蒸気の誘い
…炎天が照らす殺風景、背中を敷板が打ち付ける。
「お~いルギスくん、まだ着かんのかね…?」
「まだですぜ姐御ォ、もう少し辛抱して下せぇ」
「え~面倒臭い…」
「面倒ってあんた…今まで何にもしてないでしょう」
街を出てから二日と少し、気付けば私は荷台の上にいた。
それもこれもは三日前の夜、あの男に突っ掛かったのが原因だ。
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~三日前~
「アンタさぁ、ゴミ山の面倒ちゃんと見てんのかぁ!?」
「ああぁ?ゴミが何だってぇ?」
私はグラスを打ち付け、カウンターで焼き鳥を貪る狼男に当たっていた。
この時私は少し酔っていた。頼んだアイスティーにアルコールが混ぜられていたのだ。主犯は恐らく…いや間違いなくモリソンだ。混雑中にドラゴンフルーツを持っていったことに対する腹いせかもしれない。
「この前、アンタんトコの泥棒猫がなにやらかしたか、知らねぇでしょォ?」
「ああぁ~?知るかそんなもん、第一アイツを雇い込んだ覚えはこれっぽちも無ェぞ」
「でも一応アンタあそこの管理者だろ!?なにいい加減な事やってんのさ」
「オレァあくまで『裏街』の『他称』管理者だ。どいつもコイツも勝手にそう言ってるだけだし、なった覚えも無ぇ」
「でも否定してないじゃん!!」
「そりゃぁそうさ、勝手に箔が付いてくるならそれに越したこたァ無ぇ。誰にだってデカい顔できるからなぁ」
「ホンッとクズだねアンタってヤツはさぁ!!」
「言っとけ言っとけ、誉め言葉として受け取っとくぜ」
そう言ってガズベルグは私の手からグラスをぶん取るとその喉にゴクゴクと流し込んだ。あまりにも横暴だ。流石に頭に来たので引っ叩こうと手を広げたら、掌にガルバ貨幣が飛んできた。
「…ッカぁ~、こんな薄い酒じゃぁ気持ち良く酔えもしねぇ。もうちっと強めの用意してくんねぇか?」
「…人の飲みモン横取りしといてよく言うわ」
「酔っときゃ誰かさんの面倒臭ぇ~声が聞こえなくなるからなぁ」
「面倒で悪かったな。んじゃあ面倒だと思わなくなるくらい耳元で囁いてやるよ」
「ほぉ~ご褒美じゃねぇか、どれどれやってみろよ?ほらぁ?」
「うっ…やめろ、臭いから顔近づけるな!」
「ヒッヒッヒ、いいねいいねぇその顔、まるで汚物を見るような嫌悪丸出しの顔…そそるねぇ」
「あーもう分かったっての、アルが悪ぅござんした!てかアンタ酔ってねぇだろ!?」
「ヒッヒッヒ…」
なるほどね、酔っ払いに絡まれるってのはこうも面倒なことなのか。
さっき自分がやってた行動を身をもって理解したよ。まあ、ガズベルグの方はわざと酔ったふりをしているのだろうが…さっき飛んできたガルバ貨幣を払い、私は改めてアイスティーを頼みなおすことした。
「…そもそもだがな、ダストボックスは裏街の管轄じゃねぇんだよ」
「冗談だろ?そんな話聞いたことなかったぜ?」
「言ってないからな。あそこは元々ブッ潰れた清掃業者の土地だったろ?」
「そうだが…まさかそん時の所有権がそのままなのか?」
「ご名答。あそこァまだ当時の業者が手放してねぇのさ」
「なんでそんなことを…」
「正確には『手放せねぇ』んだ。当時の業者…クラブウィーズ社はどこの資金援助を得て発足されたと思う?」
「資金援助ったって、そもそもこの街にそんな金を貸せるような余裕のある企業があ……まさか!?」
「そう、バッドカンパニーだ。慈善事業だか何だか知らねぇが、莫大な支援金を出してまで地域の印象向上に努めてた時期があったんだよ…まあ結果は御覧の有り様だけどなぁ~」
「なるほどね…だから仮に企業が権利を手放したとしても、そこの所有権は出資者に移るってことか」
「そーいうことさ。幸い、あそこの権利はまぁだクラブウィーズが所有してるっぽいけどなぁ」
「…『っぽい』ってどういうことだよ?」
