Bグループ 第三試合
『さぁ!興奮冷めやらぬ間に続いての試合の組み合わせ発表だーーー!!
続いての試合は白熱のBグループ初戦最後を飾る試合その実力は誰もが知るが、その実力を誰も理解出来無い!「幻影奇剣」ナターシャ・ミルゲル選手VS突如現れ、新たな伝説を次々と刻む、最速最強にして史上初のEXランク冒険者「瞬速の絶対者」カズト・マガミ選手!』
「おーようやく俺か」
「ええ!?【瞬速の絶対者】が相手やって!?」
「「「「「うおおおおおーーー!!」」」」」
二人の名前が呼ばれた瞬間、会場が爆発したかと錯覚するほどの声援が振動ととなって会場を揺らす。
「うおっ、うるせっ」
「うわっ、ほんまもんのカズト・マガミやないか……ついてへんわー」
その声援にのんきに耳を塞いで辺りを見回すカズトと、絶望したような顔で何も聞こえてないような様子の少女が向かい合う絵面は、とても対象的で中々にシュールであった。
「「「カズト様ー!虐めてくださーい!」」」
「……俺は何も聞いて無いし見てないぞ……」
声援を送る人々の中で特に目立つ人物達があった。それらは皆、何処かで見た事のある人物だけで構成されており、辺りを見回していた和人は、その中心で叫ぶ女性を目に留めると、言い訳を呟きながらそっと目をそらす。
「あ、ラーシャと例の変態の集まり……」
「見る度に人が増えてますね……最早カオスです……」
「ヴェルさん、あそこ……」
「昨日見たアントニーじゃな……」
「あははは!”カズト様LOVE!”だって!面白〜い☆」
どうやらあの後アントニーは変態に捕まって変態にされたようだ。だが何故だろうか、昨日より輝いて見える。しかも、隊長のラーシャと新参のアントニーはとても仲が良さそうだ。類は友を呼ぶとはよく言ったものだが、結果として和人達の恐怖の対象が増えてしまっただけである。
「俺帰っていいかな……」
『さぁ!Bグループ一回戦最後の試合、開始!!』
そこに空気を読まない司会の男が試合開始の合図を出す。こうして、なんとも締まら無い感じに最後の試合は始まった。
***
「はぁ……まぁやるか」
「あんさん、なんやえらい苦労しとるんやな……」
開始早々、ナターシャが何やら同情したような目で和人を見て来る。その視線はちらりと”カズト様LOVE!”と書かれた垂れ幕と、集団の先頭で興奮気味に叫ぶ女性を見ていた。
「止めろ、俺は何も見てないし聞いて無いんだ」
和人は顔を手で覆いながら首を振る。
「はぁ……まぁいい、とにかくかかって来い。お前の実力を見せてくれ」
溜め息と共に挑発気味にそう言った和人は軽く後ろに跳んで距離を取って、ナターシャの動きに意識を向けた。
「余裕やなぁ〜、やっぱりEXランク冒険者ともなると風格からして違うわ。ほな、せっかくの機会やし、その胸貸してなぁ」
その言葉を置き去りに、ナターシャは一瞬で和人との距離を詰めると、腰に差していた変わった形状の剣を目にも留まらぬ早さで抜き放って、真っ直ぐに和人の首を狙って振り翳す。
「……」
それを和人は冷静に見極めて、首を軽く引くだけの動きで回避する。
「うちの剣技は予測不可能やで!」
しかし次の瞬間、確実に回避したはずの剣が和人の下から喉元を狙って突き出された。
「っと」
その突然の動きに対し、和人は己の纏うロングコートの襟を最小限の動きで剣の進行先に差し込み、魔力でコーティングさせる事で強度を増したそれで弾き返す事で迎撃する。
「んなアホな!?」
流石に動揺したナターシャは、それでも一流の実力者としての感性から和人から距離を取る。
そこで初めてナターシャの持つ剣の全体像が見えた。
剣の形はオーソドックスな短い直剣。しかし、その剣には特殊な能力が備わっており、間近で見た和人だけが、その正体に気付いていた。
