Re;vival
私の所為でこの人は二回死んだ事になる。させない、もう、そんな事はさせないよっ!
脳裏に過ぎる爆散する青年の肉塊。震える手を必死に堪え、血溜まりの中に浮遊する宝石みたいな結晶にそっと手を触れる。私がカーテンだと思っていたのは、片方の乳房を放り出した背の高い外人さんで、その娘さんが言うには……彼や私達の中心、心臓とも言える魂の結晶体「虚亞」が存在していて、女神はその結晶体に触れ、転生者を黄泉還らせる事が出来るらしいのね。
彼の事を潰した娘さんが言うには、神業で即時擬似体を構築する事は可能らしいのだけど、これはあたしの不注意が招いた結果だ。その罪は私にある。
「お願いっ!お願いっ!黄泉還って!」
どうやって力を注ぎ込めばいいかも分からない。けど、私は祈る様に青年の虚亞を両手で包み、必死に呼びかける。あたしの頼りは貴方しか居ない。彼に生前の記憶はあるみたいだったけど、私には何も無いの。私がお婆ちゃんで猫を轢かない為に振り切ったハンドルの先、灰色の壁と真っ赤に染まる彼の肉体があった。薄れ行く意識の中でボンネットの上に乗っかった彼の片目が此方を捉える前に私は気を失った。
走馬灯だったのだろうか……私の脳裏に幾人もの大切な人達の顔が思い浮かんでいた。私はこの人達ともう一度会いたいと、会わなければならないと思いながら死んだ。
そして今、皺だらけだった私の顔や身体が10代半ばの頃まで巻き戻っている。嬉しい反面、恥ずかしさが巻き戻ってきたみたいで戸惑うばかり。髪はお婆ちゃんみたいに白髪だけど、光加減によっては虹色の輝いているみたいですごくチカチカするね。当時の栄養不足からか身体も細くて頼りなく、胸もちんまい感じで少し恥ずかしいけどね。
「君はあたしの所為で二度死んだ。誰も巻き込むまいと思って生きてきた気がする……最期の最期でどうして若いもんの命を奪わにゃならんのですか神様!……もし、あたしに彼を生き返らせる力があるのならどうか!力を貸して下さい、後生ですから、お天道様!」
私の呼びかけに応えるように周りに浮遊する白い光達が再び虹色の輝きを帯び、私の手と青年の虚亞を中心にグルグルと周り始めていく。
「おやまぁ……協力してくれるのかい?あんた達?」
朧げな意識で遠くに聞いた声の内容はどうやらあたしは生まれ変わったらしいのです。女神さんに。
自然と口から言葉が溢れでる。
『New Roading……目覚めなさい……垣沢漠土……貴方は、貴方の使命を全うする為、再び産まれるのです……Re;vival!!』
虚亞の周囲に幾重もの虹が折重なり、色相が渦巻きながら大気を震わせている。渦の中心、彼の血で染まった私の手、その先にある灼熱色の結晶が胎動し、産声を上げているように感じた。
さぁ、産まれなさい。
何度でも……。
虹の光がその一点に集約されていく。
赤熱色の結晶体を中心に擬似体が構築されていく。先ずは心臓が。そこから枝葉が分かれるように血脈が延び、人体を内側から構築していく……内臓、骨格、筋肉……頭蓋骨に眼球……瞼の無いその目が向きを変え、私を覗く。筋組織が骨を覆い、皮膚を構築して……いぐぅ……う、む、無理……こんなの耐えられな……ぃ、うぼろろろろ……!
眩い光に包まれた刹那の時間、私はまた吐いた。
あは……あはは……事故で首が飛び……次は目の前でミンチよりひでぇや……そして、今度は……動く人体模型……あたしの心が……音を立てて崩れていくような気がした。