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動き出した犯人⑧

 俺たちは科学生物部室を出て、美咲ちゃんの教室へ向かった。葵は美咲ちゃんに寄り添い俺の前を歩いている。

 この時間になると部活の生徒は体育館や校庭へ、部活のやっていない生徒は帰宅しているので、校内は閑散としてくる。

 俺は前を歩く二人を見ながら、とりあえずは美咲ちゃんが無事見つかったことに安堵した。


 そして、歩きながらもう一度、今回起きた事について頭の中で整理してみる。


 五時間目と六時間目の間に美咲ちゃんが香月先輩に拐われる。拐われた方法はまだ分からないが、美咲ちゃんの証言から何者かに背後から襲われ、気を失っているうちに科学生物部室に連れて来られたってことになるよな。

 犯人は美咲ちゃんをガムテープで手足の自由と声を出せないようにして、あらかじめ、用意してあった弓と矢の仕掛けを設置した。

 その後、俺の携帯電話に美咲ちゃんの居場所を知らせる電話をする。


 んー、なんだろう、何かチグハグな感じがする。

 犯人が香月先輩だとして、あの弓と矢の仕掛けは何故必要だったのか?

 携帯電話で美咲ちゃんの居場所を教えた理由は?

 そして、何より、香月先輩は今、何処にいるのか?


 そんな俺の疑問をかき消すように、再び、携帯電話が鳴った。


『はろ、はろ。美咲ちゃんは見つかった?』


 小早川部長だ。


『はい。科学生物部室で監禁されていました』

『科学生物部室?』

『どうかしましたか?』

『いや、和紗くんが言ったとおり上野先生と柳田の所在は確認したのだが…………』

『それで、二人は何処に?』

『ああ、上野先生は職員室で、柳田はまだ教室にいた』

『二人は6時間目は何をしていたのですか?』

『上野先生は授業に出ていて、柳田も授業を受けていた。両方とも確認はとってある』

『そうですか…………』

『で、もう一人の香月だが』

『香月先輩がどうかしたのですか?』

『偶然、柳田の教室にいたのだよ』

『えっ?』

『何だか柳田の教室で飼っているハムスターの具合が悪いとかで様子を診に来てらしい』

『今もまだいるんですか?』

『いるよ』

『分かりました! 今すぐにそっちに行きます!』


 俺は前を歩く、葵と美咲ちゃんに声をかけてた。


「ごめん。急用ができた。二人は先に教室に戻ってて」

「ん? 何かあったの?」

「まあ、ちょっとね」


 葵の追究をごまかした。葵が香月先輩が見つかったことを知ったら、飛んで行って有無を言わさず、ぶん殴りかねないと思ったからだ。

 俺は二人を置いて、三階の三年生の教室に急いだ。

 三年生の教室に着くと、部長と知夏ちゃんが待っていた。

 教室には部長と知夏ちゃん、そして、香月先輩以外は誰も居らず、室内は静まりかえっている。

 そんな中、香月先輩は俺たちには目もくれず、ハムスターを手に取り真剣な眼差しで見ている。


「あの、少し、話しを聞かせて貰えませんか?」

「君にはこの状況が見えないのかね」


 香月先輩はこちらに目をくべる事無く言葉を発する。


「ハムスターの具合が悪いのは聞きましたが、こちらの用件も重要な話なので」

「何だね?」

「六時間目の授業は受けられましたか?」

「当然じゃないか」

「では、五時間目と六時間目の休み時間は何処にいらっしゃいましたか?」

「自分の教室に居たが、何だかまるでアリバイを調べられてるようだが?」


 香月先輩は変わらずハムスターを見たままで、声のトーンも変化無く話しを続けた。


「ええ、おっしゃる通りアリバイを聞いているのです」

「どうしてだ?」

「それは行方不明になっていた1年生の生徒が、科学生物部室から監禁状態で見つかったからです」

「な…………」


 この時、初めて香月先輩の神経質な青白い顔に表情が宿った。

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