過去の残り香
――――――所詮、我々は『獣』である。
本能に従い、飢え、争い、殺し、喰らう。その性分が染み付いている。
仮にそれが人の皮を纏い、人の振りをして生きたところで、根底に根付いた『それ』には抗えない。
我々は、決して『人』にはなれない。
しかし、抗うことは否定しない。抗った先で何が待っていようとも、だ。
だから存分に抗うといい。この街に生きるということは、そういうことだ。
―――――所詮、我々は…『獣』は、既に必要とされない存在なのだ。
だから消える道しか見出だせない。滅ぼす、滅ぼされる選択しか産み出せない。
そんな畜生が何かを為し得るのであれば…何かを尊重し、生きられるのであれば
そこから先を、私も見てみたいものだ。
どうやら私はこの生涯で、何かを滅ぼす事しか見出だせなかったようだ。
そして、それを今更止めることは出来ない。私の中の『獣』は、それを生きる意味だと悟ってしまった。
私はもう、この街には必要ない存在だ。
手記を書いているこの手も、身体も、既に抑えきれない『衝動』が満ちている。平静を保って文字を書くのもやっとだ。
だから、仮にこれを見付けた人がいるならば…
君の人生は、何かを『生かす』事に使ってくれ。
―――――アルジャーノン・フロイト
――――
――――――
――――――――
…あの夜から早3週間が経過した。
3週も経てば、どれだけデカい事件も過去のもんだ。どこまであるかも分からないこの世界で、兎の殺人鬼が現れただの狐の腕がもげただのはどこにでもあるほんの些細な出来事だ。だからもう、そういった話はおしまい。今更誰も覚えてないからな。
さて、そんな私に今起きている事件といえば…
「……どうしたもんかな…」
そう、食糧難だ。
ここ一か月分は持つであろうと備蓄しておいたインスタント食料は僅か半月で底をついた。
今更思えば当たり前のことだった…食う人数が増えるってことは、単純計算で消費が倍になるってことだ。ついでにその分食費もさらに倍…あの詐欺師に「全額持ってけ」なんて格好つけてる場合ではなかった。あのウサギを引き取った当時、なぜそこまで頭が回らなかったかと昔の自分を叱りたい。
そんでもって、あのウサギがもう少し懐かねぇとおめおめ仕事にも出ていけない。困ったものだ。
「……流石にこれは…無理だろうなぁ…」
半年ぶりに開いた冷蔵庫には、いつ入れたのかすら分からん謎の缶詰やら変質した肉塊やらが眠っている。こいつらの眠りを妨げてはならない…それくらい私にも分かる。私はこの棺を静かに閉めることにした。
こうなったら仕方ない。少々億劫ではあるが、市場に食料調達といこう。
AM10:00―――買い出しには遅い時間だが、残り物には福があることを祈ろうか。
――――――
この街には明確な店舗市場というものはあまり存在しない。簡単な話だが、この治安の悪い地域で個人商店なぞ営もうものならいつ何が起きてもおかしくないからだ。モリソンのような、私たちに対して良好な伝手を持つものや強力な用心棒でもいなければ売り上げよりも損害額の方が高くつくだろう。
そんな中で主になるのは、基本的には売り歩き式の露店だ。朝の数時間だけ荷車を引いてやってきて、ひとしきりの稼ぎを得たらまたどこかへと去って行く。そういった商人たちが互いの利益交渉も兼ねて同じ時刻に集まるように変化していったことで、時折離れの噴水広場は大きな市場へと変貌する。
「オヤジ、この果物はなんつーものだ?」
「御目が高いねぇ嬢ちゃん、そいつぁドラゴンフルーツっつう南国の果実さ。オレも昨日偶然仕入れたばっかりだ」
「へぇ~…っつうことはオヤジはあんま知らないんだ?」
「商人としちゃぁ面目立たねぇが正にその通りだ。誰か知ってる人に売り渡してぇとこなんだが…」
「んじゃあさ、これ、アルに譲ってくれねぇか?」
「嬢ちゃんにか?別にいいが…嬢ちゃんも知らないクチだよな?」
「ああ、知り合いに腕のいい料理人がいるんだよ。そいつの困った顔が拝みてぇと思ってな」
「ハッハッハ、見かけによらず中々面白い事企むなぁ嬢ちゃん!いいぜ、売れ残るもの面倒だし少し安くしておこう!」
「悪いねオヤジ、こっちも金欠だったから助かるよ」
