第6話(2) あんたプリーストでしょ!
女性が叫んだ一言により場の空気が一変する。先ほどまでは懇願の声が一気に罵声へ……
金が目的か! ふざけるな! つべこべ言わずさっさと治せ! この偽善者! クズ! それでも聖職者か! 殺すぞ! 嘘つき! 見下してるんじゃねー! おりてこいや! 治療しろ!
石や物が飛んでくるだけでなく、外のドアを壊そうとする音も聞こえる。自分の言葉が通じないことにショックを受ける……そして、住民の身勝手さに嫌気がする……
「なんなんだ! あいつら! 好き勝手にいろいろ言って!」
「ルリさん……もういいよ……荷物を持ってそばに来て……」
買い集めた道具を鞄に詰め込み、ルリさんを抱き寄せる……そして、移動魔法を唱える。
「【リープ】」
2人の体が部屋から消える……
……
……
フォン!
「こっ……ここは?」
「ルリさんと初めて会った場所よりもちょっと離れた所です」
そう……ここは初めて異世界に来たときの木の下。街で地図を買った際、位置は把握しているから何かあった時はここに飛ぼうというのは決めていました。
「本当にめぐるの【リープ】という移動魔法は凄いよね! 私なんかまほう……」
ダンっ! 木の幹を殴る……
「どうしてっ! どうしてなんだよ! 僕は助けようと思ったんだ! でも、どうしようもないじゃないか! 回復魔法にも条件がある! だから出来る限り! やれることを少しずつでもやろうとしたのにっ! 金を要求なんて一言も言ってないだろうが! ちくしょうっ!」
悔しくて涙がでる。何も聞いてくれない。聞こうとしてくれない。身勝手な人たちに。気持ちがどんどん暗くなる……
そんな時ガバッ! っとルリさんに抱きしめられた。
「めぐるっ!」
「……ル……リさん?」
「私はめぐるを守る為にめぐるの騎士になった! でも……でもっ! 街の人が押し寄せたとき何もできなかった……私は何もできなかったんだ……。めぐるは違うっ! 集まった人に臆さず、自分の意思を伝えた! 出来ないことはあるけど出来ることは力になると! 私はそんなめぐるのことをとても凄いと思う!」
「ルリさん……」
「私はめぐるを主として決めて本当によかったと思うよ! 今回守ることができなかった不甲斐ない私を許して……」
ルリさんの一生懸命さに心が軽くなった気がした。
「頼りないかもしれないけど……これだけは知っていて欲しい……世界の全てがあなたを……めぐるを嫌いになっても私は! 私は絶対にあなたの味方で側にいるからっ!」
「ふふっ……」
「なっ、なぜ笑うっ!」
「いや、ごめんなさい! 普通は女の子に対して男がかっこよく決める場面かなと思って!」
「わっ、私は女だぞっ!」
「うん! ルリさんはもともと凄い可愛いと思うし、そういう部分は凄い尊敬するよ!」
「えっ、そっ、そうかな~」
にへえ~と顔が緩むルリさんに癒され落ち着きを取り戻すことができた。
「ルリさんのお陰で元気が出たよ! 今はまだ夕方。宿の扉にかけた【プロテクション】は2日は持つように魔力を込めたからこの2日でできるだけ遠くの村、街に移動しましょう」
「そうしよう! でもめぐるは大丈夫なの? めぐるは【オラクル】で【超越位階】のジョブ……騒ぎにならないかな?」
「僕は目立ったことをしなければ大丈夫だと思います。例えば、ルリさんは大きな街に住んでいます。片田舎の中小規模の街で【初めてジョブ登録をした何処かの田舎物が世界で9人目の超越位階】って噂を聞いたらどう思いますか?」
「……いや、信じない」
「ですよね? それが普通の反応だと思います。頭がいい人でも街の流通を良くしたりするためのプロパガンダだと感じるでしょう」
「ぷろ……ぱがんだ?」
「あー。プロパガンダ。宣伝、広報ってことです」
「なるほど! 確かに! めぐるは凄いなここまで考えるとは!」
「地図を見ましたが夜までに3~4つ離れた村……そうですね……ここ! 【リュリュン】って村にいきましょう!」
「【リュリュン】!? その場所は早馬でも1週間は掛かるぞ!? 無理だ!」
「大丈夫! 【ラピッド】!」
【ラピッド】は行動強化魔法。買い物の際試したが瞬間移動の【リープ】とは違い。とんでもなく早く動くことができる。100メートルくらいは瞬きの間に走りきるだろう。
「ルリさん……ちょっといいですか?」
「ひゃっ!? めぐる!?」
ルリさんを抱き抱える。お姫様抱っこのような形だ。
「目を瞑ってしっかりと捕まっていてくださいね……っ!」
ルリさんを抱いて走り抜けていく……次の村【リュリュン】へ向けて……
つづく