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実技試験のパーティー分け

 (くだん)の実技試験とやらは直ぐに訪れた。具体的にはあれから一週間後である。

 なんでも試験は三人内のパーティーを任意で組み、魔法で生成されたダンジョンを抜けるものだという。貴族が通ってたり豪華な食堂があったかと思うとゲームの冒険者の様な試験。この学校ってなんなんだ? 文字すら読めない俺には関係ないけど。

 この試験で使うダンジョンにはモンスターがいたり罠があったりするらしい。そうなるとぷにゅ伝説を持つ俺は当然のことながら声がかからない道理である。体育の準備体操での二人組のトラウマが蘇る。もっとも、実力不足って理由がハッキリしてる分、同じぼっちでもマシなのかもしれない。……などと、気休めを考えてみても俺の脆弱さがマシになるわけではない。死にかねない&理由はなんにしてもぼっちという事実は変わらないのである。

 そんな解り切った事実の壁にぶつかっている俺に対して、もう一つの難問が突きつけられた。

「あの淫乱ピンクがリチャード様をダンジョンの暗がりで誘惑しない様に監視しなさい。……もし、あのピンクに不慮の事故があったとしても誰かが咎められるということはないでしょう」

 我が主たる竜安寺貴子様から斯様(かよう)下知げちうけたまわったのである。

 要するに間違いなく足手まといになる俺が、五十三万の相性を持つカップルのパーティーに入れてもらって、かつ、その仲を邪魔して、その非力な力で不慮の事故を起こせと……無理です。


 そんなこんなで迎えた試験の当日。学校の裏山にあるダンジョン前の広場には特別科と普通科の生徒が混在して集まっていた。従者が普通科に居ることもあるからと、特別科と普通科が合同で受けるのだという。そして銘々が自然とパーティーを組み始める。以前から同じ面子で組んでいるのか、事前に約束していたのか、主従関係があるのか、いずれにせよ、それは非常にスムーズに進み、非情とういうべきか当然というべきか、やはり俺は一人になった。予想の通りであった。

 どうしようかと悩んでいると、後ろから声をかけられた。

「馬野クン、馬野クン」

 振り返ると五月女美菜がそこにいた。

「転校してきたばっかりだし、ぷにゅの件もあるから一人だよね?」

 馬鹿にした感じではないが、中々に心を(えぐ)る質問をしてくる。

「ボクと一緒に行こうよ。こう見えてボクって結構強いんだよ」

 無い胸を張る少女を半信半疑で見ていると例の数字が浮かぶ。


 武力:408


 周りを見ると普通科の生徒は大体30~40。特別科の生徒でも200前後。見る限りだと、リチャード様の710、お嬢様の416に次ぐ三番目の数値だった。普通に強かった。

「いや、でも……」

 一緒に行きたい、否、守ってもらいたい! だけど……お嬢様の命令があるんだよなぁ。

「この前の賭けを気にしてるのかい? あんなのはボクが頭を下げれば良いだけなんだからさ。それよりもキミは困ってるんだろう? なら、一緒に行こうよ!」

 お嬢様と敵対している人達はどうしてこうも良い人ばっかりなのだろうか。

「それならお言葉に甘えて……」

 どうせ、あの二人には断られるんだから好意に甘えよう。俺がそう決めた瞬間、あの人がやってきた。

「あらあら、考えましたわね。ぷにゅに負けるほどの逸材を連れて行けば、わたくしに負ける言い訳ができますものね」

 仮に万引きの瞬間を見られたのならば、こんな感覚に襲われるのだろう。屋敷を追い出される大ピンチである。屋敷を追い出される=庇護者のないまま異世界に放り出されるであるから、万引きが見つかった以上に危機的な状況である。

 一方で小麦色した天使はお嬢様の挑発に対して堂々と答える。

「ハンディキャップみたいなものだもん。それに彼はきっと役に立つよ!」

 どっちなのですか? 意味が分かりません。考えるまでもなく常識的には前者なのだが。

「なんだ、また揉めているのかい?」

 騒動を諫めるかの様に爽やかな声がした。

「嫌ですわ、リチャード様。山猿が一方的にキーキーと喚いているだけですわ」

「お嬢様、逆でございます。少なくともお嬢様の声の方が高いです」お嬢様の(げん)に対して、口が裂けても言えないことを心のうちでしておいた。

 リチャード様は一瞬またかといった表情をした後、俺に気が付き声をかけてきた。

「そうそう、馬野君だっけ?君のことを探していたんだよ」

 そして続ける。

「出来れば一緒に来て欲しくてね」

 いつの間にフラグを建ててしまっていたのか? 慌てて好感度を確認する。


 好感度:72


 お嬢様には勝った。

「えーっ⁉ ボクが一緒に行こうと思ってたのに~」

 そして何故か残念がる五月女。俺としても女の子と行きたいが、お嬢様の命令とリアル生命の危機的には、爽やかマン一択だろう。それが多少、将来的には痔となる危険性を孕んでいたとしても……だ。命と肛門は天秤にかけられないのである。

「安寿が偉く気にしててね。それにこっちの方が色々と安全だとは思わないか?」

 デスヨネー。安寿に頼まれて俺を入れようとしていたらしい。なにしろ安寿に対しての好感度は五十三万である。好感度:72なら問題ない。ひとまず貞操もとい肛門の危機が去った様で何よりである。

「残念だけど、確かに安寿と王子様が居る組の方が安全だよね。仕方がないから今回は譲るよ」

 俺の意見とは関係なく譲渡がなされたようだった。

「いや、僕は王子ではないのだけれども……」

「いいじゃん。似たようなものなんだし! それよりも……」

 王子であることを否定する王子様を軽くいなし、五月女は俺にそっと耳打ちをした。

「安寿と王子様のデートを邪魔しちゃだめだよ」

 そして立ち去った。俺の仕事は二人のデートを邪魔することなんだけどなぁ。

 そしてお嬢様はと言うと「栗林(くりばやし)さん、亀島かめしまさん、行きますわよ」と中庭で一緒に居た二人の男子生徒を引きつれて去って行った。去り際に俺を一瞥し「解っていらっしゃるわよね?」と目で念を押された様な気がしたが、気のせい……だったらいいなぁ。だって、遅れてやってきた安寿は俺への挨拶もそこそこ王子様と二人だけの世界を作ってらっしゃるんですもの。あんな桃色(ピンク・)世界(ワールド)に踏み込むとか無理。

 ともあれ、ここまではお嬢様の命令を達成することが出来た。……俺は何もやってないけど。

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