食べ終わった焼き鳥の櫛を犬歯の間に引っ掛けて挟まった肉のカスをほじり取るガズベルグだが、その表情はどうもバツが悪そうに眉間にシワを寄せ、何もない空間をじっと見据えている。こいつがこの表情をするときは大体何かの企みがある時か、物事が上手く回ってない時の二択に分かれる。
「最近カンパニーの動向が慌ただしいってのはおめぇさんも知ってんだろ?」
「ああ…密売ルートの件やら企業搾取とかだろ?」
「そうさぁ、ソイツが始まった結果、所有権を主張してたクラブウィーズもついにバッドカンパニーに圧をかけられ始めたってこったぁ」
「なるほどね…だからダストボックスに普段寄り付かねぇようなヤクザもん共が来たってのか」
「そういうこった。んで、そのゴミ山の浮浪者共が助けを乞う相手は誰だと思う?」
「あ~…だから『ウゼェ』って顔してんのね」
「全くだ、あそこに住み着いてる奴らは『勝手に』あそこに住んで『勝手に』自分の飼い主を履き違えてやがる。おまけにクソッタレ清掃業者の方は雲隠れしてこっちに責任を負わせてくる…どうしようもないクズばっかだぜ」
「お前が言うなって言いてぇよ」
「口から出てんぞひねくれ女狐」
なるほど…結論として、あそこに住んでる奴らは頼る相手を間違えているんだ。
産まれたヒヨコが一番に見たものを親だと思うように、アイツらはそうやって勘違いを起こしている。ガキどもは無知がゆえにいろいろやってはいるが、そもそも頼る相手が違う。だからガズベルグは助けないし、それを見ているから他の大人は自分から抗おうともしない。大人共の中には権利周りについて知ってる奴もいるだろうが、雲隠れから分かる通り土地の所有者は既にダストボックスを見限っているのだろう。なかなか救われねぇなあ。
「そもそもなんだが、カンパニーの混乱はどうして起こったんだよ」
「そうだなぁ…いろいろ理由はあンだろうがぁ、一番の理由はトラッシュラインだろうよ」
「トラッシュライン…あの列車強盗か」
「おお、知ってるんなら話は早ぇ。あの列車ぁカンパニーの現金輸送手段でもあんだよ」
「現金輸送!?なんでそんなもん」
「カンパニーはカンバスタにも提携企業があるからなぁ、そことの輸送手段として使ってたんだ。そもそもトラッシュラインの運営に一枚噛んでるなんて噂もあるし」
「やりたい放題じゃねぇかカンパニー…」
「それが仇になったのが今回の騒動だ。手を広げ過ぎた結果、本陣が疎かになっちまった。背骨を折られてにっちもさっちもいかねぇ状態だ」
「そんなんに大打撃与えてる強盗団…一体何者なんだよ」
「それについてはオレもよくわかってねぇ。いくら情報が入ってくるとは言え、情報の出どころから消えたら仕入れることも不可能だしなぁ」
列車ごと強奪する強盗団…物そのものを丸ごと盗むから痕跡が残らない。
…いや、しかしその時一緒に乗っている乗客はどうなる?それに列車ごと盗むってなりゃ、その為にレールだって増線しねぇと不可能だろう。そんな大掛かりな手間をかけてたら容易にバレることは目に見えている。しかしそれがほぼ無いとなると…何者かが裏で隠蔽工作を行っているか、そういった能力を持つ『野良』の仕事かで予想は出来る。そもそもそこまでして列車丸ごと盗む必要なんてあるのかが一番の疑問だが…。
「ところでこれも何かの縁だぁ、おめぇに一つ仕事を頼もうと思うんだがぁ」
「…ハァ、アルの酔い覚ましを無理矢理やったのはそれが狙いだったのね」
「オレぁ必要なこと以外に金は払わない男だからなぁ。それに、おめぇにとっても悪い話しじゃぁねぇ~だろ?」
「どういうこと?」
「ど~せ『金がねぇ』って喚いてる頃合いだと思ってよぉ。そりゃあそうだ、二人分の生活費なんぞ損得に入れねぇ小娘が相手だもんよぉ」
「アンタ…あん時それを分かってわざと…!」
「ワザとも何も、カッコつけて全額渡す方が悪ぃんだぜぇ?」
「クッ……!」
言い返せない…!
