プロローグ
「失礼します」
扉を開け中に入ると数多くの美術品が並べられていた。
一般的な校長室と比べると美術館という方が近い感じがする。
通された部屋の奥には2人の女性が待っていた。
柔和な笑みを浮かべ、イスに腰掛けているのはこの学校の校長先生。
もう一人は眼鏡をかけた知的な女性。面識はないが、恐らくここの教師だろう。
「お久ぶりですね。おかわりはありませんか汐音さん?」
校長先生が穏やかな声で話しかける。
「はい。おかげさまで」
「ここに来たという事は決心したのですね」
「まさか転入する条件がこんな事だとは思いませんでしたけど」
「一度は断られましたがよく決心しましたね」
「向こうでお世話になってる先生に後押しされて考え直したんです」
「彼女らしいですね」
「知っているんですか?」
「ええ、古い友人です。実は、今回の件は彼女から相談されたんですよ」
「そうだったんですね。不安でありますがせっかく頂いた機会なのでやってみようと思います」
「そうですか。それならいいのです」
「けれど自分なんかが入学して本当に宜しいのでしょうか?」
「それはあなたが男性だからですか?」
「そうです。女子校なのに男子が入学するのはまずいのではないでしょうか?」
少し間を置いてから
「確かに問題ではありますが、私は若い才能の芽が摘まれてしまうのも惜しいとも考えているのですよ」
「そう言っていただけるのは有難いのですが自分ではばれるのでは……」
不思議そうに首を傾げ
「見た感じ大丈夫な気がしますよ」
「それはそれで男としてどうなのでしょう」
「まあ、ばれない様に私達がフォローしますよ」
「私達ですか?」
「自己紹介がまだでしたね。私の隣にいらっしゃるのがあなたの担任の水門先生です。相談事があったら彼女にしてね」
今まで話の成り行きを見守っていた水門先生が口を開いた。
「何か困った事があればいつでも来てくれ。それと私や校長先生の他にもう一人いるのだが、生憎今は出張中でね。帰ってきたら連絡しよう」
「色々とご配慮ありがとうございます」
「なに、これも仕事の内だ。むしろ大変になるのはこれからなのだから」
「……そうですよね」
その言葉に思わず、苦笑いが出てしまう。
水門先生は、時計を見ると校長先生の方へ向きを変える。
「校長先生。そろそろ朝礼があるので失礼します」
「では水門先生。頼みましたよ。汐音さんも頑張ってくださいね」
校長先生に見守られながら部屋の外を出た。
「さて行くか」
「行くって何処にですか?」
「決まっているだろ。教室だよ」
そう言って廊下を歩き出した先生の後を慌ててついて行った。