汚名挽回
俺は今、学校に居る。普段と違う大きな教室で一人ぽつんと座っている。どうして、こうなったのだろう。
ほんの数日前は、「よくやった」とゴブリンを追い払った主役の扱いを受けたし、いけ好かないロベルトとかいう男からは「潜んでいるゴブリンまで見つけるとは……」なんて意味のない高評価を受けていたのに、今は一人。その時は汚名を返上したと思っていた。
今から考えると、マサラ鉱山の帰路からおかしかったのだ。松尾さんから屋敷に居る時よりも厳しい訓練を強いられたかと思ったら、妙に優しく「今日は疲れただろうから、駅に泊まって行くか」なんておおよそらしくなかった。いや、後に暴露されたのだが、その理由は実に松尾さんらしかった。
「試験は今日で終わりだってな。試験内容はどうだった?」
屋敷に帰りつく直前の駅でニッコリ。松尾さんの素敵な笑顔は今でも忘れられない。
「俺達を差し置いて学校に行っている以上は……まぁ、多少は仕方ねぇよな?」
百パーセント悪意でした。字が読めない俺は試験を受けても白紙だったろうから別に構わないのだが。
そんなことがあったわけで、俺は試験が終わり休みに入った学校で、追試代わりの授業とやらを受ける羽目になっているわけである。
異世界共通なのかこの学校特有なのか、あるいは元の世界でもあることなのか、高校に行けなかった俺には判断が付きかねることだが、期間内に試験が駄目だったと申告すれば追試代わりの補講で済むらしい。逆に申告なしで赤点だと追試という話だった。試験すら受けてない俺は当然ながら前者を選択した。
……そうして今の俺は一人。そう思っていたら教室のドアが開かれた。
「お⁉ 馬野クンじゃん。久しぶり~」
五月女美菜であった。彼女は当然の様に俺の横に座る。
「試験を休んだらしいね? 一緒に勉強する約束だったのが音信不通になったって、安寿が心配してたよ」
ええ、そうでした。図書館に行くはずが、どこかの町に連れて行かれた挙句、ゴブリンに包囲されていました。酷いな、異世界。
「その安寿は?」
「王子様や竜安寺さん達と海だって。羨ましいよね~。ボクの場合は補講が無くても調練があるから行けないけどさ」
そういえば、ベアトリクスさんや松尾さんが慌ただしくしていたな。あれは海に行く準備だったのだろう。
俺が付いて行ったら……大きなタコの化け物が出てきてもエロイベントが起きることも無くお嬢様に「あれくらい倒して来なさい」なんて言われたんだろうな。強い、弱い以前に泳げないのに。
「ところで、これって特別科の人も一緒に受けるの?」
「一緒に受けるって言うか……基本的に特別科用みたいなところがあるから」
流石の五月女も言い難そうであった。普通科でごめんね。
「あ、キミがどうこうって言うんじゃなくて特別科の方が赤点の基準が厳しいのと、この授業って受講料が高いからさ。普通科の人で受ける人はあんまり居ないって意味だからね」
精一杯の説明をして、さらに加える。
「貴族みたいに正規じゃない……ボクみたいに別枠で特別科へ通ってる場合は受講料がタダだから不安に思ってる人は気軽に受けちゃうんだよ。特にボクなんかは休みに入ったからって遊びに行けるわけじゃなく、どの道毎日寮と学校の往復だもん。最低限の及第点になっちゃうけど、落第しちゃうよりはいいしね。」
ええ。よーく、わかります。なんと言っても、高校落第生ですから。しかし、受講料が高いのか。また、給料から天引きされる気がする。初給料はいつになることやら……。
「あ、先生が来たみたい」
言うが早いか、五月女は居住まいを正した。
大きな教室に二人。それが並んだ状況で授業が始まった。ただ、一方は受けることに問題がない特別科、片や滅多にいない普通科。お嬢様に当家の恥と再び怒られそうな状況であった。原因はお嬢様なのに。いや、字が読めないのだからどのみち一緒か。ってか、俺はなんで学校に通ってるんだっけ?




