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蒼い月(1-12)

「あれ~? もう二人とも~上がったの~?」

 しかしその(よこしま)な青春白書は独特の間延びした声によって遮られてしまうのだった。


「「香山さん!?」」


「い……いつからソコに?」

「いつからって~、今来て~、今から通り過ぎるトコロだったのよ~」

「……別に、足音を忍ばせたつもりは無いんだけどね」

 宗像玖耶の戸惑いに香山美衣が応え泉水七零が後ろから顔を覗かせた。

「月光浴なんてなかなか風流な事をするじゃないか」

「風流だなんて……あはは……」

 苦笑する宗像玖耶とその背中に身を潜めしがみつく樋口羽衣美の様子を見れば何があったのかはもちろん二人にも大方の予想が付き、そしてそんな予想が付く事もまた縁側に腰掛ける二人には容易に予想が付くのだった。

「あらあら~、そう言えば知ってる~? 日本人は昔から~、風流なエロスが大好物なのよ~」

「いや、いやいやいや! 香山さん、絶対に何か誤解してますって!」

「……まぁ、君達がそういう関係になったとしてもボク等が特に口を挟む事ではないしね」

「いや……まぁその……」

「あらあら~否定しないトコロを見るとやっぱり~、そ・う・い・う~、関係なのかしら~?」

「いや、何と言うかその……って、それは置いといて、加治佐さんとみす……樋口妹は?」

「……二人はまだ温泉だよ。眞子が二人きりでのんびりしたいと言い出してね」

「へー、そうなのか? じゃあ俺もそろそろ入らないとな……」

「なんだ、まだ入ってなかったのかい? 羽衣美さんは?」

「ワ……ワタシはもう入りました……」

 相変わらずもじもじとした様子で樋口羽衣美は宗像玖耶の背後から顔を出してそう答えた。

「「ふーん……」」

 (いぶか)しむ二人の視線がちくちくと宗像玖耶の首筋をくすぐる。

「ふふふっ、まぁ良いさ。眞子達も長湯にはならないだろうしそれまでには浴室に向かう事だね。あぁ、……もちろん一人で、ね?」

「じゃ~そろそろお邪魔虫は~退散しましょ~! 待ったね~!」

 樋口羽衣美と同じ浴衣を着た二人はそのまま縁側を進み暗がりへと消えた。すぐに階段を上がる音が響きどうやら出歯亀の心配は無いと判断した宗像玖耶はやれやれと言った面持ちで頭をかきながら振り向く。


「じゃあそろそろ、……入ってくるかな」

「あ、あのっ……」

「ん?」

 見れば樋口羽衣美の顔は未だ紅潮し、落ち着き無くうつむきながら左右交互に視線を泳がせていた。

「……どうしたんだ? 二人はもう二階に行ったぞ?」

「あのっ……えぇとですね、きっと宗像さんが上がった時にはもう皆さん勢揃いでおそらく枕投げなんか始めちゃったりしてると思うんです」

「……はい?」

「だからですね、明日は午前中にこちらを出ますしもうその……あの……たぶん二人きりになれるのは……今だけ……」

「あぁ。……そうかもしれないな」

 そう言われると途端に宗像玖耶もその場を離れるのが名残惜しくなってくる。冷静に考えてみればいずれにせよ彼がシャワーを上がる頃にはこの古民家に居る全員が二人の交際を知る事になるだろう。ならば仮にこの場で加治佐眞子や樋口魅翠奈に目撃されても、もはや構わないのではないだろうか。

「じゃあ、……もう少し、このままで居るか?」

「っ! ……ハイっ。あ、あと、あの……もし、宗像さんが嫌じゃなければ、なんですけど、でもその、こういうのは記念日と言うか、勢いも大事かと思いましてっ……」

 徐々に熱を帯びる口調とは裏腹にその音量は(すぼ)み、数十センチの距離に居るはずの宗像玖耶にすら夜風に掻き消されはっきりとは聞き取れない。だがしかし、きっと何か人生における分岐点的な出来事が間もなく起こるとの予感が頭を駆け抜けて――


「っ……」

 二人は、口づけを交わす――


 ――全ては、月が綺麗な夜の出来事。

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