(ふむ、魔力を流す事で使い手の思うままに形を変える剣か。面白いな)
それに、使い手本人の剣技も並外れて高い。匠な剣の使い手と、使い手の思うままに姿を変える剣。この組み合わせは下手したら後のSSSランク冒険者並の実力者を生み出したのかもしれない。
(そうだな……ならこいつから技術を学んでみるか)
現状和人は、与えられた力で無理矢理ゴリ押しして戦っているようなものだ。しかし、神喰らいの神剣に封じられている存在が和人と同格たる魔神である可能性が存在する以上、それだけでは確実に敗北して体を乗っ取られてしまう。それを避ける為には和人自身が技術を学び、技術をモノとし、技術を発揮出来るようにならねばならない。
神の知識で得られるのは知識だけ、それを実践で使えて初めてそれを己の力へと出来るのだ。
「ナターシャ、お前の全力の剣術を俺に見せてみろ」
「なんやいきなり、そんな物わざわざ言われんでも見せたるわ。これでも剣術だけなら剣姫や魔剣舞姫にも負けへん自身があるんやで!」
言うが早いか、ナターシャは強烈な踏み込みと共に和人へと迫る。
ナターシャの剣は鋭く的確に和人を襲う。
頭、首、右手、左手、右足、左足、変則的な予測不可能の斬撃や刺突。
たった数秒の攻防の間に実に十発以上の攻撃を和人に放つナターシャ。
和人はそれらを首を曲げて躱し、頭を下げて躱し、ひらりひらりと動いて躱し、軽くジャンプして躱す。時折来る変則的な剣の動きすらも見逃さず、それらも的確に躱して見せる。
どんな攻撃が来ても視線はナターシャの動きから絶対離さない。ナターシャの一挙手一投足の隅々まで観察しながら戦う和人は、神の知識と、この世界に来て爆発的に上がった自前の学習力を持って次々と吸収して行く。
「ハァ、ハァ、なんちゅう観察眼や!うちの攻撃の全てが躱されとる!」
「どうした?この程度でへばったのか?」
時が経つに連れて徐々に疲弊して行くナターシャと、まだまだ余裕の和人。勝敗は最早火を見るよりも明らか。
「参ったなぁ……最初から分かり切っていた事やけど、流石に勝てへんわ。せやけど、うちもこのまま負けるつもりはあらへんで!」
直後、ナターシャの体が膨大な魔力が放出される。それらはただの一点、ナターシャの持つ剣に集まって行く。
「おいおいなんだよそれ……魔法唱えてる訳でもないのに魔力が具現化してるじゃねーか……」
流石の和人もこれには素直に驚きを見せ、乾いた笑みを浮かべてその様子を見続ける。やがてその魔力は剣の全てを包み込み、漏れ出た魔力が先端に集まり、ブラックホールのような魔力のうねりを作り出した。そのあまりに濃密な魔力に、会場全体が震える。
「これがうちの持ってる最強の攻撃手段や!カズト・マガミ、受けてみぃ!」
ナターシャは額に冷や汗を浮かべながらもニヤリと笑い、剣を持つ手を後ろに引いた。刺突の構えだ。
「行け!『幻影奇剣』!」
ナターシャの二つ名と同じ字を書く強力無比な一撃が舞台を削りながら和人へと迫る。
「いいねぇ!来いよ!」
そしてこの時初めて和人は手を攻撃の為に動かした。
「『反射爆発(リジェレクト・バースト』!」
和人の手に触れた幻影奇剣は、その瞬間何かにぶつかったような爆音を立て、そして威力を増して一直線にナターシャの方向へと返って行く。
「嘘やろ!?」
その光景に悲鳴に似た声を上げるナターシャは、慌てて回避行動に移るが、最早手遅れで、跳ね返された幻影奇剣がもう目の前に迫っていた。
(あかん、間に合わん!死んでまう)
実際は舞台に張られている特殊な結界のおかげで本当に死ぬ事は無いのだが、今のナターシャにそれを理解する余裕など無かった。
「いい技だった。お前の剣の技、しかと見せて貰ったぞ」
その瞬間、ナターシャの前に滑り込んで来る影があった。その影は、拳に魔力を纏わせると、幻影奇剣を思い切り殴り付けた。すると、あの巨大な魔力の奔流は轟音と共にあっさりと消滅した。
