」
2人の声が重なった……それと同時にドタドタと宿に近づく足音が聞こえ……ばんっと荒々しく扉が開け放たれた!
「おやっさん!」
「なんだ……今……息がっ」
「夫婦漫才かましてる場合じゃねえ! ゴンが!」
「おとーさん! おかーさん!」
さっきの女の子が泣きながら続いてくる……そしてバタバタと犬が担ぎ困れる……犬の腹には木片が刺さっていて、後ろ足が反対側に曲がってしまっている。
「ゴンが丘がらおっごちで!」
「メグおまえは怪我ないなっ!」
「うん!」
「じーさんは!? じーさんは読んだのか!?」
「街に薬買い出しに行ったきりだよ!」
「あと2日は帰ってこない!」
「ちくしょう!」
「ゴン~! やだよ~! ごめんなさい! だれかたすげてー!」
「包帯と硬い棒ありますか?」
「えっ……あんたはっ!?」
「医学に心得があります。部屋を借りられますか?」
「あっ……ああ! 頼むぜ! おいっ! あっちの部屋に運んでくれ!」
部屋に担ぎ込まれる。
「僕とスピカ以外は部屋から出てください! ルリさん! 誰も来ないように部屋の入り口で見張ってて!」
「わかった!」
全員が外に出たことを確認して、刺さっていた木片を引っこ抜く!
「【ヒーリング】」
犬の怪我がゆっくりと治っていく……犬が気がつく前に銅に包帯を巻き、後ろ足に枝を付けまた包帯を巻く。
「【プロテクション】」
結び目に2~3日持つようにプロテクションをかけ外れないようにする。誤魔化すための口実だ……
「わんっ!」
「スピカ、外に出て報告してきてくれますか?」
こくこくとスピカは頷いて外に出た。心配そうな村人たちの前で
「……んっ(親指を立ててグッドサイン)」
『いよっしゃーーーーーーっ!』
村人たちの大声が響く。
「ゴンーーー!」
女の子が入って来て犬に抱き付く。
「わんっ!」
「こーら、傷が開くかもしれないから優しく撫でるんだぞー」
「お兄ちゃん! お姉ちゃんたち! ありがとう!」
「ありがとうございます! 旅の旦那に借りができてしまって! 治療費は……」
「いらないですよ。」
「いいや! 俺の気がすまねぇ! 払わせてくれ!」
「……そしたら、銅貨3枚で結構です」
さっきの宿代分のみだ。
「え……くぅっ! 気に入ったぜ! 旦那! 名前は!?」
「めぐるといいます」
「うちの娘と一文字違いとはますます気に入った! よし! めぐるの旦那! 今日は好きなだけ飲み食いしていってくれよ!」
えっ……結構です! と断ろうとしたら……
『やったぜーーーーーー!』
と後ろの村人たちが盛り上がる!
「バカ野郎! うちの店潰す気か! てめえらは一杯だけだよ!」
『ぶーぶー』
「はははっ!」
笑っているとルリさんとスピカが抱きついてくる。
「……めぐる……かっこいい」
「めぐる偉いよ……」
『ひゅーひゅー色男ーーー!』
沢山の掛け声の中、足がぎゅうっとしまる。下を見ると女の子が抱きついて
「お兄ちゃんありがとう! だーいすき!」
そしてまた冷やかしの声が上がるのだった。
……
……
その夜、酒場はかなりの賑わいを見せた。どんちゃん騒ぎだ。マスターも「俺はめぐるの旦那に一目見た時からできる男だと思ってたんだ!」と豪語している。そして、そんな僕を一目見ようと村娘たちも店に集まっていた。……モテ期到来かと思いきや別で助けた2人の番犬が「……がるるるるるるるる」と威嚇して近寄らせない。助けた女の子のメグちゃんだけが近くにいた。
「ねーねーめぐるお兄ちゃんのお嫁さんはどっちなの?」
「わたしだっ!」「……わたし……」
「がるるるるるるるる」
身内でも威嚇し合わないでくださいよ……
「じゃあ、わたしがなってあげるね!」
「はいはーい! 私も立候補しちゃいまーす」
「だめー! めぐるお兄ちゃんは私と結婚するのー!」
「僕はまだ結婚なんて考えてないんですよねー……」
「うちのメグちゃんは不満か! このやろう!」
「うるせーぞ! 頑固オヤジ!」
「おめーらのほうがうるせいだろうがぃ!」
賑やかな店の雰囲気で居心地がいい……
「スピカお姉ちゃんの銀色の髪綺麗! 触らせてー」
「あっ私たちもー」
だから油断してしまったのかもしれない……
「……っハーフエルフ!?」
「お姉ちゃんなんで耳障り尖ってるのー?」
なんだって…… ハーフエルフだってよ…… 縁起わりいなおい…… 周りは人間なのによ……
先ほどまでの愉快さが嘘のように静まり帰ってぼそぼそ話し声が聞こえてくる。ここでもか! 助けてやったのにと僕の心の中で黒いものがモヤモヤしてくる……しかし、この雰囲気は別の形で崩れさる……
どがんっ!! カウンターをマスターが殴りつける!
「ぐちぐちぐちぐちうるせーぞ! このやろう! ここにいるのはな! ここにいるのは恩人だぞこのやろう! みっともない真似するんじゃないぞ!」
「あんたっよくいったよ! 流石あたしの旦那だよ! ……自分の立場になってごらんよ! おまえたち! あたしたちは恥さらしになってもいいんかい!」
「めぐる……」
ルリさんが手を握ってくる。誰かが自分より怒っていると人間とは不思議なことに冷静でいられる。席を立ちマスターに近づく……
「旦那……すまねえ! 恩人なのによ!」
「めぐるさん、申し訳ない!」
頭を下げる2人に優しく……
「マスター……ここにいる皆さんに至急飲み物を配ってください」
「えっ……あっああ!」
……
……
全員に飲み物が行き渡るのを確認して
「皆さん、聞いてください。僕は犬のゴンの怪我を治療しました。普段の皆さんの怪我や傷もお医者が治したり、軽減してくれます……でも、心の傷には特効薬はないのです! 何気ない言葉で一生立ち上がれない傷を負うこともあるんです! 僕の仲間だけじゃなく僕も、あなた方が慕っているマスターたちもそうなんです! 軽々しく言わないでください!」
静まり返り……すまないという声が反復する。僕は金貨を3枚掲げ
「今日はマスターに免じて許してやる! それと説教で盛り下げちゃった僕の奢りだ! 好きなだけ飲み食いしろ! 盛り上げ直せ! 無礼講じゃーー恩知らずどもーーー!」
『うおおおおおおおおおお!』
先ほどの活気が戻ってくる! これでよかったんですよね?
どごっ!
「めぐる! ……好き! ……好きー!」
「ちっ、今日だけは譲ってあげるよ」
「……ちゅー……」
「ってそればだめー!」
ルリさんもバタバタと飛び付いてくる!
『ひゅーひゅー! いいぞ! たたかえー!』
盛り上がりの中、時間が過ぎていく……わかってくれる人たちもいるんですね……ぼくはやるべきことの一端に触れた気がしたが深く考えずただただ、この楽しい一時を満喫するのであった
つづく