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HERO Destroy !

俺は口で適当な事を話しつつ、自身の設定をカスタマイズしていく。もう少しで、その設定が身体に馴染みそうだ。この方が俺には向いている。ハルガが俺の方を睨みつける。

「で、見たのか?女神ボルダナの胸を」

「あぁ」

「……ど、どうだった?」

「大きい割には形は良かったよ。垂れてないし」

 その言葉にボルダナの顔がみるみる赤くなっていく。それは羞恥心というよりも、怒り、怒りというよりも殺意だった。

「い、色は?」

「ん?健康的な肌色だったよ?」

「じゃなくて……もっとこう、別の部分というか」

「そうだな……先端部の色合いについては、俺だけの秘密という事で」

 こいつ、ムッツリだな。多分、巨乳好きだ。

「この!いや、しかし、この神剣があれば……女神ボルダナの衣服も……がっ?!」

 その隙をついて、カルミナの持つ錫杖の丸い先端部が英雄の後頭部にヒットする。そう、弱いとはいえ、こっちは人数で押す事も出来る。当たりは弱いが、その腕力から繰り出された一撃は相当なようで、ハルガは軽く眩暈を起こしている。

「そんなに!大きいのが好きかっ!」

 そっちの方向で虹の女神の怒りを買ったらしい。俺は小さい方が可愛くて好きだけどね。

「英雄ハルガよ、セクハラペナルティーを与えます!」

「なっ!私だけだと?」

「漠土さんは既にペナルティとして力を行使し、殺傷させて貰いました」

「……あっ、だから裸だったのか……」

 納得した様に一人頷く英雄ハルガ。俺の目の前にガンダム、大地に立つ!じゃなくて、ボルダナが詠唱を唱えながら俺を庇う様に立ち上がる。見上げたその先、はためくローブに設けられたスリットからは白く長い脚と灰色の下着が見え隠れしていた。綺麗だと思うと同時に、その逞しい脚は何故か美少女への敬愛よりも、ロボ好きの少年心を踊らさせた。足なんてものは飾りですと言い切った何処かの整備士は間違ってる。彼女をロボ枠として見ている俺の方が間違っているが。枯木爺達が、ボルダナのピリピリとした圧に気付くと、ノロノロとその場から離れていく。怪我を負っていたあの爺さんも仲間に肩を貸されて退避していく。白き星の影に隠れた黒き星々が彼女の詠唱に合わせて錫杖へと収束されていく。よし、此方の準備も整った!あとはタイミングだ!ボルダナの灰色の瞳が蒼く怪しい光を帯びていく。

「……此の世と彼の世、数多の世界を漂う絶望よ。……最も深き深淵よりその力の末端を我に示せ!一千万分の一の確率で落雷に打たれた哀れな者達の無念よ!この下衆野郎に逆恨みを示せ!迸れ!禍星魔法!「避雷針は貴方っ」!!」

 ボルダナの錫杖から幾つもの黒い雷が空間を迸り、英雄ハルガへと襲い掛かる!それよりなんつー詠唱だよ。その刹那の瞬間、俺は駆け出しながらカルミナに叫ぶ!

「そのカーテンの切れ端の中に隠れてろっ!」

 轟く雷鳴の中、辛うじてその言葉を拾ったカルミナが慌てて深淵のローブの切れ端に身体を包む。英雄ハルガが白銀の小手でその顔を庇う様に翳す。辺り一帯を巻き込みながら、ボルダナの放った黒い雷は英雄ハルガへと着弾する。これが魔法……これが女神の力か。凄いな。着弾と共に爆発が起き、スパークが発生する。その衝撃波が俺の身体を震わせる。

「ふん、境界の女神といえど、この英霊の鎧を着た私にそんな魔法が効くわけないでしょう」

 黒煙が漂う中、紫の閃光がその揺らぎを掻き消す。手には神剣布津御魂フツノミタマが鈍い光を放ちながら掲げられていた。俺は満を持して英雄の前へと姿を現わす。

「ま……そうなるわな」

 口に咥えた煙草にライターで火を着け、深く息を吸い込む。

「煙草とライター?しかも、まだお前、裸じゃないか?ははは!そうだよな!10ポイントじゃタバコとライターぐらいしか買えないよな!新人君!」

「そうっすねー、先輩」

「あのな……俺の剣は神をも殺す。人間であるお前を屠るなど容易い」

「その神様は今何処ですかね?」

 未だ黒煙が舞う空間で、虹の女神の姿を見失った英雄ハルガが困惑する。

「どういう事だ?一体、彼女は何処に?」

「先輩?気付いて無かったんですか?ボルダナと爺さんは転生者の為にわざとローブから肌を出して姿を見せてたんですよ。その効果を掻き消すためにね?」

「効果だと?」

 俺の言葉を補足する様に代わりにボルダナが答える。

「はい、私がわざわざスリットの開いたローブを着ていたり、巨神の翁達が枯木の様な身体を外宴から出しているのは……その効果を打ち消す為です。深淵のローブにこうやって……すっぽり包まると……」

