銀狐のアルジャーノン ~第一部 用語解説編~
前回のキャラ紹介から引き続き、今回は作中で出てくる用語や定義の解説を行います。
色々と込み合った話なんかもあるので、ここら辺を知っておくとまた楽しめる味が出てくるかな~とも思います。
また、書きたい用語が増えたりした場合は随時追加していく予定です。
ではどうぞ。
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・グレイヴヤード
アルジャーノン達が暮らす世界の名前。別名『廃棄場』。
読んで字のごとくゴミ溜めの意味そのままであり、表の世界(現代に語り継がれる歴史や伝承、神話や物語)において「必要ない」と判断されたものが行き着く場所。
歴史に存在しない為、明確な所在地があるわけでもなく、表の世界から分断された時間軸に存在する「概念」である。
文化形態も独特で、長い時間をかけて積み上げられた表の世界の文化とは違い、表の世界の様々な場所、時代のものが流れ着く為、それらが入り乱れた歪な文化が構成されつつある。
勿論、流れ着いたものの中で優劣が生じるのは自明の理であり、その中でより便利なものが文化の中心になるのは明確である。現在は1800年代後期~1900年代初頭のヨーロッパのような街並みをベースとしているが、そこに各国各時代の様々なエッセンスが取り込まれて構成されている。
ファッションや武器も人により様々で、重厚な鎧を身に纏う者もいればシャツやパンツを着こなす者もおり、剣や弓を主武装とする者もいれば最新式の機関銃を所持するものもいる。良くも悪くも多様性に富んでいると言えば聞こえがいい。
民度に関しては言わずもがな、歴史上で「不要」なものが流れ着く為ろくな人がいない。正しく言えば「平均的」な人物が少なく、どの人物もどこかしらが尖っているか捻くれている。
ここに流れ着くのは元を辿ると皆「動物」である。それはこの世界という概念自体を人間が生み出したためであり、人間が生み出した概念に動物が適応される結果、動物が「人間」として過ごせる様になったのだ。外部から忘れ去られ、流れ着いた動物に人間としての姿と知性を植え付けられるものの、元となった動物の身体的特徴は人間体にも反映されており、耳や尻尾、腕から伸びる羽などで判別可能。
逆に言うとこの世界に「生きている動物」は居らず、また動物という概念はこの世界において「不要」とされる存在なのである。
・「獣」
グレイヴヤードに暮らす人達に憑き纏う一種の病気のようなもの。
グレイヴヤードが「人に創られたもの」である以上、人のルールに則った変化が生じるこの世界においてそのルールを逸脱する概念がこれにあたる。
言うなれば「元の姿に戻る」ことであるが、それは即ちこの世界で生きていく資格を無くすということであり、再起は不可能である。「獣」になってしまった以上、ただ暴れ、喰らうだけの厄災として処分されることとなる。
「獣」は文字通り本能に従い動き、そこに知性や思考の加わる余地はない。「獣」になった以上、人間体の時の意識は失われてしまう。
作中では初代アルジャーノンが「獣」へと変貌し射殺されたが、処分を下さずとも時間が経つと衰弱し、消滅する。これはグレイヴヤードがこの概念を「不要」としているから起きる現象であり、結果として助かる術はない。
「獣」化はこの世界の誰もが陥る可能性のある問題であり、そのトリガーは人により様々だが「本能で動き続ける」というのが通例である。
分かりやすいのが殺戮や捕食といった攻撃衝動。これをただ「意味もなく」行い続けることで発症する場合が多い。対策としては、その行動に意味や目的を持たせること。理知的にさえ振る舞えば、回避することは不可能ではない。
アルジャーノンの場合は、内に秘める殺人衝動を九天の言霊が助長していたこともあり半ば暴発気味に「獣」化したが、彼女が「銀礼」と「アルジャーノン」の違いを明確に意識した(銀礼を切り離した)ことでこれを阻止した。しかしアルジャーノンに「獣」化衝動が芽生えた場合、彼女はまた「獣」になってしまう。
・傭兵
アルジャーノンやレンドロス、ハーティン達の職業であり、個人間での金銭のやり取りにより生計を立てる兵士である。兵士とは言うものの、どこかに所属している訳ではなく、また明確な思想を掲げる訳でもない。
依頼に見合った報酬を受けとる代わりにその依頼を遂行する・・・謂わば依頼人代行といった見方もできる。基本この世界の傭兵はそういったフリーランスの事を刺す。
アルジャーノンのように偵察や暗殺を得意とするアサシンタイプもいれば、レンドロスのようなガチガチのソルジャーもおり、それぞれが自分に合った依頼、または金銭交渉のしやすい依頼などを受けて日夜活動している。勿論、集団を率いてる者もいる。
最近はあまりに「傭兵」名義で活動する人が増え、その活動内容も戦闘に偏るものではなくなってきたものの、そもそもこの「傭兵」という言葉は外の世界より流れ着いたものであり、その定義をしっかり理解せず使っていたこともあって今更変えられない状態となっている。
・能力
この世界に生きる者達には希に特殊な能力を発現する者がいる。彼らがどういう経緯からその能力を発現するかは不明であり、研究の対象とされている。
