突然の来訪者
―夜―
「ここか」
渡されていた地図をと見比べながら確かめる。流石に、学生寮で暮らすのも問題があるので校長先生がアパートを紹介して貰った。
「とりあえず挨拶は大切だよね」
管理者と書かれた部屋の前に行きチャイムを鳴らす。
「……いないのかな」
もう一度鳴らしてみるがやはり返事がない。
「部屋の場所も分からないからもう少し待とうかな」
とりあえずどこかで時間を潰そうと向きをかえようとした時に声が聞こえた。
「あんたが新しい住人かい?」
振り返ると40代くらいの小太りの女性がいた。
「そうなのですが大家さんが何処に知りませんか?」
「探す必要はないよ。あたしがここの大家だよ」
「失礼しました。私が―――」
自己紹介をしようとするが遮られてしまう。
「大体の事情は把握しているよ。訳ありでも家賃さえ払ってくれれば何にも言わないよ」
「それは助かります」
「人間誰しも秘密があるのだから気にしないよ。それよりあんたの部屋で待っている人がいるから早く行ってやんな」
大家さんから部屋の鍵を受け取り、来客の待つ部屋に向かう。
来客者は知っている人らしく先に部屋に入っているらしい。
いくら知り合いと言ってもまだ誰かも分からない上に、この姿を見られるのはさすがに恥ずかしい。恐る恐る部屋の扉を開け部屋に入る。そこで待っていたのは―――
「おかえりなさい。おにぃ……お姉ちゃん」
「別に言い直さなくてもいいよ。」
部屋にいる来客者は妹の琴恵だった。
「しばらく見ないうちに随分変わったな」
半年ぶりに再会した妹を褒めるが
「その言葉は嬉しいけど、今のお兄ちゃんに言われてもね」
この姿のままでは効果は今一つのようなのですぐに着替えを済ませる。
「着替えちゃったのだ。もう少し見てたかったのに」
「それよりこんな所まで来てどうしたのだ?」
「さり気なく話題変えたよね。まあ、兄さんが留学先から戻っていると聞いて顔を見に来たの」
「引っ越したばかりで散らかってはいるけどせっかく来たのだから寛いでいってくれ」
「じゃ遠慮なく」
そう言うと部屋にあるダンボールを押しのけテレビを見だす。
「晩御飯はどうするんだ?」
「作ってくれるの?」
キラキラした目でこちらを見てくる。
「作れるものならね。何か食べたいものはある?」
「それならコースりょ―――」
「あるものでいいよね」
意見は聴かなかった事にしてありあわせで料理を作っていく。
料理が出来上がり二人で食卓につく。
「要望と違うよ~」
「そうか。食べないんだな」
「うそうそ。ちゃんと食べるよ」
文句を言いながらも琴恵は晩御飯に手をつける。
「まさかこうして一緒に食べるとは思ってなかったよ」
「だってお兄ちゃん留学してから全然帰ってこないんだもん」
「悪かったとは思っているよ。でも今日来たのは、単純に顔を見にきただけじゃないんだろ」
「お母さん達から伝言を預かってきたの」
「伝言の内容は?」
「預かってきた伝言は二つ。まず一つ目は今回の帰国について」
「やっぱり母さん達は反対なのか?」
「心配はしていたけど反対はしてなかったよ。二ヵ月いう時間で何も掴め無かったら大人しく家に帰ってきなさいって」
「猶予の時間を貰えただけでも有難いよ。で、二つ目は?」
「家をリフォームしている間に二人とも海外旅行するからその間はここで暮らしなさいって」
「そんな話聞いてないんだけど」
「初めて言ったしね」
「ちょっと待って。母さんに電話するから」
ケータイを取り出し着信ボタンを押す。
『ただいま電話に出ることができません。御用の方は……』
「電話に出ないんだけど」
「多分今は飛行機に乗ってるんじゃないかな。それよりも宜しくね。お兄ちゃん」
こうして転入後、最初の一日が終わった。