 手にした錫杖を消失させるとボルダナは芋虫の様にそのマントに包まる。すると、彼女の姿は瞬く間にその空間から消えていく。その声だけが俺達に響く。周りを確認すると、枯木爺達もその姿を消していた。

「ね?見え無いでしょ?」

「こいつ……本当に、転生直後なのか?」

「はい、それは境界の女神たる私が保証します。彼は……単に、貴方よりも私達の事をよく観察し、そして貴方よりも相手を倒す事に考えを巡らせていた。それだけの事です」

「確かに……私は……ろくに考えもせず、強力な武器を携え、アースガルドへと転生した。此処へ着たのもクエスト達成の報告やステ振り、アイテム交換場所程度にしか考えてはいなかった……いや、普通はそうだろ?」

「だな。俺も初期ポイントが10とかいうデタラメな数値じゃなかったら、とっとと転生して、異世界旅行を満喫していたわ」

「どんな人生歩めば10ポイントとかいう数値になるんだ?俺も高齢運転者による巻き込み事故で若くして死んだが、二万幸福ポイント以上はあったぞ?」

「そうそう、あともう一つ、俺が此処からすぐに転生出来ない理由があるんすよ」

「理由だと?」

「三日後、俺の居た会社が強化型改造老人に襲われ、社員全員、死ぬみたいなんすよ。会社も倒産。その時に俺も死ぬ予定だった」

「まさか、あの現世に戻るというのか?あそこは地獄だ。働けど暮らしは楽にならず、税で賃金は巻き上げられ、いつ轢き殺されてもおかしくない世界だぞ?」

「……はい。でも職場の仲間を助けたいんで」

「お前はバカだ!折角、あの地獄の様な世界から抜け出せたんだぞ?今更戻るなんて……しかも」

「はい、戻れば受精卵からやり直しです。多分、キャラクリエイトも名前すら決められないっすね」

「それに三日後じゃ間に合わない。どうしようもないじゃないか?完全に詰んでるぞ?」

「だから……こうして此処で策が見つからないかと、粘ってるんっすよ」

「その鍵があの虹の女神という訳か?」

「そうっすね。俺は三日後までに何とかしてあの場に居合わせなければいけない」

「死にに戻るというのか?しかも、俺達転生者があの世界で死んでしまえば……」

「はい、向こう側で、もし何度も同じ姿でやり直している転生者が居るなら話題に上がってます。それが無いって事は……現世へは死んで境界の女神に蘇生される度に記憶を継承したまま別人に生まれ変わるって事です。それすら噂に聞かないって事は転生者は漏れなく異世界へと転生してるみたいっすね」

「当たり前だろ?あのクソみたいな世界、武装した爺や婆が車を乗り回す世界、誰が選び直す!」

「此処に一人……居るっすよ」

 初期装備の工具の中の一つ、日本製大五郎のネイルハンマーを取り出す。裸の状態で何処にしまってたかは俺にも分からないが。

「ただのハンマーだと?」

「老舗メーカーの優良工具っすよ」

「ふん!そんなもので俺が止められると?刀相手に戦闘用ならいざ知らず、工具の金槌で戦う男なんて聞いた事が無い。それに、女神達の姿は見えずとも、この一角全てを切りつけてやれば問題無い!」

「させると思うか?」

 ハンマーを握り締めると同時に相手も刀を構える。

「神殺しの武器とは言え、通常武器としても問題無くこの刀は扱える。しかも、お前は転生直後の初期転生者……問題無い、消えろ!」

 振り下ろされた刀。それを俺は寸前で避ける。その斬撃が辺りに斬り刻まれる。幸いな事にそこに女神達は居ない。だが、長引かせれば怪我人が出るかも知れないな。

「避けた、だと?」

 こいつ、やっぱりそうだ。ポイント依存のステ振りに動きが大味だ。確かに喰らえば最後、俺は即死は免れない。しかし、当たらなければ攻撃力3桁超えてようがダメージは与えられない。相手の一挙一動を冷や汗を垂らしながら観察する。その一手が俺の生死を分ける、その張り詰めた緊張感の中、戸惑う英雄に質問を投げかける。

