クラスメート
案内された教室の中は思いのほか静かだった。
クラスから好奇の視線を感じる。
教室の静けさとは対照的に緊張で胸の鼓動が早くなる。
「今日から……皆さんと一緒に勉強します。汐音りのんです。宜しくお願いします」
緊張で何だか体が重く感じる。
「汐音は帰国子女だから慣れない部分も多いので全員配慮するように」
水門先生の言葉を聞いてそれまで静かだった周りがざわつきだす。
「紹介も済んだことだし、汐音の座席は窓際の一番後ろだな」
注目を浴びつつも指定された席に着く。席に座る頃には先生の話が再開されたので生徒達は全員教壇を見ている。その中で隣の席に座っている子だけはこちらを見ていた。
目が合うとその子はにんまり笑い、小声で話かけてくる。
「私は緋浜礼佳。宜しくね、汐音さん」
サイドテールにした髪を元気に揺らす、活発な女の子だ。
「ねえねえ。汐音さんは――――」
緋浜さんが話を続けようとした時、水門先生によって遮られる。
「緋浜。話があるなら後にしろ」
注意されてしゅんとなる。
「でも仲良くなったなら放課後にでも校舎を案内してやれ」
敬礼しながら
「はい」
とすぐに元気を取り戻した。
「連絡事項も終わったし、授業を始める」
号令と共に授業が始まった。
授業終わりクラスメートに囲まれていた。
この時期に転校してくるだけでも珍しいのに帰国子女となるとみんな興味があるらしく質問攻めにされていた。
「皆さん。少しは落ち着きなさい」
凛とした声が教室に響く。
「どうしたの?」
「『どうしたの?』じゃありません。全くあなたはいつもいつも……」
何やら言いたい事があるらしく、お小言が始まったのだが全員がにこやかな顔でその光景を見守っている。
「え~と彼女は?」
「このクラスの委員長さんだよ」
「そうなんですか」
「ちょっと、勝手に自己紹介を始めないで下さい」
コホンと咳払いしてから
「私がこのクラスで委員長を務めています。桃堂陽乃です。以後お見知りおきを」
スカートの裾を軽く持ち上げお辞儀する。ちょっとした動作でも洗練されている。
「ところで皆さん、そんなに矢継ぎ早しに質問したら困ってしまうでしょ。特に緋浜さん。あなたはクラス副委員長なのですから気を配らないといけないでしょ」
「あ、そうだね。ごめんね。汐音さん」
「いえ。気にしないで下さい」
「えへへ、でもさすがは頼りになるね、委員長」
「そんな事はありませんわ」
口ではそう言いながらも満更でもない様子。
「一緒にお話したかったんだね」
「そういう事ではありません。とりあえず質問するのは一人ずつ順番にする事、いいですね。皆さん」
『は~い』
こうしてクラスのルールが新たに決まったのだった。