ミラルカが慣れるまではなるべくこいつからの依頼は受けたくなかったんだが、こうも先を見越して弱みを握られるとなかなか断れない。金額次第ではあるが、ここは仕方なく乗っておくのが身のためだろう。
「…ハァ、分かった分かった。それで何をすればいいんだい」
「そいつぁ簡単だ、ここにある『箱』をカンバスタまで輸送してくれって話だ」
そう言うとガズベルグは足元からやや大きめの木箱を持ち上げてきた。蓋はなく、木で隙間なく厳重に打ち付けられている。非力とはいえ、仮にも体格のあるガズベルグが持ち上げる際に少しふらついた事から、中身は相当重いものであるこは察せられる。
「見るからに怪しい箱だな…依頼主は?」
「バーナード・グッドマン」
「はぁ?あの駄犬が!?なんで自分から頼みに来ねぇんだよ」
「さぁな。ただ今回は『公安の依頼』じゃなく、あくまで『個人的な頼み』らしいぜぇ」
「個人的な頼みって…それでも自分から依頼しない理由はないだろ?」
「アイツぁうちらのやり方には疎いからなぁ…それでもアイツなりに筋を通そうとしたんじゃあねぇのか?」
「余所者の考えることは理解できないな…」
「まあ、アイツも『こいつを無事に運べれば手段は任せる』って言ってたワケだし、そこら辺の準備は全部こっちでやってくれってことなんだろうなぁ」
依頼手配を一頻り他人に丸投げするなんて、駄犬らしくないやり方だ。
あいつは基本的に、やって欲しい事とその詳細は全て自ら提示するのが道理だと言っていた。持ってくる情報そのものも信憑性が高く、だから多少金額が安くとも信用があったから引き受けられた。
それが今回、個人的な頼みとしてこういう手法を取ってくるという事は、間違いなく何かを企んでると見ていいだろう。…ただヤツだって一応は正義を背負っている人間だ。そんなダーティなことは基本的にしない筈だ。
「…報酬は?」
「3リーベル。ここから準備金や仲介料を天引きしてざっと2リーベルくらいだろう。…金欠のお前にゃぁ、喉から手が出るほどの大金だと思うが?」
「…正直、不信感は拭えねぇ。あとカンバスタへの移動はどうするんだ?鉄道は禁止なんだろ?」
「そこに関してもう一つ伝えることがある。おめぇはあくまで『輸送の護衛』だ」
「なるほど、もう誰か運び手がいるってことか」
「そういうこった。おぉ~い、ルギスくぅん!」
カウンターのガズベルグが後ろを向いて誰かを呼び出す。
後ろから現れたのは、先日この店でキレ散らかしていたスキンヘッドの大男だった。
「あ、あんたこの前の」
「て、テメェ…あん時のガキの…っ!」
「ほ~うお前ら顔馴染みだったかぁ~いやぁ紹介する手間が省けたぜぇ」
「ガ、ガズベルグさんもしかしてこの人が…!?」
「あ?うんそうだぜ。こいつがおめぇさんの危険な旅に同行する超一流美人傭兵のアルジャーノンくんだぜぇ?」
「はーいはいはいご紹介に預かった超絶美人傭兵のアルジャーノンでーっす。どこの馬の骨とも知らない木偶の坊さんヨロシクネー」
「嘘だろ…マジかよっ…」
大男は丸い頭を抱えて俯いている。彼はさぞ居心地のいい気分ではないだろうなぁ。
「…んでよ、さっき『こいつの危険な旅』っつったけどあれは…」
「その通りだぜアルジャーノン、この依頼はこいつが受けたもんだ。そんで護衛が欲しいってんで、おめぇを誘ったってワケよ」
「そういうことならもっと早めに言ってくれよ…じゃあ改めて聞くけど、この依頼に関する一切の責任はこいつに取らせて良いってことだよなぁ?」
「そういう契約で大丈夫だぜ…それでいいよなぁ、ルギスくん?」
「ああもういいよそれでっ…!チクショウがぁ!!」
半ば破れかぶれの了承を得られた。大男のこの様子から察するに、多分こいつは自身の所属してい商会を先の不祥事で解雇されたんだろうな。んで路頭に迷っていたところで悪い狼さんに捕まって、藁にも縋る思いでこの依頼を受けた…いや押し付けられたのだろう。あーあー可哀想に…。
