Bグループ二回戦 第一試合
皆さんお久しぶりです。この度、紛失していたプロットを発見したために更新が再開されました。
2月一杯はこちらの作品を更新して行きます。頑張ってこの章を終わらせないと……
休憩終了後の会場は、興奮冷めやらぬと言った雰囲気で皆これから始まる試合を今か今かと待ち続けている。
『会場の皆様、大変お待たせしました!これより魔闘祭Bグループ二回戦を開始致します!』
わーわー!きゃーきゃー!会場のボルテージが滾っていく。これから始まるハイレベルな戦いに皆が注目し、既に会場は熱狂の渦に包まれている。
『Bグループ二回戦の開始を飾る一試合目は……Aグループで驚異の実力を見せつけてくれローズ選手とミセバ選手と同様にたった一つの依頼でSSランクまで上り詰めた驚異の新生!美しさの中に隠された静かなる闘志はなにを思うのか!蒼き新鋭カレン選手VSその美しさに魅了された男は数知れず!綺麗な薔薇には棘がある!【薔薇姫】の異名を持つ魅惑のSSランク冒険者レミナス選手!』
「ようやくボクの出番だね」
「あらぁ?うふふ、可愛らしい子が相手ねぇ」
カレンは気合十分に、レミナスは妖艶な仕草と共に舞台へと上がると、互いに向かい合い、睨み合う。
『それでは二回戦第一試合……開始!』
司会者の声と共に戦いの火蓋は切られた。
***
先ず最初に仕掛けたのはカレン。
カレンは応龍の剣を地面に突き立て、舞台を一瞬で凍らす。
「あらぁ、凄まじい魔力だこと」
言葉とは裏腹にレミナスは動じることなく、冷静に場を見極め、得物である鞭で地面をはたく。するとどう言う事か、そんな威力は込められていなかったと言うのに舞台がぐらりと大きく揺れた。その衝撃でカレンの凍りは弾き飛ばされ、氷の下から表面が剥き出しとなった舞台が姿を見せる。
「まぁ、このくらい返してくるよね」
だがその程度は予測の範疇とばかりにカレンは既に動いていた。
地面を蹴り、凄まじい速度でレミナスへと接近。その勢いのままに手加減無しの強力な蹴りをレミナスの腹へと突き立てる。
「ぐっ……見た目の割に中々重たいわねぇ」
苦悶の表情になりながらも蹴りを受け止めたレミナスは、カレンの足を持ち、ぶおんっ!と後ろへ投げ飛ばす。
「おっとと」
投げ飛ばされたカレンは、空中で姿勢を整え軽やかに着地をし、レミナスの出方を伺う。
「カレンちゃんだっけ?凄いわぁ。その若さでここまでやるなんて」
「まだ1〜2発しか攻撃を交わして無いのによくわかるね」
レミナスはふふっと妖艶な仕草で笑い、その様子に会場の男連中がおおっ!声をあげてツレの女性に引っ叩かれる。
「仕草の一つ一つが色っぽいね……ボクももう少し色気があればなぁ」
「あらあら、可愛らしいわねぇ。若いって良いわぁ。カレンちゃんならきっとあと数年もしたら立派な女性になれるわよぉ」
本当はカレンの方がレミナスの何百倍も歳上で、これ以上は成長の余地がないのだがそれは言わぬが花と言う奴だろう。
カレンとレミナスは軽口を交わしながらも互いの隙を伺い続ける。
レミナスは下着の上に薄着を着ただけのような露出の激しい踊り子のような服装をしており、カレンが見た限りあの鞭以外に隠し武器を持ってる可能性は低い。だが向こうが鞭に対してカレンは剣を得物としている。武器のリーチ差的にカレンは下手に突っ込む事が出来無い。
(さてと、どうしようかな……)
レミナスの動作の一つ一つに意識を向け、相手の癖、動きの特徴などを見逃さ無いように集中する。
「今度はこっちから行くわよぉ」
その瞬間、レミナスから巨大な魔力の奔流が迸る。
「『薔薇棘の楽園』」
ぶわっと舞台全体に広がる無数の巨大な薔薇、薔薇、薔薇。そして景色は見渡す限りの荊に包まれ、荊の檻へと変貌を遂げる。ここに咲き乱れる彩りどりの巨大な薔薇、それは皆にはどう映っているだろうか?少なくともレミナスと相対しているカレンには普通の状況下であったら思う美しい風景には映っていない。あるのはただ驚愕と疑問。
「なんだ、これ……?」
長い時を生きて来ているカレンだが、こんな魔法は知らない。
(幻覚?いや、それにしてはリアリティがありすぎるね……だけど、実体があるようにも思えない……なんだろうこの魔法……)
「うふふ、驚いて貰えたかしら?これが私が【薔薇姫】なんて呼ばれちゃってる、り・ゆ・う♡」
流し目でそう語るレミリア。その態度からは自身の勝利を確信した絶対の自信が滲み出ている。即ち、この魔法はそれだけの威力を持っていると言う事だ。決して甘く見てはならない。
カレンは魔法の正体を見極めるため、感覚を研ぎ澄まして魔力の流れとその性質を探る。
「さあ行きない、私の薔薇たち!」
レミリアの意思に従い、全方向から踊るような予測不能な軌道を描いてカレンへの迫る。
(くっ、まだ魔法の正体を掴めてないってのに!)
