動き出した犯人⑥
『はろ、はろ。和紗くん、どうしたんだい?』
緊張感の無い声が携帯電話のスピーカーから流れてくる。
『今、部室ですか!』
『そ~だよ。何、慌ててんの?』
『そんな呑気にしてる場合じゃないですよ!』
『ん? ああ、私のファンたちが私に会いたいって言ってるのだね。よろしい。何時でも部室に連れて来なさい』
わちゃ〜。ダメだこりゃ〜。
俺の横で今の会話を聞いていた葵が「本気で、今度殴っていい?」って言っている。
今回は俺も葵と同意見だ。
『部長! ふざけないで下さい。美咲ちゃんが大変なんです!』
『いや、私はいつも真剣だが。唯倉さんがどうかしたのか?』
『行方不明になったんです』
『行方不明?』
『五時間目と6時間目の授業の間に。で、部長には美咲ちゃんの机の中に封筒を入れた犯人かもしれない三人の内の、上野先生と柳田先輩の所在を確認して貰えませんか? 俺は香月先輩の所在を確認します』
『分かった。こちらは知夏ちゃんと手分けして二人を所在を確認する』
『よろしくお願いします』
部長との通話を終えて、葵を見るとまだ怒りが収まらないって感じでぷんスカしている。
「まあ、そんな顔してないで、俺たちは香月先輩がいる化学生物部の部室に行くぞ」
「分かったわよ! でも、どうして三人の中で香月先輩を選んだの?」
「それは簡単なことさ。美咲ちゃんを隠すには都合が良いからさ」
「?」
「まず、上野先生だけど、職員室と担当教科の学級の行き来で、自分が自由に使える教室を持っていない」
「つぎに、柳田先輩は、サッカー部の部室があるけど今の時間になると部員たちが集まりはじめる。美咲ちゃんを隠そうにもどうやったって見つかるはずだ」
「あ、そういうことか! 香月先輩だったらあの辛気臭い部室があるから美咲ちゃんを隠すのにはもってこいってわけか!」
「うん。その通りなんだけど、辛気臭いってのは言いすぎじゃない?」
「ううん。言いすぎじゃない! だって、あの部屋、本当に何が出でも不思議じゃないくらいに気持ち悪いんだもの」
「そりゃあ、そうだけど…………」
俺だってあの部室の扉を開けた瞬間に、閉めたくなるほどの不気味さを感じはしたけど。
「こうなったらお化けでも妖怪でも出てこいっーの。美咲ちゃんを助けるためだもの」
いやいや、さすがにお化けや妖怪は出てこないと思うけど。
「よし、とりあえず、科学生物部室に行ってみるか!」
と、走り出そうとした時、俺の携帯電話が鳴った。
「誰だ! このくそ忙しい時に!」
着信画面を見ると、そこには美咲ちゃんの名前が…………。
「美咲ちゃんからだ!」
「えっ! 無事なの?」
「無事とは…………限らないかな」
俺は携帯電話の録音機能をオンにして電話に出た。
『はい』
『和紗 悠か?』
電話口の声はこもった電子音で、明らかに音声を電子変換させたものだ。
『そうだ』
『唯倉 美咲は科学生物部室にいる。助けたければ今すぐに来い』
『誰だ! お前は?』
『さあ、俺は誰かな? あはははは…………あーはははは…………』
そして、通話は途絶えた。




