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動き出した犯人①

「ほら、あんたのせいで信号に引っかかたじゃない」


 ちょうど、俺たちが横断歩道を渡ろうとしたところで、信号機が赤へと変わった。


「葵ちゃん、それはお兄さんのせいじゃないわよ」


 美咲ちゃんの言う通り、信号機が赤になったのは俺のせいではない。とんだ言いがかりだ。


「そうだよ。赤になったのは俺のせいじゃ…………」


 そう言いかけた時に、突然、俺の体が車道側にぐらりと傾いていく。


 えっ!?


 今、たしかに背中を強い力で押されたよな。

 横を見ると、大型トラックが俺に向かって走って来ているのが視界に入る。


「キャーッ!」

「あぶない!」


 キィィィィーーーーーーィィィィーー!


 葵と美咲ちゃんの叫び声と、トラックのブレーキ音がシンクロする。

 ブレーキの金属の焼け付く匂いと、路面をタイヤが滑っているのだろうか、ゴムの擦れた匂いが鼻につく。トラックは必死に止まろうとしているのだろうが、どう見ても止まりそうにない。

 こんな場面なのに、妙に覚醒している頭でこのピンチを何とかしなきゃと、考えてはいるのだが、何か妙案が浮かぶ訳でもなく、俺の体は地球の重力に引かれて倒れていく。


「ダメか…………」


 そう諦めた瞬間、葵が大きな声を発する。


「諦めるなんてあんたらしくないつーの!」


 葵の声とともに、葵が俺の制服の背中を掴み、勢いよく歩道に引き戻した。

 間髪を置かず、俺の鼻先を大型トラックの車体がスローモーションのように通り過ぎる。


 ギリセーフだ。


 横断歩道の手前で二人が尻もちをついた状態になり、まわりの通行人が集まってくる。


「なんだなんだ」

「どうしたの?」


 ざわめきの中、厳つい格好をした年配の男が近づいてきた。


「おい! 兄ちゃん、大丈夫か!」

「は、はい」


 どうやら、俺の鼻先を通り過ぎたトラックの運転手らしい。


「急に倒れて来たから、本当にびっくりしたぜ。そこの姉ちゃんがいなかったら、大変な事になるところだったな」

「そ、そうですね」


 この人の言う通り、葵がとっさに手を伸ばしてくれなかったら、今頃、俺は救急車に横たわっていたかも知れない。


「しかし、急に倒れて来るなんて、お前さんは体の具合でも悪いのかい?」

「いえ、すみません。少し足を滑らせたみたいで……」

「そうか。まあ、とりあえず大事に至らなくて良かったな」


 結果的には無傷で良かったって話になるんだろうが、実際にはそういう簡単な事ではない。

 間違いなく、俺を押した犯人が何処かにいるはずだ。

 俺は周りに意識を集中させる。元々、下校時で人が多かった上に、この騒ぎで一段とギャラリーが増えている。この中から犯人を探し出すのは到底不可能だ。


 ぱこ〜〜〜〜ん!

 えっ!?


 俺の後頭部に衝撃が走る。葵の奴が俺の後頭部を叩いたようだ。


「ったく。何やってんのよ。あんたは! 本当にどうもすみませんでした」


 葵は深々とトラックの運転手に頭を下げ、俺にも頭を下げさせる。

 トラックの運転手は、葵の様子を見て苦笑いしながら車に乗り込み去っていった。


「ほら、私たちも帰るわよ。こんなにいっぱいの人に囲まれて、ほんっとに恥ずかしいんだから!」


 葵は俺を引きずるようにその場から離れさせる。その間も美咲ちゃんは俺のことを心配して「大丈夫ですか?」「怪我はないですか?」って言ってくれてる。

 美咲ちゃん、マジ天使だ! それに引き替え、我が妹は…………。


「足を滑らせるなんて、マジ、だっさ! 早く美咲ちゃんを送って帰るわよ!」

「へいへい」


 相変わらず不機嫌そうにしている葵の言う通り、美咲ちゃんを家まで送り帰宅した。

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