戌年だからって、犬転生は安直だと思います
超短編にしようかと思ったけれど、長くなったので短編扱いに。
2000文字くらいです。
結末は分かりきっているので、転生するまでの過程を楽しんで下さい。
暗いトンネルを抜けると、そこは白い世界だった。
驚きの白さだった。漂白剤もビックリ。
「いったいここは、どこなのかしら?」
思わず呟く。
別に、誰かへ宛てて発した言葉ではなかった。
けれど、その独り言を拾う人がいた。
いや、あれは人なのかしら?
「お嬢さん、ちょいとこちらへ来なさい」
頭の上に丸い輪っかがあるわ……。
もしかして、天使さんかしら?
できるなら、イケメソが良かった。
あんなおっさんじゃなくて。
まぁでも渋い感じだし、悪くないわね。
「何やら、貶された後にフォローが入った感じがした……」
何このおっさん、こわい。
サトリ(妖怪)かしら。
ニトリ(店名)ではないでしょうけれど。
「まぁいいか……えー、ごほん。
お嬢さん、残念ながら、あなたはお亡くなりになってしまいました」
えー、いつ死んでしまったのか、全く覚えていないわ。
確か、新年の始めということでお雑煮を食べていた気がするのだけれど…。
「信じられないのも無理はない。しかし、事実だ」
じゃあここは、あの世だとでも言うわけ?
「そのとおり。そして今、お嬢さんは選択を迫られている」
洗濯? でも、ここは驚きの白さだったけれど……。
「違う、そうじゃない」
ごめんなさいね、どうやらボケたい病を発症したみたい。
あ、あー。あん?
う、うー。うん?
……もう大丈夫、抑え込んだから。
「そ、そうか」
気にせず続きをどうぞ。
「あー、君には二つの選択肢がある。
一つは、元いた世界で新しい生を授かるという選択肢。
もう一つは、異世界で新しい生を授かるという選択肢だ」
違うのは、生まれる場所だけかしら?
「いや、『何に生まれるか』が違う。
元いた世界では、どう足掻いても虫になる」
虫? 虫はちょっと……。
「そして異世界の場合は、ランダムだ」
ランダム? 虫になる可能性もあるの?
「いや、今回は虫になる可能性はない。
しかし、獣などになる可能性はある」
人にはなれないのかしら?
「可能性はあるが、限り無く低い」
そう。まぁ、その二つだったら、異世界の方が良いわね。
さすがに虫はキツイから。
「そうか。じゃあ手続きをしよう」
おっさんは何やら、大量の袋を用意し始めた。
見覚えのある袋に入れられている。お正月によく見かける袋だ。
「時期に合わせてみた。この中から一つ選んでくれ」
中には何が入っているの?
「転生キットだ。
お嬢さんが選ぶことのできる範囲で色々詰め込まれている。
種族とかスキルとかな」
えぇ……。
こういうのはこちらが特定のものを選択できるんじゃないの?
「そこまですると贔屓になる。
私は、平等を心がけているんだ。そこまで譲歩はできないな」
まぁ、生きるってそんな感じよね。
仕方ない、そこは諦めましょう。
で? この中から一つ選ぶのね?
「あぁ、好きなものを選ぶといい」
紅白の袋が大量に並んでいる。
私にシックスセンスみたいなものはない。
ここは、運に任せてみましょう。
そうね……、真ん中の袋にするわ。
「それにするのか? そうか。
ではさっそく、お嬢さんを異世界に送ってやろう」
もう? 早すぎない?
早すぎる男は嫌われるらしいわよ。
「お嬢さんは、いささか下品だな…」
褒めないで。照れるじゃないの。
「褒めていないのだが…。まぁいいか。
では今度こそ、異世界に送ろう。
素敵な異世界ライフを」
ありがとう、おっさ…おじさま。
私、『犬塚弥生』は、異世界で生きてみるわ。
さようなら。天使モドキのおじさま。
「いや、私は天使じゃ——」
おじさまの言葉を聞き終える前に、私の意識は闇に呑まれてしまった。
◇◆◇
「う、うーん」
瞼に陽の光を感じて、私は目を覚ました。
でも、何だかおかしいわ。
体の構造に、違和感がある……。
そういえば、不審者おっさんが言っていたわね。
「虫にはならないけれど、獣になる可能性はある」って。
さてさて、私はいったい何に転生したのかしら?
とりあえず、自分の手らしきものを見てみると、そこには…。
「……犬の手?」
どうやら私は、犬に転生したみたい。
そうか、犬か。犬ですか…。
とりあえず吠えておきましょう。
「わおーーーーーーーん」
こうして、私の異世界犬生が始まりましたわん。
お餅には注意しましょう。