ブトウカイ②
ルゥと五月女が戦っているわけだが、どうやったら勝ちなのかサッパリわからない。大槌を振り回すルゥと、それをかわしながらルゥの周りを回る五月女。ブトウカイ違いだったが、踊っているようにも見える。
武力:13249
これはルゥの数値で、五月女の方は2000前後を行ったり来たりで、一瞬4000くらいに上がることもある。
普通に考えれば五月女が勝てるはずはないのだが……。そもそもこれってどうやったら勝ちなんだ?
「試合用の武具には特殊な加工がなされています。魔法力が力に変換されずに相手の魔法力を散らす様に作用するのですよ」
聞く前に答えてくれるバトラーさんってば素敵。
「そして魔法力をある程度散らしたら負け……か。お主らの頃は殴り合いだったのに、技術は進化するものだな。儂らも年を取るはずだ」
さっきからそればっかりな大旦那様。
「殴り合いどころか、あんな大槌で叩いたりしたら大怪我をするんじゃないですか?」
もっともな疑問をぶつけてみた。
「随分と過保護な発想だな。魔法力が散らされるといっても保護に働く魔法力は散らぬのだ。大してダメージはあるまい」
大旦那様に呆れられてしまった。魔法力とか知らないんだし仕方がないじゃないですか。
「それに多少の怪我なら治癒魔法で治せるので大きな問題はありません」
バトラーさんが補足してくれた。治癒魔法の影響で怪我に対する意識が地球人の俺とは根本的に違うらしい。確かにそうじゃなきゃ、女の子が武器を持って戦うとかないよなぁ。怪力具合とかは女の子と呼んでいいのかわからないけど。
大旦那様が直立不動のバトラーさんを一瞥すると質問を出した。
「あの五月女という少女は何をしたいんだ?」
俺も疑問に思っていたことだった。五月女なら一気に懐に入りそうなものなのに、そんな気配が一切ない。ルゥを遠巻きに舞うように移動しながら牽制打を放つだけなのだ。
「ルゥ様の呼吸を測っているようですな」
「ルゥちゃんは儂のところの若い衆を全員倒したほどの猛者だ。隙など作らんだろ」
ルゥはゴリラ達に圧勝していたらしい。もっともお嬢様の目くらましで転ばされていたけどね。
「はい。ですから呼吸を合わせて一気に接近する気なのです。そこで一気呵成に勝負をつけるつもりなのでしょう」
「ふむ。お主はどちらに勝ってもらいたい?」
大旦那様に話を振られた。そう言えば、勝負の帰趨で俺の立場が変わるんだった。五月女が勝てば俺は自由の身。ルゥが勝てば……ハガン候へのお土産。あんな雪深い所は嫌だし、それ以前に人体実験とかもされそうな雰囲気なんだよな。そうなると結論は自ずと決まってくる。
「そりゃ五月女です!」
うん。断言できる。
「ルゥちゃん達も随分と嫌われたものだな」
大旦那様はどこか意地悪そうに苦笑いを浮かべると、再びバトラーさんに質問をぶつけた。
「この勝負はどちらが勝つと見る?」
「五月女様ですな」
武力があんなに違うのに? そんな俺の疑問に答える……というよりも大旦那様が嫌な顔をしたのでバトラーさんが説明を加えた。大旦那様はルゥの事をよほど気に入っているのだろう。
「理由は三点。まず、魔法力を散らせば良いだけなので、五月女様にも勝ち目があります。むしろ技術的に優位な五月女様の方が有利ともいえます」
魔法力がなにか解らないがそうらしい。
「次に、槌は接近されると攻撃手段が一気に狭まります。それこそ柄で殴る、石突で突くのみですな。ルゥ様は手甲・足甲をしておりませんのでルール上殴ることも蹴ることも出来ません」
武力13000のキックか。確かに死人が出そうだ。少なくとも俺なら死亡余裕です。
「三つ目ですが、ルゥ様は後ろに下がりません。前進あるのみなので、懐に入られたら反撃ができないのです」
なんか漫画でそんなキャラが居たな。秘孔が効かないんだっけ?
「確かにルゥちゃんが後退するなど考えられんなぁ」
「もしルゥ様が戦いの主導権を握れば、五月女様は高速の鎚に追いやられ遠からず場外となります。ここは重要な主導権を争い前進を許さない五月女様を褒めるべきでしょう。仮にルゥ様が強引にでも突進すれば一気に終わるでしょうが」
「ふむ。ルゥちゃんが強引に突進すれば終わると?」
「はい。一瞬でしょう」
大旦那様はバトラーさんの返事を聞くと薄ら笑いを浮かべて、大きく息を吸った。
「ルゥちゃん! 強引に突撃だー!」
そして、突然の大声。それに呼応するようにルゥが五月女に向かって、猛然と突進した。いや、あんたが応援しているのは孫の天敵ですよ?
五月女はルゥの突進を紙一重で避けるとそのままルゥから離れずに、連打を繰り出す。
「おい、バトラー! どうなってる!」
それを見た大旦那様がバトラーを怒鳴りつける。
「ですから一瞬で終わると」
「貴様……。謀りおったなぁ」
「私はお嬢様の味方でございますから」
青筋を立てる大旦那様に対して、いつもと変わらない柔和な笑顔を向けるバトラーさん。
「儂を誰だと思っておる!」
「お嬢様の祖父と心得ています」
「それが儂のルゥちゃんの味方をせんでどうする!」
「私の主人はお嬢様ただ一人でございます」
怒鳴り散らす大旦那様に平然と対応するバトラーさん。俺としては大旦那様の剣幕が凄くて逃げたい訳ですが。
「ルゥ様は良い戦士ですが、お嬢様の戦い方と相性が悪いのがいけないのです」
そして軽く笑うバトラーさん。赤いロボットにでも乗りそうである。そんな事を思っていると大歓声が起こった。
見れば地面に片膝をついているルゥとそのルゥに手を差し伸べる五月女。バトラーさんの言う通り、一瞬で終わったらしかった。