商人との会話は一期一会。以前私も行商人の護衛を受けたことがあったが、その時も普段の依頼と違って小旅行をするような感覚だったっけな。すれ違う行商人たちとはその場限りの関係を築き、街では商人同士がお互いの利益を賭け値とした舌戦が行われる。しかしそれは私達の知る金額を前面に押し出した交渉とは違い、あくまで穏やかに、そしてしたたかに行われる。こういった私達とは違うコミュニティーの在り方を側から見るのは楽しかった。勿論、依頼主との関係は良好で、各地の畜産物やら儲けの秘訣やら、全く関係のない料理の話なんかもしたっけか。何はともあれ、行動の幅や速度とは裏腹にゆっくりとした体感時間だったことを覚えている。
「んでオヤジ、今日はこん中に携帯食料とか保存食とか持ってきてる露店はないか?」
「ん?そうだなぁ…東通りの奥の方に確かそんなのを取り扱ってるヤツがいた気がするぜ」
「そうか、ありがと」
噴水広場は東西南北へと続く大きな通りが交差している。私の家は西通りのさらに裏道、大通りほど広くない通りに面した3階建てアパートの一室だ。そこから考えると東通りはやや遠く、普段は足を運ばない。あそこは前に押し入ったバッドカンパニーの屋敷もあるし、あんまりいい思い出はないんだよなぁ…。
バッドカンパニーはこの街を拠点とするマフィア組織だ。当然奴らに関していい感想を述べる奴は少ないが、奴らがいるからこそ成り立つシステムというのも存在する。実質この街を管理しているのは奴らと言っても過言じゃなく、その影響力はずさんな保安官なんかより遥か上だ。当然、そんなデカい顔には公安も媚びを売るしか出来ねぇってワケで、正義のお縄も奴らの行いを無視せざるを得ない。
さて、表面上そうすることしか出来ない公安がデカい金を叩いて奴らを黙らせる方法ってのが、うちら傭兵…延いてはその傭兵をいいように活用しようと目論むバーナードだ。バーナードが公安職員でこの街の治安維持を受け持つ限り、私らの身の安全と目の上の瘤への憂さ晴らしが両立できるわけだ。散々馬鹿にしているあの駄犬だが、少なくともヤツが所属してる組織同様に腐りきっている訳ではない。…まあ、だからこそ奴一人の損失でこのバランスは大きく揺らぎかねない。アイツの片棒を一度担いでしまった以上、いつ背後から刺されてもおかしくねぇワケだ。困った困った。
そうこうしている間に東通り最端の露店に辿り着く。こっちの通りは西と違ってやや陰気で物静かだ。目当ての物が売ってるといいんだが…
「オヤジ、まだ売れ残りってあるかい?」
「売れ残りだと?残念だったな、今ちょうどそこの男が買い占めちまったよ」
「ワリぃが一手遅かったなぁ、こいつはオレのもん…ってお前!?」
露店の前にしゃがみ込み買い占めた食料をバックパックに詰め込むその男は、あの夜姿を消したハーティン・ブリッツだった。
既にこの街からは去っているであろうと思っていたが、どうやらまだ滞在していたようだ。
「アルジャーノンじゃねぇか!ハハッ、こんなとこで会うなんて奇遇だなぁ~」
「なんだまだいたのかアンタ…てっきりウサギに切り刻まれたもんだと思ってたよ」
「流石に酷すぎねぇかソレ!?てか、アンタこそその腕どうしたんだよ…!?」
「コイツ?ああ、そのウサギにくれてやっただけさ」
「くれてやった…って、そのウサギはどうしたんだよ?」
「アンタが一向に捕まえに来ないから我が家で縛り上げてあるよ。さっさととっ捕まえに来いよ」
「マァジかよ…アイツを生け捕りとかやるなぁ!」
「流石だろ?まあ、アンタがさっさと狙撃してくれりゃあ片腕無くなることもなかったと思うんだけど…違うかい、スナイパーさん?」
見え見えなんだよ…あの静かな夜に散々ドンパチしてたんだ。そんな中で標的を見失うわけないだろ。
何にシラを切ってるかはよくわからんが、この男があの一部始終を見ていないなんてことはないはずだ。はぐらかしても意味が無い。
…じゃあなんでこんな意味のないことをやった?まだこの街にこいつがいることと言い、なんかきな臭いんだよなぁ…。
「…いやぁ、流石は一流の傭兵さんだ。カンの良さが違うねぇ」
「皮肉と捉えていいかな?生憎、師匠も弟子も代々三流なんだ」
「おっと!気に障ったなら失礼、レディの気を害すのはオレの趣味じゃないんでね」
「ならまずそのヘラヘラフェイスを直すことね。振り向いてほしいヤツにも振り向いてもらえなくなるぜ」
「ご忠告、感謝感謝。まあ正直なところ、アンタと標的の一部始終は観察させてもらったぜ」
「改めてそう言われると覗きみたいだな。趣味の悪い」
「最高の瞬間を射止めるのが狙撃手だからな。そりゃ覗き趣味にもなるってもんだ」
最高に趣味の悪い男だな…。
この男、どうにも掴みどころがない。何が目的でミラルカを泳がせているんだ?
