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あたしの為に争わないで

 翌日の教室にルゥの姿はなかった。隣が空席なのは落ち着かないが、トラブルがなさそうで何よりである。

 そんな風に思っていたら、昼休みと同時にルゥが登校してきた。そして真っ直ぐに俺の所にやってきた。

「来い! 貴子ちゃんと再び商談だ」

 言うが早いか俺の腕を取る。いや、昨日のって商談なのか? 「くれ」と言って殴り掛かったり、「くれ」と言って断られると周りに暴力を振ったりするのは、少なくとも日本では商談とは言わない。

 俺にルゥを振りほどくことなんて出来ない訳だから、大人しく付いて行く。無駄な抵抗をして腕でも折られたら馬鹿らしいし。そして後ろから安寿が心配そうについてくる。物の弾みで腕を折られたら治してもらおう。


 そして二日連続の特別科校舎。さすがに今回は誰も近づこうとしない。教室から恐る恐る覗かれてはいるが、ルゥはといえばどこ吹く風である。

「むぅ……貴子ちゃんはどこにいるのだ?」

 相変わらずの無計画である。

「竜安寺貴子さんをお探しですか?」

 そんなルゥに声をかけて来る命知らずが一人。誰かと思えば昨日ノックダウンさせられた栗林だった。

「中庭で紅茶を飲んでいるはずですよ」

「ふむ。ご苦労であった。下がって良いぞ」

「案内しますよ。いやぁ、しかし侯爵令嬢とは知らずに失礼を----」

 媚びた声を出していた栗林がいつの間にか空を飛んでいた。

「ふははっ! 隙だらけである」

 ああ、ルゥがまた殴ったのか。頭がおかしい。その被害者に安寿が治癒魔法を使っている。昨日も見た光景である。

「行くぞ」

 そして、それを気にする様子もなく俺を引っ張るルゥ。これがゆとり教育の弊害か。うん、ゆとり教育は関係ないね。ゆとり教育もなにも、ここって異世界だし。


 中庭ではお嬢様とリチャード様が優雅に紅茶を飲んでいた。珍しい組み合わせである。一応は婚約者同士なんだけどね。

「おう、ここじゃったか」

 そんなお嬢様にルゥが声をかける。

「あら、ルゥ様じゃございませんこと」

 昨日の完勝の余裕か、気分良さそうに応じるお嬢様。

「突然で申し訳ないが、コヤツをくれ」

 そして用件を告げるルゥ。突然もなにも昨日からそれしか言ってないじゃないか。

「お断りしますわ」

 そして高笑い。嬉しそうだなぁ。

「ふむ、わかった。ではコヤツをくれ」

 いったい何をわかったのだろうか?

「お断りしますわ」

 再びの高笑い。

「ふむ、仕方がない。ではコヤツを----」

「お断りしますわ」

 言葉を遮り、三度の高笑い。なんだろう、このゲームの『はい』を選ばないと先に進めない感じの問答は?


「横から口を挟んで申し訳ないが、このままでは拉致があかないみたいだね。そこでどうだろう、舞踏会で勝った方が彼を貰い受けるというのは?」

 イケメンさんが爽やかボイスで提案してきた。舞踏会にコンテストでもあるのか?

「あ、それならボクも参加するよ!」

 それをどこで見ていたのか、五月女が突然に湧いて出た。

「山猿は下がってなさい」

「おう、これはリチャード殿」

 そんな五月女に反応するお嬢様とルゥ。山猿でもリチャード様でもないのだが……。

「初めからわたくしの使用人でしてよ。いくらリチャード様の提案といえども、あまりにもメリットがなさすぎますわ」

 お嬢様の言い分は至極当然である。俺としてもルゥに勝たれて北国に連行されて、下手すれば人体実験とか解剖なんて目に遭うのは勘弁だ。五月女が勝っても、アイツじゃ俺を養えないだろ? そうすると無職の俺は野垂れ死に。これも勘弁だな。要するに、不満はあるがお嬢様の使用人という現状が一番ってことだ。

「はっは~ん。竜安寺さんは勝てる自信がないんだ?」

「馬鹿な事を」

 甲斐性なしな五月女がお嬢様を挑発するが、お嬢様は一笑に付す。頼むから挑発に乗らないでくださいよ。

「うんうん。言わなくてもいいよ。損するってわかりきってる賭けだもんね」

 こんな見え見えで安っぽい挑発なら大丈夫だろう。

「冗談じゃございませんわ! わたくしが負けるとでも⁉」

 ……乗っちゃうんだ。

「え、えーっとですね……」

 解剖とか野垂れ死にとか冗談じゃない。俺も参加させてもらおう。なにより、俺のことだし。

「馬野クンは黙ってて」

「ええ。使用人が勝手に意見を言わないでください」

 そして拒否される俺。

「解りましたわ。舞踏会の優勝者に馬野を差し上げますわ」

「おお! ならば我は今から修行してこねば」

 ルゥも踊るの⁉ と突っ込む間もなく、ルゥはどこかへ走り去ってしまった。

「そう言うことならボクも練習しないと」

「それなら僕に手伝わせてくれないか」

「わたしも行きます」

「よし、ガンバロー‼」

 五月女にリチャード様と安寿が声をかけると、三人揃ってどこかへと行ってしまった。

 お嬢様はどことなく寂しげにそれを見ていたが、いきなり立ち上がった。

「馬野! わたくし達も屋敷に帰りますわよ」

 お嬢様も特訓ですか?

 学校の存在っていったい……。それにあれだね、舞踏会はもっと優雅にやって欲しいものだ。人を賞品にして熱血修行とか、俺の想像していた舞踏会と違い過ぎる。

 ひとつ言える事は、気が付けば俺ってヒロイン枠だった。だけど、嬉しくない。だって、人権がない使用人か、人体実験に供されそうな北国送りか、無職になって野垂れ死にかの三択なんだもん。こんなヒロインは嫌だよな、うん。なかなかに平穏無事とはいかないものである。

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