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殺人犯の手口?②

「じゃあ、よーく聞けよ。手にしていた包丁は、母さんと朝食の準備をしていたからで、慌てて僕を起こしに来た為に置いてくるのを忘れてしまった。それから、物音を立てないように部屋に入ったのは、寝ている俺を驚かそうとしたから」

「だいたいは合ってるわね」

「だろ〜?」

「うざっ!」


 俺の得意げな顔を見て、葵はいっそう不機嫌になった。


「そんな推理、わたしの格好を見れば誰だって解るわよ」


 俺は学校の制服の上に、付けているエプロンに目を移す。とは言うものの、葵は胸が大きい方で(サイズがどれだけなのかは知らないけど)腰で結ばれたエプロンの紐が、やけに大きな胸を強調する形になっていて、目を留めておくには気恥ずかしくて、目線をすぐに上げた。まあ、妹の胸が大きいからって凝視する兄はいないだろうが。


「ま、まあ、そうだな。じゃあ、寝起きドッキリしようとしてたのを当てた理由を聞きたくないか?」

「どーでもいいけど、一応聞いてあげる」


 そう言って葵は、左手にある物を自分の体の後ろに隠した。


 どーでもいいって、ひどくないか?


 俺、もう少しで死んでたかも知れないんだぜ。葵が隠した左手に、わさびのチューブを持っているのは分かっているけど…………なんか癪に障るので、俺はこの生意気な妹に少し意地悪してやることにした。


「それはね…………。顔だよ!」

「えっ、顔って、わたしの顔?」

「そう。そう。葵の顔」


 俺はそう言いながら、意味ありげに含み笑いを浮かべてみせた。


「えっ、えっ、何か変? 何か顔に付いてる?」


 おお、焦ってる、焦ってる。


 葵は慌てて、自分の顔に手を当てゴシゴシ擦っている。髪を後ろに束ねたポニーテールで、二重まぶたのクリッとした目、少し丸顔の葵はずっと一緒に育ってきた僕には感じられないが、他の人から言わせるとかなり可愛いらしい。でも、そんなことを気にも留めていない葵は、頰っぺたを思いっきりゴシゴシするもんだから珍妙な変顔になった。


「ぷっ、あははは〜、違うよ。そうじゃないって」

「ん?」

「俺がおまえの声を聞いて飛び起きたときに顔が合ったよね。その時におまえの目が、ほんの少しだけ泳いだんだよ。目が泳ぐってことは何かやましいことがあるはずで、俺に対して殺意が無いとしたら、考えられるのは寝ている俺を驚かそうとしたってことさ」

「ふーん」

「ふーんって、俺の推理力すごいだろ?」

「まあまあね」

「だろ。なんてったって、ミス研(ミステリー研究会)のエースって言われてるからね」


 俺は学校の部活で、ミステリー研究会に所属してる(正確には同好会なのだが)。そのミス研の部長が、俺のことを次の世代を担うエースと呼んでいる。まあ、その部長自身が一風変わった人なので、その言葉通りに受け止めることは出来ないのだが。


「エースってなに? 野球部のピッチャーじゃないんだから」

「それだけ部員のみんなから期待されているってこと。俺に解けない事件はない! なーんてな」


 俺は左手を腰に当て、右手の人差し指を前に突き出してポーズを決める。そんな俺の姿を見て、葵は小馬鹿にした様に軽くいなした。


「はい、はい。勝手に言ってれば…………。でも、ミス研って、部員が三人だったわよね。三人しかいないのにエースって言われてもね〜」

「それはそうだけど…………」


 葵の言う通り、ミス研の部員は三人しかいないだよなぁ。よく、部活として存続しているものだよ。

 ふと、ベッドの斜め上方にある、机の時計に目をやると七時を過ぎていた。せっかくの微睡みの時間が台無しになったけど、それを理由に学校へ行かないなんてことが出来るはずも無い。

 俺は学校へ行く準備を始める為に、ベッドから立ち上がった。


「……キャッ! な、な、な、何してるのよ!」

「えっ? 何って、着替えだけど」


 パジャマから制服に着替えるために、ズボンを下げた俺を見て、葵は真っ赤になって顔を両手で隠している。


「なんでわたしがいるのに、平気でズボンを下げているのよーー!」

「いや、着替えなきゃ学校に行けないだろ?」

「そういうこと言ってるんじゃないの!」

「じゃあ、何のこと言ってんだよ」

「高校生の女の子がいる前で、堂々とズボンを下げるなんておかしいと思わない!?」

「高校生の女の子って……妹だろ、別に何もおかしくないと思うけど」


 ドスッ!


 葵の前蹴りが俺のお腹にキレイに決まる。俺はそのままベッドに倒れこんだ。


「ぐはっ! うぐっ………………っ」

「妹だろってなによ! わたしだって普通に女子高生なんだからね!」


 バタン!


 お腹を押さえてうずくまっている俺に葵は早口でまくし立てて、部屋のドアを思いっきり強く閉めて出て行った。


「……はぁ? 俺、なんか気にさわること言ったか?」


 倒れ込んだベッドの目の前で、不気味に光る包丁の刃が、こちらを睨んでいるのに気づき、俺の体から冷や汗がぶわっと吹き出した。


「あ、あぶねぇ」


 今日、二度目のギリセーフだ。


 俺はベッドに突き立っている危険物を抜き去り、急いで着替えて、朝食の用意がされているリビングへと向かった。

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