「な、なな!?」
余りの驚きに意味不明な声を発するナターシャ。そんな彼女に対し、影の正体である和人はしてやったりと悪戯気味に微笑むと、驚きで座り込んでいるナターシャに合わせてしゃがみ込み、右手をデコピンの形で構える。
「ビビったか?ま、この勝負は俺の勝ちって事だな」
放たれたデコピンはスパンッ!と小気味の良い音を立ててナターシャに突き刺さり、そのまま彼女の華奢な体を舞台の外にまで吹き飛ばす。
『勝者カズト・マガミ選手!凄い!凄すぎるぞ!武器を一度も抜く事無くナターシャ選手を圧倒!そして最後の素人目にも強力だと思われる攻撃を片手で跳ね返し、しかも跳ね返した先に一瞬で先回りして拳一つで消滅させた!これがSSSを超えた先、EXランク冒険者の実力かーーー!?』
その声と共に会場は爆発的な歓声に包まれた。
***
「大丈夫だったか?」
歓声を背に舞台を降りた和人は、デコピンで吹き飛ばしたナターシャの元へと歩み寄ると、笑顔を浮かべて手を差し伸べた。
「イツツツ……あんさん、シャレにならんな。まさか人一人をデコピンだけで何メートルも吹き飛ばすなんて人間技やないで」
そう言いつつも何処か楽しそうな表情のナターシャは、差し伸べられた和人の手を取って立ち上がる。だが、体は本人が思っていた以上に消耗していたらしく、立ち上がろうとした瞬間にガクンと膝から崩れた。
「あ、あれ?あかんなぁ、魔力使い過ぎてもーたわ」
「まぁ、あんな大技を放ってたもんな。そりゃ消耗する筈だ」
その様子に苦笑を漏らす和人は、ナターシャの手を離すと、代わりにヒョイっと彼女の華奢な体を持ち上げる。
「わ、何すんねん!」
「大人しくしていろって。このまま救護担当の奴等のとこまで運んでやるから」
そのまま有無を言わさず救護担当の者がいるところまで運んで行く和人。ナターシャは終始顔を赤く染めて降ろしてと訴えて来たが、和人はガン無視を決め込んだ。
「こいつを頼む。魔力切れだけだと思うから大人しく寝かしておいてやってくれ」
「了解ですカズト様」
救護担当の者は昨日ローズが半殺しにしてしまったミーアを託した者であり、二度目と言う事もあってある程度普通に会話は出来ている。まだ僅かに声に緊張があるものの、その程度なら害は無い。
「任せたぞ」
「カズト・マガミ、運んでくれてありがとな。ほんま助かったわ」
2〜3言言葉を交わした後、和人と救護担当の者は別れた。運ばれて行くナターシャが和人にそう声をかけると、和人は気にするなと手だけで返事をし、そのままスタスタとヴェル達の元へと返って行った。
「和人様、お疲れ様でした」
「ふふ、圧勝でしたね」
「和人様凄い!一撃も攻撃受けなかったね!」
「流石……」
「うむ皆の言う通りじゃ。だがマスターよ、実はあの試合は遊んでおったな?」
帰って来た和人を待っていたのは仲間達の賞賛と質問だった。
「まぁヴェルにはバレるよな。ちょっとナターシャから技術を学んでたのさ」
「やはりか。まぁ、マスターの事だからそれにも何か考えがあるんじゃろうな」
「まぁな」
和人はニヤリと口角を上げて、正解だと伝える。
「ま、何にせよ今は次の試合だ。休憩挟んだら次はカレンの試合からだろ。そしてその後は遂にSSSランク冒険者の一人とスミレの試合だ」
和人の言葉に皆が一斉に頷く。カレンに至ってはよーしやるぞー!と改めて気合を入れてるようだ。早く戦いたいのだろうが、勢い余ってやり過ぎなければいいのだが。
「んじゃ、取り敢えずは昼飯食いに行くか」
「「「「「賛成 (じゃ/です)」」」」」
今まで差し替え作業中だった新作「狂人は異世界で狂い踊る」の連載を開始しました。これまでの作品とは一風違ったタイプの主人公が描くストーリーを是非ご覧ください♪




