予感(1-3)
「……はぁ」
「……ふぅ」
二十分後。会場を後にし頭を抱えながら廊下を歩く二人からはため息しか吐き出されない。
二人のいるクラスの出店位置は敷地内を南北に縦断するメインストリートの中でも大学祭中もっとも賑わいが予想される中心地より南側、かと言って南側敷地外出入り口からもそれなりに距離があるというパッと見でも人が通り過ぎるだけだろうと感じざるを得ない中途半端な場所になってしまったのだった。ライバルの多い焼き鳥屋台においては尚更致命的だろう。
「まぁ、引いてしまったものはしょうがないですよね。あとは皆のやる気次第で何とか……」
「やる気かぁ……ただでさえ皆、自由奔放だからなぁ……」
高校生でいうところの部活に相当する大学のサークルは一部を除き娯楽要素が非常に強い。受験勉強に耐え新天地での生活に慣れてきた今日この頃、自由に恋い焦がれクラスや授業そっちのけでサークル中心の生活を送っている者も多く大学祭でもその活動を優先するクラスメイトは多いと二人は感じていた。
「あのう……ワタシ、屋台のシフト増やしておきますね? まだ、なかなか予定が分からない人もたくさんいますし……」
「いやいやいや! 樋口はサークルもあるんだろ? クジ引いたのは俺だし、俺のシフトを増やしといてくれよ」
「良いんですか? じゃあ、……やっぱりワタシも増やしますね。……二人とも頑張って、思い出の残る楽しい大学祭にしましょうね!」
「おうよっ! 任せとけって!」
自動ドアが開き再び二人は一般教育棟ロビーへと足を踏み入れた。既に受付窓口にはカーテンが降り人も疎らである。
「お、あれ樋口妹じゃん? おーい! 樋口妹~!」
「だから、その呼び方はちょっと……」
樋口羽衣美は苦笑いを浮かべ頬をかくのだった。
「やれやれ、もう夜だな……」
外に出た三人が顔を上げると広がる景色は夕暮れが終わるまさにその直前で、一般教育棟の背後から差し込むオレンジと紫の光が空を支配していた。
「キレイな空ですね……ワタシこんな空、初めて見ました」
「……」
「あぁ、……綺麗だな」
その直前に自身でも口にしたというのに、何故か樋口羽衣美は『綺麗』というその単語にぴくり、と反応してしまう。
「あ……」
空を眺める宗像玖耶を横目で見ると、その表情はいつもと大して変わらないはずなのに何だか頼もしいように思えた。その表情に満足した彼女は再び笑顔で二人と共に空を見上げる。
改めて見るその夕焼けはとても神秘的で、まるで何かの始まりを予感させるかのようだった。
「……そろそろ、帰るか。二人とも、駅まで送ってくよ」
「ハイっ!」
こくり、と樋口魅翠奈も無言で頷いた。
地方出身の宗像玖耶は大学周辺に一人暮らしだが樋口姉妹は実家から電車で通っている。改札口で別れ電車に揺られる樋口羽衣美は妹と座席に座りながら何となしに、宗像玖耶と初めて出会った入学式の日の事を思い出していた。
――そう言えば、あの日は……




