第8話(3) ここにいていいんです!
僕の唱えた魔法【キュア】は回復と状態異常を両方こなして暮れる上級回復魔法。この魔法の強みは体に異物があったとしても取り出してくれることだ。彼女に近づき頭を撫でる。そして、巻き込まれないように魔法をかける。もちろん自分にも
「【プロテクション×2】……もう、大丈夫だからスピカちゃん」
優しく微笑むと彼女が涙する。
「……どうして……きてくれたの? ……私は……嫌われ者……世界にいちゃいけない……」
「また、そんなこと言って」
彼女の頬を軽くつねる
「……ふぇ……」
「大丈夫ですよ。スピカちゃんはここにいていいんです。もし、そんなこと言う奴がいても無視しましょう」
「……ふぇーん……もう……来てくれないかと……2度と……会えないかと……」
「僕で良ければ側にいますから……」
涙するスピカちゃんを撫でていると突然あらわれた僕に唖然として思考停止した3人がようやく状況についてこれた。
「あっ、あんたいきなりどうやって! それに【キュア】は上級回復魔法よ!」
「なっなんだって!」
「うるさいです。スピカを殺そうとした……いや、その暴力なら回復できる。けど、お前らの言葉で傷ついた心は僕の魔法でも回復できない! 僕はお前らを許さない!」
「っち、だったらなんだよ! 3人対1人で勝てるのかよ? こっちはランク4【ブレードウォリャー】ランク3【ミドルキャスター】【盗賊長】だぞ!」
「僕はランク7【プリースト】です」
「ぷっ……はっはっはっはっ!」
あれ? いくら3人いてもランクの差があるから脅しになると思ったんだけど笑われてる!?
「いくら上級職とは言え【ヒーラー】系列ね! ビビって損したわ!」
「回復しか能がない連中なんて仲間なら便利だが、敵で1人で来ても囲んでボコるだけだぜ!」
いやいや、こいつらアホですか? 僕はいきなり現れた時点でヤバい奴ですよね? まあ、3人もいるのに頭が足りない連中で助かったと思っておきます……でも、隙だらけですよね?
「【ラピッド】」
僕は小声で高速移動魔法を唱え、瞬時に盗賊職のひょろひょろした男の隣に移動する。僕は低く飛び相手の太股やや上と膝裏を自分の両足で挟み込み、男の腕を持ち斜め後ろに体重が移動するように倒れこむ……
「うお……あっ!ああああああ!」
びきっ! とした手応えがあった恐らく靭帯が切れたのであろう。この技は柔道で骨折、靭帯損傷などの負傷者が多く禁止とされた横捨て身技【蟹挟】である。めぐるは素早く【蟹挟】の際に掴んだ相手の腕を足で挟み込み同じく柔道技【腕十字固め】腕を抱え込みゆっくり後ろに倒れじっくりと力を入れて行くのがスポーツだが、勢いよく後ろに倒れ地面に着くと同時に力を込める……
バキっ!
「うぎゃああああああ!」
腕がへし折れる。これでこいつは無力化した。十字を決めた勢いで後ろに回転し飛び退くと、目を丸くした2人がいた。
「これでもう2対1ですね」
「てってめぇ! 何をしやがった!」
「僕の体術で1人を無力化しただけですよ?」
「ひっひどいわ! 腕が反対に曲がっているわ! 早く回復を! ポーションを!」
「へぇ……ポーションで回復するんですね。見てみたいです」
「なんだ……こいつは……」
好奇心で見ていたらそれが狂喜に見えていたらしい。このまま脅しますか。
「もう……帰れよ。殺しはしないけど壊すよ?」
「ひいっ!【ファイヤーボール】」
魔法使いが放った魔法は僕ではなく、スピカちゃんのほうへ飛んでいった。しかし、【ラピッド】の効果が残っている僕は炎よりも早くスピカちゃんに到達と同時に抱えてその場を離脱。
「いっ……今のうちに逃げふっ!」
魔法使いの女に追い付き顎に掌底を打ち込んだ。歯が何本か折れ大量の血が溢れた。そのまま女を掴み男につき渡した。
「手を出すなら消えてもらいます。もうこれ以上は何もいいません。」
「わっわかってる! おれは手を出さねぇ……お前らにも今後関わらねぇ……すまなかった」
「仲間を連れて早く消えてください」
「あっああ! すぐっ……すぐきえるからよぉ!」
男は震えながら2人の仲間を担いで林をかき分け逃げていった。【シックスセンス】で感覚を研ぎ澄まし奴らが離れていったことを確認してスピカちゃんに近寄る。
「スピカちゃん! 大丈夫!?」
スピカちゃんは悔しそうに拳を握りしめ泣いていた。
「……パパ……ママ……」
「スピカちゃん……」
「……あいつら……バカにした……酷いこといった……私……訂正させられなかった……」
「スピカちゃんはパパとママ好き?」
「うん……好き……」
「だよね。僕はスピカちゃんのお父さんとお母さんってとても凄いと思うよ」
「……どうして?」
「だって、普通は恋に落ちても酷い目に合うのがわかっているのに2人は愛し合って一緒にいたんだよ? 命の危険がわかっても一緒にいたのはお互いが思い合って本当に愛があったと思います」
「……ふぇ……」
「だからさ。2人の愛の結晶のようなスピカちゃんがこの世にいちゃいけないわけないんだよ」
「ふわあああああん!」
「他のみんなが嫌っても僕が側にいるからさ。スピカちゃんはここにいていいんだよ……」
僕に抱きつきながらスピカちゃんの鳴き声だけが響き渡った……
つづく