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    Ⅲ.残酷劇の幕開け



 ゲームには必ずルールがあります。



 貴女が参加することもルール。



 途中でやめてはいけないこともルール。



 ルールは守らなくちゃいけないものですよね?



 賢い貴女ならもうおわかりでしょう?



 どんなに足掻こうと逃げることなどできはしないのです。










 +―…+†+…―+



目の前に大きな地図が広げられる。ユノは私が落ち着いてきた頃を見計らい、ローズゲームのルールについて話し始めた。


「ここが黒薔薇の領土、今僕らがいる場所ですね。これらが他の薔薇族の領土、この辺り一帯が他の種族の領土。そして、ここがローズゲームの行われる場所です」


ユノの長い指は地図の上を滑るように移動し、最後にこの地図に描かれている中で最も広い場所を指差した。


「ここは華の国で最も広い森で、唯一誰の領土でもありません。ゲームはここで行われます。五日後の日没までにここに移動し、ゲームが終わるまでこの森から出ることは許されません」


「日没が始まりの合図ってこと?」


「いや、ゲームはもう始まってるぜ。そうじゃなきゃジャンの行動はルール違反になる」


「……ジャン?」


聞き覚えのない名前に私は首を傾げる。予備知識のない私にとって、時に彼らの話は言葉足らずだ。


「ジャン=カルヴァート、狭間にいたあの銀髪の男です。もし五日後の日没が始まりだとしたら、彼はまだ他族の姫君に手を出すことは許されません」


私の問い掛けにすかさずユノが応える。しかし、それでも私には説明不足で、いまいち納得のいかない表情を返すと、彼はすぐにそれを察したようで再び口を開いた。


「まず、ローズゲームには各一族、姫君、正確に言えば先代の姫君の生まれ変わりと代表の騎士ふたり、計15人が参加します。勿論、黒薔薇族の代表騎士は僕とアシル。ジャンは白薔薇族の代表騎士です。そして、代表騎士が姫君を華の国までお連れするのもゲームの内なんです」


そこまで聞いて漸く彼らの言おうとしていることがわかった。だけど、そんなの勝手だ。だって―…。


「つまり、途中で他族のお姫様を見付けたらっちゃっても構わないってこと」


アシルが話に割って入る。表情を変えず俯く私に、まだ説明不足だと勘違いしたらしい。ユノが気を使って遠回しに言ってくれたであろうそれをアシルははっきりと言葉にした。


「……勝手な話ね」


「でも、これがルールだ」


思わず零れた呟き。それに応えたアシルの言葉が妙に腹立たしく感じた。人の命を弄び、それをルールの一言で正当化しようなんて、絶対に許せない。怒りか、恐れか、呆れか、諦めか──言いたいことはたくさんあったけれど、それは言葉になることはなかった。


黙り込む私を前にユノとアシルも口をを閉ざす。重い沈黙の中、不意にユノが立ち上がった。部屋の隅に備え付けられた机へ向かった彼は、その机の引き出しから何かを取り出し、私達のもとへ戻る。


「……姫、これを」


目の前に差し出されたその“何か”に私は息を呑んだ。ゴトンと重い音を立てたそれは黒の拳銃。


「貴女の仰りたいこともわかります。身勝手で理不尽なゲームです。僕達もできることならこんな争いに何も知らない貴女を巻き込みたくはありません。しかし、もし貴女が参加を拒むようなら黒薔薇族の有力者が黙っていないでしょう。逃げることができないのなら進むしかありません。生きて帰りましょう。ですから……」


「……私にこれを使えというの? 無理よ、こんなもの……」


ユノの言葉を遮り、目の前の小型銃を睨むように見つめる。人を傷つけるための道具なんて触りたくもなかった。


「あんたが拒もうと、姫がローズゲームに参加することは絶対だ。ゲームから逃げたところで、怒り狂った有力者どもに処刑されるのがオチさ。あんたが生きる道はゲームに勝つこと、それだけだ。だから武器のひとつくらい持ってなきゃいけない。ローズゲームに丸腰で挑むなんて危険過ぎる」


「だからってこんなもの使えるわけないでしょう!」


感情が抑えきれず、思わず怒鳴ってしまった。一瞬、部屋の中がしんと静まり返る。いたたまれなくなり俯けば、コトンと何かが小さくテーブルを叩いた。


「これも持ってろ」


武器を拒む私にアシルはさらに武器を差し出す。銃の隣には小振りのナイフが置かれていた。


「だからこんなもの使えないって言ってるでしょう! こんな……人を傷つける道具なんて……」


「……姫」


ユノが私を呼ぶ。肩に触れたその手はとても優しく感じた。


「何も貴女に戦えと言っている訳ではありません。僕達が全力で守ります。しかし、何が起こるかわかりません。これは人を傷つけるためではなく、自分を守る、護身用として持っていてください」


「でも……!」


それでも拒もうとする私をもう一度ユノが呼ぶ。優しく、されど、反論を許さないその声色に私は口を噤んだ。


「ローズゲームが本格的に始まるまでまだ少し時間があります。城内にいる限り他族が攻めてくることはありませんから今の内にゆっくり休んでおいて下さい。さぁ、お部屋までお送りします」


ユノに促され立ち上がる。テーブルの上の銃とナイフは置いていくことを許されなかった。


「あぁ、姫。これだけは覚えておいて。俺とユノに何かあってもあんたは振り返らず進むんだ」


アシルを振り返り、目でその言葉の意味を問う。彼は一拍置いて、静かに唇を開いた。


「例えば、騎士がふたり生き残っていても姫が殺されたら負けだし、逆に騎士がふたり殺されても姫さえ生き残っていれば勝ちなんだ。つまり、薔薇姫がふたり以上生きている限りローズゲームは終わらない。だからあんたは自分が生きることだけ考えろ。何があっても俺達に構うな」


アシルの言葉が重くのし掛かる。ひとりになっても最期まで戦わなくてはいけない恐怖。だけど、それ以上に──。


「貴方達はそこまでして何を得たいの……? 地位? 名誉? 死んだら何も意味ないじゃない……」










返って来たのは言葉ではなく、悲しげな笑顔だった──。



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