蒼い月(1-1)
「「かんぱ~い!」」
大学祭が無事終了し、月日も流れ七月上旬。
「それにしても……こんな事になるなんてなぁ……」
宗像玖耶はそんな独り言をつぶやいた。
「あら~、せっかくなんだから~楽しい方が良いでしょ~? そ・れ・と・も~、女の子には興味ないのかしら~?」
「いえ……そういう事ではないんですけどね……」
そう言って周りを見回す彼の視界にはあの大学祭の夜に関わった女性全員が存在した。すなわち加治佐眞子、樋口羽衣美、香山美衣、泉水七零、そして……樋口魅翠奈がこの場には居るのである。そして彼も含む計六人が現在、何をしているのかと言えば、
「せっかくだから宗像さんも楽しみましょう! ほらほら、お肉焼けてますよ?」
庭先でバーベキューを楽しんでいるのであった。
「お、おう」
場所は大学から車で三時間程の距離にある避暑地、森に囲まれた古民家風の建物。
何故こんな場所でこんな事をしているかといえば、加治佐眞子がそう提案したからだ。
「ほら、魅翠奈も……いる?」
そう言って樋口羽衣美は網焼き器を挟み対面に居る樋口魅翠奈に串を差し出す。
「……うん」
右手で串を受け取る樋口魅翠奈の左腕はやはり存在しない。構内では常に加治佐眞子の左腕を付けているので事情を知っている宗像玖耶も実際に片腕で行動する本人を見るのは初めてだ。
大学祭三日目の朝、目が覚めた樋口魅翠奈は自身でも意外な程に落ち着いていたという。
「……何と、言うか、……自分に何が、起こった、のか、目が覚める前、からもう、分かってて……だから、左腕が無い事も、あぁそうだった、って……」
そんな台詞を宗像玖耶は思い出していた。
話を進めてみると、加治佐眞子が夢に出て来て包み込むように抱き締めながら優しく諭してくれたのだと言う。
――あの加治佐ならそういうのもアリ、か。
一連の出来事を間近で目撃した彼はそう考え納得していた。
そんな加治佐眞子が何故こんな場所で一泊二日の旅行を提案してきたかといえば、樋口魅翠奈の経過具合をその目で長時間連続的に確認しつつ蛹についてもう少し皆に話しておきたい事がある、との事だった。
――そう。この旅行は一泊二日、お泊まりなのである。
「おいおい、泊まりはマズいだろ、泊まりは!」
「あら……何故マズいのか、よろしければご説明いただけるかしら?」
初心なのね、と言わんばかりの表情を伴って陥落にかかる加治佐眞子は実に楽しそうで、何を言っても無駄と観念した宗像玖耶は覚悟を決め旅行に挑むのだった。
「そっちの野菜も焼けたかしら、七零?」
樋口魅翠奈の隣に立つ加治佐眞子がその逆側に居る泉水七零に声を掛ける。更にその隣が宗像玖耶、その隣が樋口羽衣美、その隣が香山美衣と続き網焼き器を囲んでいるのだった。
「そうだね、もう食べ頃だよ」
唯一の男手である宗像玖耶だけではなく各々で好きなように肉を焼いているという事もあり皆、普段とは違う機能美重視の服装だった。加治佐眞子は白いTシャツに黒のショートパンツそして赤いエプロン姿であり泉水七零は黒いTシャツに黒白赤の短いラインが錯綜し足首までの長さがあるパンツを履いている。
「絞りたてのフルーツジュースも美味しいわ~」
香山美衣は灰色のトレーナーワンピースを着用し大学祭の時のようなロングスカート姿では分からなかったすらりと長い脚を披露していた。
「……お姉ちゃんも、……食べて」
樋口魅翠奈は天の川のような模様入りの黒く丈が短めなワンピースに灰色の前開き型ノースリーブチュニックを重ねた服装でありおそらくは片腕でも簡単に着替えられる組み合わせなのだろうと宗像玖耶は感じていた。
「そうだね、それではお言葉に甘えて……えへへ」
総じて皆汚れても大丈夫なようにと考えられたラフな服装の中、樋口羽衣美と宗像玖耶だけは相変わらずラフなジャージ姿であり、相変わらず普通のTシャツジーパン姿なのであった。
「……あれ? 香山さんはお肉、食べないんですか?」
食べ物を頬張りながら樋口羽衣美はそんな質問をふと口にした。
「あはは~ワタシは~飲み物だけで良いのよ~」
「あぁ、そういえば大学祭の時もそんな事言ってましたよね」
「そうそう、そ~なのよ~実はワタシ~、飲み物しか飲めないのよ~」
「へ? 飲み物……しか……?」
「あ~、そ~言えばまだ言ってなかったわね~。……眞子~、もう別に良いわよね~?」
「そうね。別にこの二人に隠す事でもないし、……折角だからそろそろ話を始めようかしら」
気がつけば日は暮れかかり、周囲の大自然と相まって寂寥感が強まりつつある。
森の隙間から吹き抜ける風が皆の頬をかすめ網焼き器の炎が大きくゆらめいたその時、
「そうだね。じゃあそろそろ、……ボク達の、身の上話でも始めようか」




