表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/41

霧と繭(2-1)

「……で、」

 目的地にたどり着いた女性陣一行は部屋に入ると樋口魅翠奈の服を脱がし用意した部屋着に着替えさせベッドへと運び、それが終わると宗像玖耶を招き入れ飲み物を用意させた。加治佐眞子は樋口羽衣美の頭を撫で諭すように妹の無事を伝え、そのかいもあってか徐々に彼女は落ち着きを取り戻し始めていた。

「なんだい宗像君、何か質問でも?」

 状況説明に入るため部屋を整理し同じく飲み物を用意していた泉水七零が問う。

「なんだいも何も……」

 目的地であるその木造アパートは遠目にもすぐ分かる程の築年数が感じられ周囲の新築マンションと相まってよりみすぼらしく見える、


 ――つまりは、

「な・ん・でっ! 俺の部屋が目的地なんだよっ!」


 雰囲気に呑まれここに至るまでいそいそと流されて続けてきた宗像玖耶が、ようやく大声で突っ込みを入れた。

「まったく、何を言うのかと思えば。……じゃあキミは、大怪我をし血塗れとなったご令嬢をそのままご自宅にお連れしろとでも?」

「いえさすがにそれはねーと思うけどよ……」

「ボクらの家もここからは遠いし、何よりキミ達はそろそろ大学に戻らないと失踪者扱いになるんじゃないのかい? だからあまり遠くへと行くわけにはいかないだろう?」

「げっ!」

 現実離れした出来事が続き何故自分がそこにいたのかをすっかり忘れていた宗像玖耶は慌ててポケットから携帯電話を取り出す。出店を離れてから一時間程の時間が経過しておりまだ着信が無いのがむしろ不思議なくらいだった。

「先に連絡を入れておいてくれ。ここからの話は、少し長い」

「あぁ、そうだな……ったく…………あ、もしもーし! あぁ、すまん、実は樋口妹の具合が悪くなって……あぁ、いや、もう大丈夫なんだが今日はもう戻れないかも……はぁ!? ち、違う、違うって! そんなんじゃねーよ! ただ送ってくだけだっての! ……あぁ、そう、そうだよ。んじゃ、悪いけど今日は何とかあるだけの肉を使って……はぁ!? 樋口妹が居なくなった途端に売り上げが落ちて十分に間に合いそう!?」

「……やれやれ、ノンキな連中だ」

 泉水七零は肩をすくめてそう言い、加治佐眞子はクスクスと微笑むのだった。

「……じゃ、そーゆー事で。そしたらまた明日な。……ふぅ」

「……電話は終わったのかい?」

「あぁ。今日はもう戻って来なくていーそうだ」

「そうか。それじゃあ、ゆっくりと話をさせてもらうとしよう」

 隅にあるベッドで横たわる樋口魅翠奈の眠りを妨げないように部屋の電灯を消し、泉水七零以外の四人は中央にあるテーブルを取り囲んで座り泉水七零だけは壁を背に立っていた。

「……さっき車内でも言ったように、ボクらは人間じゃない。まぁ正確に言えば元は普通の人間だったんだが今はもう違う。あの男もそうだ」

「元々は?」

「あぁそうだ。……キミはあの男の外見で何か気づいた事は無かったかい?」

「外見で? ……えぇと、そうだな、」

 外見から判断した年齢とは不釣り合いな脚力、腕力、そして  

「……目だ。目が真っ黒だった。まるで目ン玉が無いみたいに……」


「……みたいに、じゃない。実際にあの男には、眼球が無かったんだ」

 泉水七零は腕を組んだまま静かにそう言った。

「無い、だって? んな馬鹿な、だってアイツどう考えても俺達の事見えてたぞ?」

「そうだ、見えていた。それがあの男の能力だったんだろう。……ボクの右手と同じさ」

 そう言うと彼女は右手を下方向に伸ばした。すると手の甲が割れ粘性の高いゲル状の物質を纏った刃がするするりと生え落ち月明かりを反射して妖しく煌めく。ひっ、と少しだけ樋口羽衣美が怯えた事に気づくと直ぐさまその鎌を手の中へと戻し、そして何事も無かったかのように言葉を続けた。

「ボクらは代償を払い何らかの能力を持った、……バケモノなのさ」

「……七零」

 加治佐眞子がたしなめる。おそらくはその『バケモノ』という言葉に対し。

「……代償ってなん……なんだよ」

 わずかな沈黙の後、宗像玖耶がぽつりとそう漏らした。その言葉に加治佐眞子と泉水七零は互いに目配せをし、

「自身の……肉体の一部よ」

 どうやら加治佐眞子がその説明役に抜擢されたようだった。

「あのオッサンだとそれが……両目だったって事か?」

「そう。そして彼は場を把握する特殊能力と超人的な身体能力を手に入れた。それが私達……」


 その時、窓からの風が彼女の髪を揺らした。一陣の風が去った後、片手で髪を梳かす彼女の瞳は深淵のように闇に溶けまるでこれ以上話を聞けばもう後には引き返せない――

  

(クリサリス)と呼ばれる、……元人間の正体よ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