でも問題ない
知らない天井だ……。
嘘だ。
天井どころか床も見えない。
鉄板のネタがひとつ使えないことにがっかりしている。
そんな自分がなんだかおかしかった。
たぶんオレは今、正常じゃない。
身体はもちろん、ココロも。
「起きたか」
昨日の男の声がした。そういえば名前を聞いていない。
「おはよう」
「おはよう。視力を除けばほぼ完治しているが、体力ばかりはどうにもならんからな。安静にしつつ徐々に運動を始めよう。というわけでまずはコレを飲め」
オレは差し出された、熱いカップを気をつけて受け取った。
漢方のような匂いがする。
「これは?」
「胃腸薬のスープ。断食状態だからな、胃を慣らさないと。味はあんまりしない。薄いコーヒーっぽい感じだ」
一口すすると確かにスープというか薬湯というかという感じの薄味だった。猫舌ならきついだろう熱さ。オレには丁度いい。
ほとんど一気に飲み干した。
差し出したままの手にカップを返す。
「まだ気づいてないのな」
オレは首を傾げた。
「なにが?」
「さて問題です。今オレが立ててる指は何本でしょう?」
「いや、わかるわけないだろ」
「本当に?」
「目が見えてないんだぞ」
「それはほとんど関係ないはずだけども。じゃあ、こうしたら?」
今度は手を伸ばして、オレの耳に近づけた。
「いや、だから――」
待て。
なんでオレはこいつの腕の位置がわかった?
オレは耳に神経を集中させた。
ペリペリという乾いた音がする。これはたぶんオレの脈拍だ。
足元からかつかつと音が聞こえる。これはこいつの貧乏ゆすり。
それから――
「親指、人差し指、小指」
「正解」
「なんで!?」
「たぶん風属性に愛されてるんだと思う。オレも同じことできるし」
「そういう問題か!?」
空気の流れとかそういうのを感知してるのか?
でも空気の流れって風だし、無風状態は感知できないから無風なんだぞ……。
そもそも空気が流れようが、流れた空気自体は肌に触れないと意味ないし、振動がないと音にならないし。
「ブラウン運動を感知してるのかもしれん」
「いずれにしたって、意味不明だろう。風そのものに官能基がないと説明できない」
「そこは魔法がある世界だからなあ」
それを言われるとそうなんだけど。
「そういうわけなので目が見えないことは問題ないと思う。むしろ成長系チートっぽいのがきつい」
「あんたなんでチートとかそんな単語知ってんの!?」
「別にオレにとっての未来人はお前だけじゃない」
「マジか……」
「話を戻して。鍛えられるだけ鍛えてやるけど、10年はこのあたりから出られないと思え」
「チートがあってもそんなにかかるここはどこなんだよ」
「ハナダの洞窟とかディープダンジョン的な土地だ」
「あー……そう……」
ラスダン踏破は前提なのね。
とはいえ。
生きていけるんだな、オレ。
ならばよし!
「よろしくお願いします」
オレは素直に頭を下げた。




