不穏な気配
あれ?私はいったいどのようにこの作品を書いていたっけ?
なんか作者ですら違和感だらけな内容ですが、取り敢えず久々の更新です!
翌日。前日の酔いなど無かったかのように起きたヴェル、カレン、スミレの三人は店にいたと言う一つ前の記憶と現在いる位置の違いに違和感を感じていた。どうやらローズは普通に寝てただけらしく、気持ち良さそうにぐっすりと眠っている。
「うーむ……私は何をしていたのじゃ?」
「あ、ヴェルさんも分からないんですか?実は僕も昨夜の記憶が曖昧で……」
「お店で食事をしていたのは覚えているのですが……」
ヴェル達はお互いに顔を合わせてながら首を傾げていた。
「そう言えば和人様は?」
「くんくん、ふむ、この部屋からマスターの臭いがするぞい」
「ヴェルさん、貴方は犬ですか」
そうする事数十秒。ふと思い出したかのようにカレンが呟いた。
それを聞いたヴェルが何か探すように鼻をヒクヒクさせ、それに対してスミレが冷静にツッコミを入れる。
ヴェルは2〜3回辺りを見回し、続いて和人が寝ているだろうベッドに目を付ける。その時ヴェルの目がキュピーンと光ったように見えたのは気の所為じゃないだろう。
「マスター見つけたのじゃ」
そう言ってヴェルは和人が寝ているベッドに近寄って行った。
「早く起きるの……む?ミセバにレティか?」
ヴェルが掛け布団を剥ぐと、そこは何かにうなされている和人と、何故か幸せそうな顔をしているミセバとレティがいた。
「何故二人がマスターと寝とるのじゃ?」
「どうしたんですか、ヴェルさん?」
「和人様はいらっしゃらなかったので?」
そこにカレンとスミレもやって来て、そしてその状況に硬直する。
「な、ミセバにレティさん!?」
「和人様は何やらうなされておりますね」
「うむ、まったく……」
「「「羨ましい」」」
見事に三人の声は重なった。
「う、う〜ん……うるせぇなぁ……」
その声に触発されてか、和人はもそもそと起き上がり、現在の自分の状況に目をパチクリさせた。
(なんか変な夢見てたと思ったら、誰かの声が聞こえて、それで起きたら左右の手に柔らかい感触。そしてそれを見下ろす酔っ払い三人娘……なんだこの状況は)
思わず説明みたいな話し方になってしまった和人は、左右の手に感じた柔らかい感触の元を辿るように手を動かした。
「あっ、あんっ」
「んっ、あんっ」
それに伴い左右から聞こえる淫らな声。
「……ミセバとレティ?」
和人は聞こえて来た声に頭にクエスチョンマークを浮かべる。
(ああ……あの後みんな寝ちまったのか……)
和人はゆっくりと覚醒して来た意識をフル動員し、現在の状況を理解しようとする。
「お目覚めのようじゃのマスター。ところでその二人は何でマスターのベッドにいるのじゃ?」
「和人様おはようございます。すいません、どうも昨日からの記憶が曖昧で……」
「お手数ですが状況の説明をお願いできませんか?」
和人の意識が覚醒したのを確認した三人が各々挨拶をしながら和人の元へと近付いて来た。
「ああ……やっぱり覚えてないのかお前達……」
和人は頭が痛いとばかりに眉間を摘み、やれやれと首を振った。
和人は和人の態度に?と頭を傾げている三人に昨夜の事を説明してやった。
「ーーと言うわけだ。まったく……お前達はこれからは飲酒厳禁な。お前達並みの身体能力が暴れたらどうなるか分かるだろ?近くに俺やミセバがいたからいいものの、下手したらあの店吹き飛んでいたところだ」
「それはなんと言うか……」
「ご迷惑をおかけしました……」
「すまぬなマスター……」
和人の苦言に申し訳なさそうな顔になる三人。どうやら和人から話を聞くにつれ、だんだんと昨夜の記憶を取り戻していったようで、その顔には「やっちまった……」と言う感情がありありと浮かんでいた。
「ったく、まぁもう済んだことは仕方ない。だが今後は気をつけるようにしてくれよ」
最後に和人がそう締めくくると、三人は一斉にごめんなさいと頭を下げた。和人もそれに対し軽く頷いて説教を終える。
「本当に迷惑をかけたの、マスター」
「ああ、まったくだ。まぁそろそろ飯だし寝てる奴等を起こすか」
和人はそう言うが早いか、左右に陣取っているミセバとレディアの額に軽いチョップを加えた。
「……んっ」
「ふわぁ……」
それにより、二人はもそもそと動き出し、何かを探すように手をパタパタさせた後、その手が和人に触れるや否やしっかりとホールドをし、そのまままた眠りに就こうとした。
「おい、起きる時間だから起こしたんだぞ。また寝てどうする。と言うか俺はお前達の抱き枕じゃないぞ」
「……んっ、和人様おはよう……」
「おはようございましゅう……」
和人の言葉に再び目を覚ました二人は、眠そうに目を擦りながら挨拶をして来た。レディアの方はどうも朝に弱いらしく、語尾が子供のようになっているが、和人は「まぁ闇の世界神だし」と言う事で納得した。
「おはよう二人とも。昨日は悪かったな」
和人は寝惚け眼の二人の頭を軽く撫で、労いの言葉をかけた。
「ミセバ、レティ、すまなかったな。今しがたマスターから昨夜の事を聞かされた。どうやら迷惑をかけたようじゃのう……」
すかさず寝起きの二人に向けてヴェルが謝罪をする。そしてそれに追随するような形でスミレやカレンも軽く頭を下げる。ローズはまだ爆睡中だ。
「ん、大丈夫……役得だったから……」
「私も大丈夫れぇ〜す……むにゃ……」