「お前さ、前世はどんなゲームしてた?」

「FFシリーズだ」

「あぁ、やり込めがやりこむほど強くなる系ね。しかも殆どがターン制」

 俺の隙を突いたと思ったのか、横からの撫で斬りを俺は早めの体移動でそれを避ける。

「この!?また避けた!?」

「ステータス上げりゃあ最強ってか?」

「だろうが!圧倒的能力の差に弱者は何も出来ない!」

「俺の幸福10ポイントってさ、死ぬ直前に予約してたゲームで得たポイントだったんだよね」

「それがどうした?」

「そのゲームってさ、アビスソウル3なんだよね」

「は?」

「先輩さ、アビスシリーズやった事無いでしょ?」

「私は基本的にはRPG系かシミュレーションものだ。だからどうしたというんだ!」

 その連撃を早めの回避運動で避けていく俺。

「そのゲーム、気を抜けば雑魚にも殺される……所謂死にゲーのアクションゲームなんすよね」

「ゲーム内の話だろ?これは現実だ!」

「違う!これはゲームだ。転生者だけはどの世界にも属せず、何度でも生き返る事が出来る!そんな人間が歩む人生なんて……もう、人生なんかじゃない!ゲームなんだよ!」

「こうして俺は生きているだろうが!」

 何度も振り下ろされる刀を俺は全て避けていく。当たらないとはいえ、何年も異世界で剣を振り続けてきた人間だ。素人のそれとは比べものにならない練度ではあるが、俺はそれを、避ける!おっと、今のは危なかった!

「人生っつーのは、生きて死ぬまでが人生だ。俺らはただのゲームプレイヤーだ!お前がクエストをこなして来た世界で、死んでいった奴らが何度も生き返った試しはあるか?」

「いや、俺達転生者だけだよ。蘇生が遅れ、完全に死んでしまった奴は二度と戻らない」

「そういうこっです。取り敢えず、一緒に死にましょうか?先輩?」

「な?!」

 此処で反転、俺は攻撃に出る。所持品の項目を素早く開き、それを選択する。

「手持ちアイテム、黒色火薬を目の前に置く!全てだ!」

「置く?使うでは無くか?いや、そんな旧世代の火薬で一体何をっ……ん?雨?いや、違う?これは!?」

 俺が後方回転で距離を取り、素早く回避運動を行なう。フル装備の男とフルチンの男ではその装備重量が自体が違う。アクションに移る為の所作は断然俺の方が早い。降り注ぐ大量の黒色火薬。その総数は……1tを越える。もし、カルミナが降り注ぐ黒色火薬に巻き込まれたとしても、その怪力で何とかするだろう。ハルガとの会話の中で、恐らく、腕力はハルガの方が下なはずだ。これは成長の型違いによる差なのだと思う。勢い良く降り注いだ火薬の山から何とかして、顔だけを出すハルガ。その体はすっかり火薬の山に飲み込まれて動けないようだ。近くには彼が手放した彼方が転がっている。

「そ、そんな……10ポイントぽっちでこれだけのアイテム量を手に入れる事など出来るはずが……」

「俺も最初そう思ったよ。まぁ……生前の職業補正が効いて、割り引かれたのもあるけどな。教えといてやるよ、チート級アイテムばかりに目が眩んで、消耗アイテムに全く目を向けなかったであろう先輩にな。こいつら巨人の感覚はガンダム級だ。その一掬いでもこれだけの量だ。俺は、人間と巨人達の感覚の差に賭けたんだよ」

「……馬鹿な……そして残りの僅かなポイントでタバコを選んだのも……」

「あぁ……火が欲しくてね?」

 俺は口に咥えて居た煙草を、ハルガの顔の近くに放り投げる

「や、やめろっ!」

 が、反応しない。黒色火薬の反応性は悪いからな。タバコの火には期待していなかった。まぁ、いいや。

「た、助かった……のか?」

 身動きの取れない英雄が間抜けな情けない声を出す。

「お前さ、なんであの爺さんと女神を殺した?彼奴らも謂わば俺達と同じ転生者だろ?」

「俺にとっちゃただのNPCだ!殺して何が悪い!殺せるって事はそういう仕様だって言っただろ!それは女神も然りだ!」

「やっぱ、俺、お前嫌いだわ。じゃあな……」

 右手にもったハンマーを床に転がる刀に叩きつける。そこから発せられた火花に黒色火薬が反応し次々と爆発していく。その硝煙の中、その衝撃で鎧に守られていないハルガの首が吹き飛んでいくのが、宙を舞う俺から見えた。装備重量の関係で今度は全身が繋がった状態で吹き飛ぶ俺の身体。