利益が手前にぶら下がっているなら、それを手にするのが常套句だ。それを敢えてしていないのであればその裏にまだ何か企みがあるはずなんだが、それがどこまでが本気かも分らない。だから掴みどころがない。まあこの界隈の人なんてのは大なり小なりみんなそんなもんなんだが、こいつは特にそうだ。ガズベルグとも似ているが、あいつは「胡散臭い」のに対し、こいつは「気味が悪い」のだ。
「…んで、それを全部見ときながらあのウサギを取りに来ないのはどうしてなのかなって」
「そんなん決まってるぜ、その選択がまだ有益じゃないからさ。傭兵としては当たり前だろ?」
「確かに、報酬はそこまで多くないけどね…でもアンタがまだこの街にいる理由はそれとは別なんじゃないのかな?」
「まぁな、この街にはまだまだ美味しいモンが溢れてるからさぁ」
「…その話がどんなもんかは聞かないけど、精々やりすぎには注意することね。下手すればアンタに釘を刺しにいかなくちゃならなくなるわ」
「アンタみたいな別嬪さんに寝首を掻かれるなら、それもそれで悪くねぇなぁ」
「全く、なんでアルの周りには気持ち悪い男しかいないんだか…とりあえずウサギは預かってるよ。必要になったら取りに来ることね」
「獲物のキープありがとよ。そんじゃ、オレはここいらで……そらよっ!」
去り際にバックパックから何かを取り出しこちらに放り投げてきた。
投げられたのはカップラーメンが二つ…なんの嫌味なのか知らないが、普通片手しかない相手に二つも投げないだろう。…まあ、二つ程度で足りるわけはないんだけどね。
地面に落ちたカップラーメンを拾い上げる頃には、ハーティンは目の前から消えていた。
「…気味の悪い男だな」
まあ、事情はともあれあいつがまだミラルカを引き取る気が無いのは分かった。今すぐに引き取るつもりならどのみち断っていたし、結果としては悪くないか。
ちなみに今ミラルカはオール・ド・オウルでアルバイト中だ。酒場で働くようになって久しく経つが、飲み込みが早く客からのウケも良いらしい。どこぞの馬の骨とも知らぬ小児性愛者からも太鼓判を押されているらしいが、そういう奴らは悉く痛い目を見ているようなのでこっちも安心できる。むしろ小児性愛者に同情すらする。まあ仕方ないか。
AM11:30―――この市場も粗方は正午には店じまいだ。正午になると一頻り買い物を終えた人だかりで大通りがごった返す。こうなると帰るのもままならないため、まだ人の隙間のあるうちに帰宅するとしよう。
「ん…あいつらは…?」
帰路の途中で気になるものを発見した。
民家と民家の間の小路地から、見知った顔が縦に四人。人の多い中心街へ向けて何かを見つめる小汚いそいつらは、普段はこんなところには来ないような連中だ。一銭の金も無いのに何をしに来てるんだか…。
「まだかなまだかな?」
「ちょ、乗っかるなよ見えないだろ!」
「やめろって危ないよっ」
「シーっ!声出したらバレちゃうでしょ!」
「ソウダゾソウダゾバレチャウゾー」
「そ、そうだな、今は静かにし…て姉ちゃん!?」
「いつからいたんだよねーちゃん!?」
「いつからも何も今来たところさ」
「ぜんぜん気付かなかったぞ…!?」
そりゃあまぁ、プロですし?