それに対しミセバはいつもの無表情で頷き、レティは子供のような欠伸を噛み殺し、目をこすりながら片手を上げる事で許した。
「よし、ならそろそろ飯食いに行くか。ヴェル達はあそこで寝続けているローズを起こして来てくれ。俺はファルシオンを起こしてくるから」
「うむ、了解じゃ」
その様子に満足気に頷いた和人は、ならこの話はもう終わりだ!とばかりに軽く手を叩き、立ち上がった。
「ローズよ起きるのじゃ。ご飯の時間じゃぞ」
「う〜ん……ご飯ー?」
ヴェルの声にローズは眠そうな声をあげてうっすらと眼を開けた、が、また直ぐに眼を閉じてしまう。
「そうだよ、だから早く起きよう」
「和人様をお待たせするわけには行きませんからね」
続いてカレン、スミレがローズを揺すると、そこでようやくローズは再びうっすらと眼を開け、そして周囲を伺うようにしてのそのそと起き出した。
「ほら、ファルシオン。お前も起きろ」
その頃、和人は別のベッドで寝ていたファルシオンの傍らに立ち、気持ち良さそうに寝ているファルシオンの頭を軽くひっぱたいた。
「いたっ、って、和人様?……あ、おはようございます」
ローズと違いあっさりと眼を覚ましたファルシオンは和人にひっぱたかれた場所をさすりながらゆっくりと立ち上がった。
「ああ、昨日はすまなかったな。ゆっくり休めたか?」
「あ、はい、おかげさまで」
「なら良かった」
和人は軽く笑みを浮かべてファルシオンを見やると、続いて普段の姿への着替えを開始した。とは言え、昨日は殆ど着替えないで寝てしまったので精々いつものロングコートを羽織る程度のものであったが。
「さて、と、全員起きたようだし飯行くか。今日の大会は俺も出場するBブロックだしな」
和人はロングコートを羽織る動作をしながらそう言うと、一人先に部屋の外へと出て行った。
「ふむ、なら私達も行くとするかの。っと、その前にファルシオン、どうやらお主にも昨夜は迷惑かけたようじゃな、すまなかった」
「ははっ、お気になさらず。確かに昨夜は死にかけましたが、今はこうして生きてますからね」
ヴェルの謝罪に笑って返すファルシオンに、カレン、スミレも口々に謝罪の言葉をかける。
「おーい、置いてくぞー」
「っと、これ以上和人様を待たせるわけに行かないですね。急ぎましょうか」
そこで外から和人の声が聞こえて来た。その声に6人は慌てて自身の身嗜みを整えて和人の後を追うように部屋を後にする。
***
「やっぱりここの料理は美味しいですね」
「ええ、カレンの言う通りです。昨夜のお店も真に美味でしたが、ここの料理もそこに引けを取りませんね」
「ああ、宿屋と言う場所が提供する料理にしては破格だな」
「うん!本当に美味しい!」
「……美味……」
「すいません、私達までご一緒させていただいて」
「ん?ああ、気にすることは無い。お前達も俺の仲間だしな」
「そう言っていただけるとは本当にありがたいです。今後とも和人様のお力になれるように尽力しますね」
朝食をとるためのスペースで和人達7人は互いに談笑しあいながら和気藹々と食事を取っていた。周囲にいた同じく食事に舌鼓を打っている人々から見目麗しい美男美女の集団に憧れや羨望と言った視線を向けている。
「ふぅ、ごちそうさん。確か大会は昼前からだったな。結構時間があるがどうする?少しこの街を回ってから行くとするか?」
食事を終えた和人達はこの後の行動計画を立てていた。
「そうですね。僕はそれで構いません」
「僕もカレンさんに同意、かな。せっかく外に出てるんだしレディアもそれでいいよね?」
「ええ、昨日はずっと神器の中にいたから外には非常に興味があるわ」
「なら決まりじゃな、マスター」
「そうだな、なら早速出るか。まだ時間はあるけど、楽しむ時間もたくさん欲しいしな」
そう言って和人は立ち上がり、それに追随するかのように他の面々も席を立つ。
「んじゃ、行くかー」
和人は暢気な声と共に宿屋の外へと足を向けた、その瞬間……
「ーーっ!?」
唐突に和人の頭を何かが走った。それはあまりにも一瞬の事であり、和人自身でさえそれが勘違いだったのでは無いか?と思ってしまうほどであった。
(いや、あれは確かに気の所為なんかじゃない……)
黒くて深くてドロドロとしたこれは……
ーーーー悪意
和人は思わず腰に下げたままであった「神喰らいの神剣」を強く握りしめた。
「……?どうしたのじゃマスター?」
和人のただならぬ様子にヴェルが心配気に尋ねて来たが、和人はそれに答える事が出来なかった。
(こいつはまさか……)
和人の頭にファルシオン達から聞いた話が蘇る。
(俺の前の魔神……)
和人は背中に冷たいものが流れる気配に襲われる。
「マスター!」
「うおっ!?」
だがその瞬間浴びせられたヴェルの大声に和人は正気に戻された。
「あ、ああ、どうしたヴェル?」
「マスターの顔色が少し悪いのが気になってな。どかしたのかの?」
ヴェルは和人の顔をじっと見つめる。その表情は本当に和人の事を想っての事であり、少しのこそばゆさを覚えた。
「いや、なんでも無い。少し考え事をな。大丈夫だから行こうか」
和人は少し考えた結果、まだ心配はかけまいと嘘をつくことにした。
「む、マスターがそう言うなら……じゃがくれぐれも無理はしないでおくれ」
「ああ、分かった。悪かったな心配かけて」
和人は苦笑気味に笑い、再び外へと歩き出した。




