ミステリー研究会と美少女依頼人②
知夏ちゃんは横を向いてふぅっと一度嘆息して、俺の顔を改めて見直して言った。
「悠先輩も、たいがいなおバカさんですねぇ〜」
うわぁー、これだよ、これ!
ほんわかした顔と、ほんわかした声で、キツイこと言われると想像以上にこたえるもんだよな。
「そんなの決まっているじゃないですかぁ〜。それは葵ちゃんが悠先輩のこと………………もがっもがっもがっ」
いつからそこにいたのかは知らないが、葵がすごい形相で走って来て、知夏ちゃんの口を押さえる。
「ち・か・ちゃーん!」
「もがっ、もがっ、もがっ」
「余計なことはいわない!」
葵は今にも射殺しそうな視線で、知夏ちゃんを睨む。
「もがっ、もがっ」
完全に威圧された知夏ちゃんは、葵の言うことに、口を塞がれた状態でうんうんと頷いている。
「あははは……何でもないわよ。今日はただ機嫌が悪かっただけよ」
絶対に違うだろ。
今、おまえがとっている行動と、その乾いた笑い声が、そんな理由では無いことを雄弁に物語ってるじゃないか。でも、まあ、言いたくないんならしゃーねーか。
「そうなのか?」
「そうなの! そんなことより、わたしが昨日頼んでたこと覚えてる?」
ん? 昨日、何か頼まれたっけ? 朝のことがあって全て頭の中から飛んじゃってるぞ。
んーーーーーーと。
「ああ、友達がトラブルに巻き込まれたみたいで、ミス研のみんなに相談にのって欲しいってやつね」
「あんた、もしかして忘れてたんじゃないでしょうね」
俺をギロリと睨みつける。
「あははは……そ、そんなわけあるはずがないじゃないか」
「そう。じゃあ、その子を今呼ぶわね」
葵はスマホを取り出して、依頼人であろう相手と話している。その様子を横目で見ながら、部長が俺に小声で話しかけてくる。
「和紗くん。君の妹の依頼って厄介な事件かな?」
「どうでしょう。俺は依頼の内容を聞いていないので分かりませんが、妹がミス研を頼ってくるってことは普通では考えられないので、多分厄介な方の事件だと思いますよ」
「そうか………………じゃあ、私はこれからデートの約束があるので、後のことは任せるよ」
俺は部室から出ようと歩き出した、部長の制服の襟を後ろから掴んで引き止める。
「部長! 何で逃げようとするんですか!」
「は、離しなさい……和紗くん! 私にはかわいい女の子が待っているんだ!」
必死にもがいて、俺から逃げようとする部長に再び、知夏ちゃんのほんわか声の爆弾が投下される。
「残念でしたぁ〜。その女の子って一年二組の花木さんですよね〜。わたしが昼休みにキャンセルしておきましたぁ〜」
「…………そうなの?」
「は〜いっ」
部長は悲壮な表情で、その場に崩れ落ちる。
「な、なんてことだ。せっかくデートの約束を取り付けたのに……」
「ってぇ、実はそんなにショックでも無いんじゃないですかぁ?」
知夏ちゃんは崩れ落ちている部長に向かって平然と言ってのけた。まあ、部長の女癖の悪さから考えると、妥当な意見だと俺も思う。
「あははは〜、わかった?」
部長は悲壮な顔から一転、軽やかな笑顔で顔を上げた。
「わかりますよぉ〜。どうせ依頼人と会うのがイヤで、デートの予定を入れたんですよねぇ」
「うーん、バレてたか。私はほら、面倒なこと得意じゃないからさ、そこはうちのエースに任せるということでいいんじゃないかと」
なんでそこで俺にふる!
「全然良くないですし、勝手にエースにしないでください!」
「やっぱりダメか」
俺の言葉に、部長は頭をかきながら苦笑いを浮かべた。
コンコン。
話しているうちに依頼人が到着したのだろう。部室の扉を叩く音が鳴った。
「すみません。依頼の予約をした者ですが、入ってよろしいでしょうか?」
「どうぞお入りください」