子供を驚かすのは楽しいねぇ。怯えもせず警戒もせず、純粋に驚いてくれる。それもかなりオーバー気味に。新鮮な反応ってのはいいものだ。
「さて…ところでオマエラ、こんなトコにな~にしに来てんだ?」
「それがさ、ネロのおねーちゃんが『すごいもの』見せてくれるんだって」
「ネロぉ?…ハァ~、アンタ達あのバカ猫に連れられてここまで出てきたのか」
「うん!」
「そうかいそうかい…面倒だねぇ」
ネロに連れられてここにきてるってことは、それはもう『ロクでもないこと』しか起こらないってことだ。
ネロは裏町で悪名高いスリ女の黒猫だ。やつはスラムの…こいつらと同じ『ダストボックス』出身というわけで、何故だかこいつらガキどもの姉貴的な存在として慕われているらしい。能力持ちの『野良』故にガキどもと違って金の価値と臭いは分かっていて、処構わずその手癖の悪さを披露している。以前バーナードの財布をぶん取ったのもこいつだ。
どこに行こうとも煙たがられる厄介者だからこそ、その名前が上がるだけで何が起こるかは大体察しがつく。
「…お前ら、悪いことは言わんからあの姉ちゃんは見捨てておうちに戻んな」
「えー!やだよそんなの!」
「おねーちゃんが面白い事するから見ててって言ってたんだもん!」
「見ててくれたら、あとでパンケーキ買ってくれるんだって!」
「ほら…もうなにやらかすか分かるじゃん…」
多分こいつらは梃子でもここから動かないだろう。
分かるよ、こいつらにとってあいつは良くも悪くも最も身近にいる大人で、純粋に尊敬される存在だ。ヒヨコが初めて見た生き物を親だと思うように、そういった刷り込みがこいつらには成されている。
…結局、仕方ないから一部始終をガキどもと一緒に傍観することにした。どの道あいつはことが起こるまでは『現れない』し、何かあったらその場でとっ捕まえてお灸を据えるだけだ。
「…おい店主さんよぉ」
「は、はい?ご用件は何でしょうか…?」
「オメェさん、ここの売買許可証を持ってねぇな?」
「売買許可証…?」
「知らねぇか?バッドカンパニーの所有地で売買を行うための誓約書さ」
「そ、そんな話聞いたことありませんよっ!?」
「そりゃそうだろう、この土地がバッドカンパニーの所有地になったのはつい先日の話さ」
ガキどもと人の流れを眺めて暫く、次第に増えていく人混みの中でそれは起こった。
どうやらバッドカンパニーの役人と露店の間でいざこざが発生したようだ。そういえば以前酒場で小耳に挟んだことがあった気がするなぁ…バッドカンパニーの密売ルートが縮小して資金難に陥った結果、密約関係にある別の企業から搾取を行ったとか、その煽りを受けた下請けの小企業が倒産し、その領地をカンパニー領地として主張し始めたとか…。
この件は街の各地で波紋を呼んでいるそうで、裏町を管理するガズベルグも領地の所有権とショバ代の話で一悶着起こしていたとか…そのおかげか最近、デカい面したカンパニーの構成員を巷でよく見るようになった気がする。ぶっちゃけあまり関わりたくない案件ではあるが、こう目の前で騒動が起こるとなかなか生き辛さを感じるようになったと思わざるを得ない。
カンパニー役人の登場によりその場にいる誰もが騒然とする。気付けば役人と露店を取り囲むように人が広がり、通行どころの騒ぎじゃなくなっていた。
「…おい、流石にこいつは面倒だぞ。もうお前ら早く帰っ…て」
ここは面倒事が起きる前に避難するが吉だ。一旦引くよう促す為にガキどもの方を振り向いたが、私の目に映ったのは血の気を引かせ小さく蹲った、怯える小動物たちであった。
これを見るだけでガキどもとカンパニー役人の間に以前何かあったのは確信したが、四の五の言わず今は退かなきゃ話にならない。なんとかこいつらにかける言葉を捻り出しているうちに、次は役人と商人の間で更に大きな騒ぎが聞こえた。
「オイテメェ!!!!今なにしやがったっ!!!!」
「ぐっ…!!ににに…っ!」