作中で登場した(登場する予定)の能力は以下の通り。
「部屋にある物体を手元に転送する」(アルジャーノン)
「傷を付けた場所の周囲に瞬間移動する」(ミラルカ)
「触れたものに炎を纏わせる」(レンドロス)
「契約書に書いた内容を強制的に順守させる」(ガズベルグ)
「触れた物体を任意のタイミングで破裂させる」(バーナード)
「目を閉じてる間だけ身体を透過する」(ネロ)
これ以外にもまだ判明してない能力等も存在する。
主に傭兵界隈では、能力を行使する仕事をフリーランスで行っている者を「野良」、組織や企業に所属している者を「首輪付き」、特定の組織や人物から監視、制限を与えられている者を「タグ付き」と言われており、依頼や目標の指針として提示される場合が多い。
例として、アルジャーノンら個人営業の傭兵は「野良」保安官であるバーナードは「首輪付き」ミラルカのような制限や監視を受けている者が「タグ付き」である。
前述した「武器の多様性」はここから来ている部分もあり、それぞれが手に馴染む、能力に見合う武器を選ぶため優劣が起きにくい状況であるとも言える。
・通貨
グレイヴヤード内にて扱われる通貨は表の世界から流れ着いた通貨システムを元に独自に作り上げられたものである。
最低価値の銅貨『ガルバ』普通価値の銀貨『ベルグ』最高価値の金貨『リーベル』の三種に分類され、それぞれを取引に用いる。
通貨価値は時価や流通により多少変動するものの、平均で500ガルバが1ベルグ、500ベルグが1リーベルといった具合である(以前後書きで書いた通貨価値を訂正。)
基本的に、アルジャーノンらがいる地域で「ただ生きる」場合であれば、ベルグ貨幣10~15枚程で1ヶ月生活できる。質や物価が比較的安いのもあるが、この地域の特徴として「食品が安く、物価が高い」というものがある。衣住を確保していれば、生活は容易である。代わりに、物価は良質な物が流入しにくいのもあり比較的高価で、そこそこいい繊維のシャツで400ガルバ~2ベルグほど、武器等になると大抵はベルグ貨幣を二桁単位で請求される。
傭兵の仕事は命と信用のやり取りでもあるため、依頼によりだがそこそこ高額な報酬を得られる。さらに公安勤めのバーナードはそれの支出を一手に行っているため、さらに貰っているようだ。
逆に、裏町スラムの住民はガルバ貨幣ですら得るのが難しい状態である。これは職や流通システム以前に、スラム住民が「金の価値を理解していない」というのが主な原因でもある。勿論、その中で金の価値を理解しているガズベルグやネロは(手段はどうあれ)そこそこの稼ぎを得ている。
また、この通貨システムはグレイヴヤードで一般的に認知されているだけであり、地区によっては全く違う文化圏、通貨システムを持つ場所も存在する。
・狐霊界
アルジャーノン、もとい銀礼の産まれ故郷。
グレイヴヤードとはまた別の世界であり、この世界ならではの基準や概念が存在している。
現実世界において、その生涯の中で神性を蓄えた一部の狐が新たに生まれ変わる世界であり、この世界で修行を積むことでより神性な存在へと昇華させられる、狐にとっての仙界のような役割を持つ場所である。現実世界における「稲荷神」や「妖狐」といった神や妖怪はこの世界で神性を高め、再度現世に降り立った者達のことである。
転生を果たした際はグレイヴヤードと同じように耳や尻尾の生えた人間として生まれ変わる。狐が人間に姿を変えるのは神性が高まっている証拠であり、最終的には完全な人間体もしくは獣の要素が多く発露した人間体(獣人化や尻尾の増加など)として変質していく。転生であるためそれまでの人生経験は一度リセットされ、両親も生前と異なるものとなる。
『選別の儀』を執り行うことによって時の稲荷神「九天」から前世の記憶をサルベージしてもらうことで過去の己の在り方を知り、潜在する力を引き出すと同時に後の人生を大きく分岐させることになる。人々や仲間から崇められ、善良な前世を贈った者を『善狐』悪事に手を染め、畏怖される前世を贈った者を『野狐』として神を目指すか否かの判決を下される。善狐と断定された者は仙狐や稲荷神といった存在へと格式を高める修行に乗り出せるが、野狐は最終的に悪行を積み妖怪になる以外に道は無くなる。
そういった観点からか、この世界そのものの価値観が非常にお高く止まっている印象が強く、善を当たり前とし邪の一切を許さない傾向がある。銀礼の産まれた『稲月家』は特に顕著であり、善狐の名門であるプライドも合間って、野狐と断定された者を酷く迫害していたようだ。
景観は非常に幽玄であり、常に白い霞が漂う雲の上のような空間に荘厳な和式建築が建ち並んでいる。歪み一つなく敷かれた石畳の道には所々に朱色の鳥居が建ち並び、街一つが白と朱のコントラストで彩られている。
作中で銀礼達が向かった『神の社へ続く道』は集落とは外れた場所にあり、巨大な鳥居を境界線としてその奥を強烈な吹雪が取り囲んでいる。その先は真っ直ぐ続く石畳以外は全て『断界』に直結しており、強い神性と縁が無いと時間の同時知覚による存在定義の破綻により消滅してしまう空間となっている。
―――――――――他、随時更新予定。次回より第二部始動予定…。