応龍の剣で間断なく襲って来る薔薇を迎撃する。
「うわっ!?」
薔薇を切り払うとその瞬間、真横から大きな衝撃に襲われる。
「くっ、攻撃魔法だって!?一体何処から!?」
「まだまだ行くわよぉ!」
ゆっくりと理解する間も無く、再び襲い来る薔薇の群れ。
(本当になんなんだよこの魔法!感触があるってことはこれは間違いなく実体があるはずなんだ!だけどさっきの攻撃はなんだ?何処から来た?よく探せ、絶対何処かに答えが隠されてるはずだ!)
カレンは更に深く意識を集中させて動き続ける。
***
「なるほど、そう言う魔法か……厄介だな」
カレンがレミリアに荊の檻に閉じ込められた時、舞台袖から試合を見ていた和人はレミリアの魔法の正体を見破っていた。
「ふむぅ?……ああ、なるほど。そう言う魔法か。あの者、中々やりおるのぅ」
和人に一瞬遅れてその正体に気付いたヴェルが感嘆の声をあげてレミリアを見る。
「えー?和人様達はもう分かったのー!?」
「私達はこれでも長らく生きておりますが、あのような魔法は見た事がありません。もし宜しければ教えていただけないでしょうか?」
「……教えて?」
神獣娘達はまだピンとこないのか、首を傾げて和人とヴェルを見る。
「ん?ああ、そうか。確かにあの魔法はお前達の知識に無いものかもな」
和人はカレンを見ていた視線を魔法を放つレミリアに向けて、簡潔に答える。
「あの魔法は、低位の空間魔法と最高位の幻術魔法、それに高位の攻撃魔法の複合魔法だ」
複合魔法。その名の通り複数の魔法を組み合わせて一つの魔法を構築する高度な魔法技術だ。
「見た感じだと、あの薔薇は幻術魔法と攻撃魔法が合わさってる。高位の幻術は感触すら再現するだろ?アレは幻術魔法で作った薔薇で攻撃魔法を包み込んでいるんだ。
普通にそんな事をしたら魔法同士がぶつかり合って互いに消滅するだけなんだが、そこで活躍するのが空間魔法だ。空間魔法で幻術の薔薇と包み込んだ魔法の座標を固定したんだ。あの薔薇を操作する時は座標ごと一緒に動かす事で互いに消滅をさせないように動かしてるのさ」
幻術を使う事で相手の思考を逸らし、本命の攻撃を隠す。対人だけならず、高い知性がある生物全てに有効な手立てだ。
派手な物に人の目は向けられる。だが、その裏に隠された形無きものには中々意識が向かない。生物である以上、どうする事も出来無い現象を上手く利用したレミリアには和人達をしても舌を巻かざるを得ない。
「ついでに付け足すと、あの荊の檻じゃが、アレは幻術魔法では無い。あれは土属性の魔法に属する地形変動系の魔法じゃ。薔薇と荊、関係性があるように見えるが事この戦法においては実際は何の関係も無い。人の思考を逆手に取った中々狡猾戦法じゃの。レミリアと言う女、侮れんのぅ」
とことん相手の意識を操るレミリアの戦法に神獣娘達は驚いたような目を向ける。
今までの彼女達はその圧倒的なまでの力で大体の事をこなせていたために思い至らなかった意識の操作と言う戦法。更に言えば、彼女達は大体一つか二つの属性に特化していたがために魔法の複合なんてした事も無かった。唯一九つの属性を操る神獣一多彩なローズでさえ、それぞれの属性を一つ一つとしてしか使ってこなかったのだ。
「いいか?よく見ておけ、お前達なら原理さえ理解して仕舞えばあの魔法の使い方も覚えられるはずだ」
「ふふ、もっと強くなりたいじゃろう?」
和人とヴェルは神獣娘達にあの闘いから目を逸らすな、あの技術を自分の物にしろと告げて背中を叩く。
「さぁて、カレン。お前はそれをどう破る?」
実際に相対して神獣達にとっての未知の戦法を受けるカレン。和人はうっすら笑みを浮かべてカレンの闘いを見守る。
***
「どう?そろそろ疲れて来たんじゃない?」
レミナスはサディスティックな笑みを浮かべながら次々とカレンに巨大な薔薇を叩き付ける。