「そういうワケで、おめぇはこいつの乗る馬車の護衛だけしてればいい。あとはこいつが何とかしてくれるだろ」
「至れり尽くせりだねぇ、んじゃあ馬車の荷台で昼寝でもさせてもらうとするよ…えーと…」
「ルギス・ガーターだっ!チクショウ、なんなんだよこの街は…っ!」
「すまんねぇルギスくん、悪い大人が多いのがこの街の取柄なんでな」
こんなはずじゃなかったのに…そんな声が表情から伝わってくる。
しかしまぁ、これで道中の心配は必要なくなった訳だ。輸送物やその他もろもろについても「私はあくまで護衛です、依頼を受けたルギスさんに全責任があります」と他人面することができる。それでいて報酬も弾むとなれば、これは受ける他ない依頼だろう。
「で、出発はいつになるんだい?」
「お?この話に乗る気になったのか?」
「未だに怪しいのはあるが、それを差し引いても都合のいい依頼だ。責任も丸ごと転嫁できるとなればリスクもないしなぁ」
「ヒッヒッヒ、結局は金ってか」
「金で悪いか?こちとら傭兵だぜ」
「おめぇらしくねぇが、おめぇらしいわ」
「出発は明日の昼だぜアルジャーノンさん」
「随分駆け足なんだねぇルギスくん」
「トラッシュラインが機能してねぇ以上、足の速さが勝負になる。何を売るにしてもそうだ」
「あ~、言い忘れてたがこいつぁ依頼と同時に商売だ、その箱にも買取価格が上乗せされる」
「へ~、んじゃあ向こうでの売買価格も報酬に上乗せされんのか」
「そいつが俺の報酬になるなからな、善は急げってやつだ」
なるほど、そっちの価格がルギスへの報酬になるわけか。
確かに、額と割の合わない仕事を提示されることのある金額提示性より、純粋な商売であるならばそれを上回ることもあり得るのか。今回の依頼を要約すると、バーナードの個人依頼をガズベルグが仲介し、ルギスがそれの売買価格を受け取り、私はガズベルグから提示されている報酬金を受け取る。報酬についてパートナーと揉めることはよくある話だ、この方式ならばそれが起きることはない。例え売買価格は振るわなかったとしても、それを盾にしてこっちの報酬から奪おうなんてのは契約違反だ。
「あ~それとアルジャーノン、あのウサギを連れて行くのはよしとけ」
「ミラルカを置いていくのか?」
「そりゃぁそうだろう、何せルギスくんがいるんだぜ?また癇癪起こされるわけにもいかねぇだろが」
「あぁ~まぁ、そりゃそうか。で、そうなるとまた契約書を更新しなきゃだが…」
ミラルカとの生活を始めてからおよそ三週間と少し、この間に契約書の更新を既に二回ほど行っている。
この契約書は主にミラルカが私の周囲から離れ過ぎないようにと距離を制限するために使っているものだが、最初は半径20メートルだったものを少しずつ広げ、オール・ド・オウルでバイトをするようになってからは1キロ弱まで広がった。今では特にあいつ自身が問題を起こすこともなく、またモリソンやピナコも目を配らせているためそれの心配もない。今回の依頼では相当の距離を移動することになるため、もう距離制限を取っ払うのも良いだろう。
「お~いミラルカぁ、ちょっとこっち来い」
「…なに?まだ仕事ちゅう」
「一応聞いとくが、アルはこれから仕事で遠出する。アンタもついていくか?」
「やだ」
「そうか、それなら別にいい…んじゃあここに指印押して」
「わかった」
ミラルカはガズベルグの差し出した紙に指を当てる。これで契約書更新完了だ。ちなみに内容文を理解されると困るので、アイツにはまだ言葉を教えていない。
ミラルカの態度は相変わらず不愛想で淡白だ。未だに私に慣れてない…と言うか、距離を感じる。どっちかというと私よりもモリソンやピナコ、ガズベルグとの付き合いの方がいい。何をそこまで毛嫌いされてるんだか…。
