死との旅路
『死』が旅の途中で私に話しかける。
「私とともに旅に出ないか」
その声はひどく暗く、如何なる思惑があるのかは計り知れない。
しかし、私の旅はまだ始まったばかりだ。こんなところで『死』との旅に出かける気はない。
だから私は『死』へとこう返す。
「私はまだ、あなたと旅に出かける気はない。どうか帰ってはくれないか」
私の言葉に『死』は何も言わずに帰っていった。
それから何度も『死』は私に旅へ行かないかと誘ってきた。
私が旅を辞めようかというときにかぎって『死』はやって来る。
しかし、『死』に誘われるとどうにも旅を続けたくなる。
だから、私は必ず『死』へとこう返す。
「私はまだ、あなたと旅に出かけることは出来ない。どうか帰ってはくれないか」
旅を続けていると、『死』が訪れる回数が増えてきた。
私が何度断ろうと『死』が諦めることは無いだろう。
『死』は必ず私の旅する道の少し外れたところから声をかけてくる。
『死』の後ろには、いつも深い森が広がっている。
鬱蒼として、日の光の入らないようなそんな森が。
あそこを一緒に旅しようと言うのだろうか。
ごめんこうむりたい。私は日の当たる場所を旅していたい。
でも、いつかはあそこを旅したいと思うようになるのだろうか?
ふとそんなことを思う時がある。『死』とともにあの森を旅しても良いかと思う時が。
『死』が私の下に訪れなくなったからだろうか、そう思ってしまうのは。
旅の中頃を過ぎてから、『死』はパタリと訪れなくなった。
いままで何度も訪れていたのが嘘のように。突然と。
それを、不満に思うことも、悲しむこともないけど、疑問には思う。
何故、来なくなったのだろう。あの鬱蒼とした森もだいぶ見ていない。
そんな思いを抱きながらも、旅は続いていく。
私の旅が終わりに近づくと、久しぶりに『死』がやってきた。
いままでと何も変わらずに、私に聞いてくる。
「私とともに旅に出ないか」
私は今、笑っていることだろう。
もうこの旅も終わりで良いかもしれない。
長いこと待たせたが、今ならあの森にも不快感は無い。
だから、私はこう答えよう。親しみ深い『死』へ。
「あぁ、一緒に旅をしよう」