カレンは防戦一方ではあるものの、まだまだ余裕があるようでその瞳は冷静さを失っていない。
「まだまだ余裕がありそうねぇ」
その事に不満を抱いたレミナスは更に攻撃を激しくする。
苛烈さを増す攻撃の弾幕に流石のカレンも焦りが見える。
(これまでか……和人様にもっといいところ見せたかったけど、仕方ないか)
ふぅ、と息を吐き動きを止めるカレン。
「ようやく観念したわねぇ。でも凄いわぁ、私の攻撃ここまで耐えたのは貴女が初めてよ」
その様子に勝利を確信したレミナスが一気に勝負を決めようと一斉に薔薇を叩き付けてくる。
「ん?いや、それは勘違いだよお姉さん」
破壊の力が込められた薔薇がカレンに激突し、衝撃によって巻き上げられた土煙や多彩な魔法の輝きがカレンの姿を隠す。
あわや勝負が決まったかと思われたその直後。キィィン!と言う甲高い音が会場全体に響き渡り、今まで騒々しいくらいに盛り上がっていた会場の歓声が一斉に静まり返った。
「なんですってぇ!?」
勝利を確信していたレミナスは自身の予想を超えたその光景に驚きの声をあげた。
「本当ならお姉さんの魔法の正体を見破りたかったんだけど……ボクの観察能力じゃまだ厳しかったね」
カレンは応龍の剣で土煙と魔法の輝きを切り払い、レミナスに視線をやる。
「最後まで魔法の正体を見破れなかった事は悔しいけど、ボクの大事な人達が見ている前でこれ以上無様な姿を見せられないからね。悪いけど、そろそろ終わらせて貰うね」
カレンの持つ応龍の剣には先程まで無かった青い輝きが灯っている。そこにどれだけ膨大な魔力が秘められているかなんてレミナスには及びも付かない。
「ま、まさか、貴女……今まで魔力を使って無かった、の?」
「正解。ボクが魔力を使ったのは最初に牽制で舞台を凍らせた時だけだよ」
主人の魔力を纏った応龍の剣は真の姿を現し、周囲を極寒の冷気で包み込む。
「ありがとう、お姉さん。この試合でボクはボクの未熟さを改めて痛感できたよ。でも、試合には勝たせて貰うよ!」
「【氷河時代】」
瞬間。舞台は空間ごと凍り付く。そして何もかもが氷に包まれた世界で唯一動けるのはカレンただ一人。
氷の世界はカレンの振るう応龍の剣の一刀の元に全てを巻き込み崩壊した。
崩壊に巻き込まれたレミナスは結界の効力により外へと弾き出され、意識を失った。
『決まったーーー!勝者はカレン選手!』
Bグループ第二回戦一試合目はカレンの勝利であった。
***
「はぁー……結局最後まであの魔法の正体が分からなかったです……」
華々しい勝利を収め、舞台を降りて来たカレンの表情は優れない。レミナスの魔法の正体を見破れなかった事を引きずっているようだ。
「まぁ、仕方が無いと言えば仕方が無いな。あれはお前達が今まで考えもつかなかった技術が使われてる。分からないのも無理はない」
「私達も和人様に教えていただくまで分かりませんでしたし、カレンが分からなかったのも仕方ありませんよ」
落ち込むカレンを神獣仲間達が励ます。和人とヴェルはその様子を眺めて優しく微笑み、カレンに答えを教える。
「はぁー……そんな仕組みだったんですか……確かにボク達じゃまったく、思いつきませんね……」
答え合わせを聞いたカレンは盲点だったと目を丸くさせた。
「カレン、スミレ、ローズ、ミセバ。お主達なら少し鍛錬すれば直ぐにあの者の技術を真似れる。ここであれを学べた事は幸運だと思うのじゃぞ?」
ヴェルの言葉に真面目な表情で頷くカレン達に和人は、こいつらはもっと強くなるなと確信に満ちた思いを抱く。そして強くなった彼女達とまた戦える時に思いを馳せて闘志をたぎらせる。
「よし、この大会が終わったら俺とヴェルが複合魔法を細かく教えてやる」
試合の熱気が戻りつつある会場に少女達の元気の良い返事が響き渡った。