「ヒッヒッヒ、相変わらず嫌われてんなぁ」
「なんでなんだろな…もう少し利口だといいんだが」
「牙が抜け落ちたおめぇの事が嫌いなんだろ」
「牙が抜け落ちただぁ?アルのどこがそう見えんだよ」
「さぁな、自覚ねぇなら今回の仕事で勘を取り戻してくるんだなぁ。前の依頼から久方ぶりだろ?」
「それもそうね…少し身体も鈍ってたとこだし、軽い運動にはちょうどいいわね」
「そんじゃ、ルギスくんと楽しんできな」
「楽しくならないことを祈るばかりだわ」
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「その能力、便利っすよね」
「これ?そうとも限らないわよ…部屋にあるものしか取り出せないってことは、部屋に何が置いてあるかを把握しとかなきゃいけないし…」
私の手元にあるカップラーメンを覗きながらルギスが訪ねてくる。
ルギスくんは一刻も早くカンバスタへ辿り着きたいようで、寝る間も惜しんで最短距離で馬車を飛ばす。流石に元商会員であったこともあり、その手の道のりには詳しいようだ。こっちとしても頼もしい。
「…こうやってカップラーメンを取り出せても、それを食べるためのお湯は沸かせないしね。」
「それでも、こうやって長旅に持参する荷物が減るのは徳じゃねぇですか」
「そりゃあね。でもいざ使ってみるとなると、痒い所に手が届かないもんよ」
「確かに…その腕じゃあ、やれることも少なくなるでしょう」
「いいのよこの腕は…アルが好きでこうしてんだから」
「そうなんか…あった時から気になってたんだが、一体何があって隻腕なんだ?」
「ああ、これ?あのウサギと一悶着あった時に切り落としたんだよ」
炎天下の馬車は否応なくストレスを溜める。こうなってくるとなんとかして紛らわせたくなるもんで、今では時たま語り掛けてくるルギスくんがいい捌け口になってくる。
「あのガキ…そこまでヤベェ奴なんすか…?」
「少なくとも、アンタみてぇなヤツはあっという間に八つ裂きにされちまう程度には」
「そんなのに喧嘩売ったのか…今更だけど身震いするぜ」
「もう少し相手は選ぶことよ?煽りのセンスは認めるけどね」
「へ、へぇ…」
少し引かせてしまったか、暫くルギスからの返答は帰ってこなかった。
なかなか不運な奴だ…一昨日前には有名商会の一員だったってのに、酒場で喧嘩した上にそれを護衛の傭兵にチクられて解雇され、しかもその喧嘩の相手が元殺人鬼で、その相方と一緒に依頼を受けてるんだからなぁ…私の身内に振り回されっぱなしよね。
暫くすると進行ルートの先に大きな山と、その麓から立ち上る蒸気を目視できた。遠目に連なるレールも視認できる。旅立ちから三日、漸く目的地が見えてきた。
「見えて来やしたぜ姐御ぉ、カンバスタ工業区だ」
「ハァ~…漸くアンタ以外の人の声が聞けるわけか…長かったなぁ」
「結局夜盗に襲われることもなかったし…姐御はなんにもやってねぇじゃねぇか…」
「何にもないに越したことはないだろ?」
…そう。何にもないに越したことはないのだ。
だから私は不安だったのだ…ここまで何もない事が、この先に何かが無いという確証がない事が…。
そんな思いとは裏腹に、馬車は風を切っていく。その街の熱気、蒸気に吸い寄せられるように。
第二部四話です~。
今回から本格的に第二部のお話がスタートしてまいりますよ~
しかしまぁ、何か知らないんですがガズベルグの出てくる回は全体的にセリフが長くなりがちな気がします…キャラがベラベラ喋るのでセリフパートの切り時が分からなくなるんですよねぇ
次回からは新しい街、カンバスタ工業区でお話しが進んでいきますよ~。次回もどうぞお楽しみください!