 爆破の初期衝撃で吹き飛ばされた俺は内臓をかなり損傷していたものの原型は保たれ、死ぬ事は無かった。その爆発の音の中、カルミナやボルダナの叫び声が聞こえてくる。無事なようだな。流石一級品の装備だけはあり、耐火性耐衝撃は抜群の様だ……。吹き飛ばされた俺の体が見え無い壁にぶつかるが、その衝撃は思ったよりも無かった。


 巻き起こる爆発の嵐が止むと、辺りは静けさを取り戻す。


 俺は見え無い壁に引っかかって、宙を浮いている。そんな中、暗い深淵のローブに身を包んでいた虹の女神カルミナが怯えながら顔を覗かせると、首の無い英雄ハルガの姿を見つけると、口元を押さえながら此方に走り寄ってくる。遠くから俺の事を呼ぶカルミナの声と反対の方向からもう一人の女性の声が近くから聞こえる。ん?背後?

「……やりましたね……漠土さん」

「ボルダナ?」

「漠土さんが引っ掛かってるの……私の胸の谷間ですから」

「あぁ……道理で柔らかい訳だ」

「揉むな!巨乳嫌いなのに!」

「ん?好きだよ?」

「へ?」

「ただ、小さい方が好きなだけで」

「と、兎に角!カルミナさんが木の上に引っ掛かった風船を取ってもらいたそうな顔で見上げているので、降ろしますね?」

「頼む……」

 深淵のマントからボルダナが手を出すと、その姿が露わになる。間近で見上げたその顔は凄い迫力だが、何処か神々しさを感じさせる。この神々しさ……あれだ。

「大仏級……」

「煩い!」

「いだだっ!」

 それでも俺を優しく摘むと、引っ掛かっていた胸の谷間から降ろしてくれ、座り込んだ自分の脚に寄りかからせてくれる。

 上の方からボルダナの声が聞こえてくる。

「でも……普通に考えたら、ハルガさんの攻撃を避けるだけの俊敏性を漠土さんは持ち合わせていません。いくらアクション系ゲームで鍛えていたとはいえ……あぁも避けられますか?」

 血を吐きながら座る俺に、カルミナが飛び込み、抱き絞められる。力任せに抱き締められた俺はなんの抵抗も出来ずに吐血する。

「ゴホッ、ちょっと待って、その腕力だと締め殺されちゃうから」

 虹の女神カルミナは目に涙を溜めながら俺のお腹に触れ、損傷した内臓を治癒していく。

「ありがとう……本当にありがとね!」

「いいさ……そうだ、さっきの質問の答えだけどさ……海外では主流だけど、大抵のアクションゲームって実際の人間の目線に合わせた一人称視点だよな?そして、転生者の視線のデフォルトもそうなっている」

「はい。生前の感覚に近付ける為、眼球と同じ軸に視線を設定してます」

「実は日本人の場合……ゼルダの伝説しかり、アビスソウルしかり、キャラクターの背中から映し出されるプレイ画面の方が慣れてるんだよ」

「あっ!設定画面で三人称視点に切り替えたんですね!なるほど!一人称視点だと近過ぎてどうしても相手からの攻撃を見極めにくいですもんね!その点、少し離れた箇所から相手の動きを見られればその分、対応しやすくなる!」

「そう!こっちのプレイスタイルの方が向いててね。ただ……問題は一つある」

「あっ、プレイはともかく、日常生活が困難に……」

「そう、俺の今の視点、ボルダナのローブの中だから何も見えない。カメラアングルを変えれば、済むけど……あっ、この視点だとパンツ覗き放題だな……」

「すぐに戻してくださいっ!」

 今回は何とかうまくいったが……こんな無茶はもう出来ない。対人戦か……これもきっと視野に入れておかないといけない。そして、俺を担当する女神はボルダナからカルミナへと移行した。この事がどういった意味を持つのか。そして、現世に戻るには……きっと彼女が鍵を握っている。そんな気がする。爆発の所為で煤まみれになった幼い顔が俺に向かって笑顔を作る。


「傷が治ったら、服を用意してあげるからねっ!」


 是非ともお願いします!


 <消費アイテム>

 ・黒色火薬 1t

 ・煙草一本

 <入手アイテム>

 ・壊れた神剣

 ・幸福ポイント 200

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