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事故現場

チカチカと点滅するヘッドライトの電球は剥き出しで、歪曲したワイパーは今朝からパラパラと降り続ける小雨を落とし続ける。そのフロントガラスは轢き殺した男の血で紅く染まっていた。


湾曲したワイパーが目の前で振り子運動を繰り返す光景を俺はただじっと見つめていた。


どうしてこんな事になったのだろうか。


降り続く雨と灰色の曇が天上を覆い尽くし、背には絶え間無く煙を吐き続ける工場群。更に見上げた先には街路樹を挟んでビル群が立ち並んでいた。それは毎朝見慣れた景色。目の前には狭い道路に架けられた横断報道。


信号は確かに青を示していたはずだ。


耳をつんざくブレーキ音と共に黒い電気自動車が有り得ない角度で侵入してきたかと思うと、コンクリートの壁に俺を巻き込みながら衝突した。俺の両脚は車体に巻き込まれながら引き千切れ、地面に二本の紅い線を描き出した。


コンクリートの壁面と車体に挟まれた俺の胴体からは内臓が溢れ出し、四散している。頭が挿げられていたはずの胴体。その首から上は無い。つまり、この上空からの俯瞰光景は今まさに、吹き飛んだ自分の首で見ている。何キロ出してたの?この運転手は?


痛みは無い。


ただ強い眠気とあるはずもない全身が痺れに襲われていた。ひどく瞼が重い。降り続く雨に流されていく俺の血はそれでも生きようと足掻く本能を現しているようだった。


 製造業工場勤務、垣沢漠土かきざわ ばくど22歳。夜勤明けの眠気と疲労でフラつく頭が衝突の衝撃で歪に歪んだボンネットに転がる。フレームが歪んだ運転席で口から血を流して意識を失っているのは70歳は超えてそうな婆だった。


 片目しか無くなった瞼が降りる時、俺の耳に猫の鳴き声が微かに届く。

俺を


いた婆さんは

猫を助ける為に俺


を殺





のか……?


 ……笑えない人生の幕引きに俺はただ笑うしかなかった。上手く笑えてるかは分からないけど。

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