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動き出した犯人③

「あんた、腕は大丈夫なの?」

「全然大丈夫だよ」


 今朝も俺は葵と美咲ちゃんのボディーガードしながら登校している。


「お兄さん、昨日ので怪我したんですか?」

「いやぁ、ちょっとね」

「えー! どこですか? 痛みます?」


 美咲ちゃんが、俺の体をあちこちと見回す。


「本当に大丈夫だから」


 俺が美咲ちゃんと話をしている間、葵は妙にキョロキョロと周りを気にかけている。昨日の事があって、不審な人物がいないかどうか目を配っているようだ。

 俺はポンと葵の頭に手のひらを乗せる。


「そんなに気を張ることはないよ」

「でも…………」

「こんな疎らにしか人がいない場所では何も出来ないよ」


 美咲ちゃんのボディーガードを始めてから、いつもの登校時間より早めに家を出るようにしているので、通勤通学の人もそれほど多くない。


「えっ? 何かあったんですか?」

「いや、何も無いよな、葵」

「そ、そうね。あはははは…………」

「そうですか?」


 美咲ちゃんは訝しげに俺と葵を見ている。


「ああ、そういえば、以前から聞きたかった事があるんですけど?」

「ん? 何かな?」

「お兄さんって、たくさんの事件を解決されてるんですよね?」

「たくさんかどうか分かんないけど」

「じゃあ、中には殺人事件なんかもあったんですか?」


 …………殺人事件。

 俺の背中を冷たい汗が流れ落ちる。


「あ…………、あ…………」


 何かを口から発しようとするけど、言葉にならない。そんな俺の姿を見て葵が助けに入ってくれる。


「まあまあ、そんな事はいいじゃん! 美咲ちゃん。今日は学級委員長の仕事はいいの?」

「あっ、忘れてた! 急がないと!」


 美咲ちゃんは慌て駆け出していった。


「あんた、大丈夫なの?」

「ち、ちょっと、大丈夫じゃない……かも…………」

「ったく!」


 俺は道の端にしゃがみ込んだ。

 殺人事件…………。俺の過去の過ちであり、名探偵になりたいという夢を諦めた事件。今でも夢に出てくるし、一生背負っていかなければならない出来事。

 俺の体はどんどん冷たくなっていき、震えも止まらなくなっていく。


 葵は俺の背中に両手をそっと添え、頬を近づける。


「大丈夫。私がついている」


 数分間、そうしていただろうか? 俺の耳に届いた囁くような葵の声は、徐々に俺の震えを抑えていき、冷たくなっていた体も温かさを取り戻していった。


「ありがとう。もう、大丈夫」


 葵は俺の背中からゆっくりと手を放した。


「まったく、こんな人のいっぱいいる所で、本当に恥ずかしいんだから!」


 顔から耳まで真っ赤にして、いつもの不機嫌そうな声で話してくる。

 ったく、いつも葵には敵わないな。言いたく無いけど、俺にとって最高の妹だよ。

 本人に直接言わないけど…………。

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