振り返り人混みの隙間から覗いたそこには、今まで一切姿を見せなかったスリ女のネロが役人により地面に叩き伏せられていた。ネロの手には高価そうな財布が握りしめられており、散々頭を地面に押し付けられようともそれを一向に離そうとはしなかった。
なお、突然の出来事に呆気に取られた露店の商人はあたふたと両名を見つめているだけだった。
「ににに……離さない、離さにゃい…!!これでアタシはカネモチになるにゃ……!!」
「ハッハァッ!バカなガキだぜ、オマエが金持ちになるより先に頭が潰れる方が先だろっ!!」
生殺与奪な状況に陥ってもバカみたいな世迷言を口走るネロに役人の方もかなりピリピリきているようだ。短気な役人は腰のホルダーから拳銃を抜き、ネロの頭部へとあてがう。
その場の空気が一瞬硬直したのち、蜘蛛の子を散らすように周囲を取り囲んでいたギャラリーが慌てふためき後退する。
「あんのバカ…!一体なにやってんだよ…っ!」
私は逃げ惑うギャラリーを押しのけ、咄嗟に取り出したスモークグレネードを渦中へと投げ込んだ。
地面に落ちるカツンッという音と共にスモークグレネードが周囲を白煙で包み込む。今ここにいる誰もが予期せぬ展開に、役人の動きが僅かに硬直する。その隙に役人の顔面に膝蹴りを喰らわせ、抑え込まれていたネロを連れてガキどもの蹲っていた小路地へと逃げ込む。今日の予定はもうこのバカに灸を据える以外に選択肢はない。
………
「ゲッホ!ゲホ…ッ!…あ、あんたアルジャーノン…!?」
「よう、ガキどもは先に帰らせたぞ」
小路地を暫く走ったところでネロが目を開けた。さて、どう問い埋めてやろうか…。
「真昼間の往来でとんだ大事件だなぁ、泥棒猫」
「なっ!?……にゃ、にゃんのことかにゃあ~~~…」
「シラを切るんじゃねぇよ人を面倒事に巻き込みやがって。どういう精神してたらあんなバカみたいなマネ出来るんだよ」
「そ……そりゃぁ?だ、誰だって楽してオカネモチになりたいじゃない…??」
「一歩間違えて死んでたとしてもか!?ゴミ山まれでもそこまで愚かだとは思わなかったよ…」
こいつは何を聞いてもきっとシラを切り続けるはずだ。こいつは自分が行ったことが『わるいこと』だという自覚を持ったうえで、それをなんとかして正当化しようと少ない語彙を以って誤魔化そうとしている。手癖の悪さは以前から知っていたが、それを実行する脳みそは更にどうしようもないとは思わなかった。問い詰めるこっちが疲れる…。
「ハァ…もういいよお前。さっさとゴミ山に帰りな」
「た…助けてくれて、ありがとう…?」
「嬉しくもなんもねぇよ。どっか行ってくたばってろっての」
「にゃ…ぁ」
「全く、ガキどもに見せたかったのはこんなことなのかよ…」
「……。」
とんだ蛇足だった…わざわざ時間や労力を割くことじゃない、時間の無駄だった。
私はそのままネロを突っ撥ね小路地に放置してその場を後にした。
PM01:45―――余計な足止めを食らい昼を大きく回ってしまった。この煮え立った気持ちを処理するためにも、まずは空腹を満たすのが先決だ。ウサギのバイトもそろそろ終わる頃だろう…そう考えながら、私は足早にオール・ド・オウルへと向かうのだった。
お久しぶりです、みょみょっくすです。
構想が漸く固まって来たので、満を期して第二部の始動になります。
さて、第二部の開始はジャーノンの街で起きるちょっとした騒動から…ここから暫くは第一部であまりスポットの当たらなかったキャラクターの掘り下げとストーリーを展開していければと思っています。また、彼女が住んでいる世界がどんなもんなのかなどもこれから拡張していく予定です。
二部一話目はネロとハーティン、街の地形とバッドカンパニーについて。第一部のガバガバ設定と違い、第二部は一応全てに理由があるように動機づけを行っていく予定なので、また気長にお付き合いください。
ゆっくりのんびりペースで更新いたしますので、次話も首を長くしてお待ちください~。




