Aグループ 第四試合
遅くなりました!
『さ、さて、第三試合はラーシャ選手の勝利でした。続いての組み合わせの発表です』
第三試合で発覚した謎の組織「和人様達に虐められ隊」。そんな彼女等の所為で微妙な空気となった会場に司会者の声が響き渡る。とは言ったもののまだ司会者の方も落ち着いてはおらず、声が上擦っているのはつっこまないでおいてあげよう。
『続いての対戦は……おお!SSSランク冒険者「魔剣舞姫ユタネ・ブレイズ選手VS以前の大会でユタネ選手と良い勝負を行った「剣姫」オルビア選手』
「ここで私の出番なのね……」
「ラーシャさん、試合後に凄い空気を作って行きましたからね……」
しかし出番である筈の二人のテンションは低い。と言うのめそれほどラーシャの言った「和人様達に虐められ隊」の登場は劇的だったのである。
そしてその当人である和人達はと言うと……
「俺、もう大会とかどうでもいいから帰りたいんだけど……そして今直ぐにこの国から出たい」
「うむ……同感じゃ……」
「だ、駄目ですよ!折角の機会ですし最後までいましょうよ!」
「と言うカレンも帰りたそうですね。まぁそう言う気持ちになってしまうのも仕方がないとは思いますが……」
「?」
「ローズ、純粋……」
和人を遠い目をしており、カレン達はそんな和人を慰めていた。
傍から見ると和人が複数の美少女に慰められていると言う、実に羨ましい光景なのだが、その内容を知る者から見ると同情せざるを得ない状況である。
和人達がそうこうしている間に試合は始まっていた。
***
「行きます!」
試合が始まるとオリビアは一瞬にしてユタネへと肉薄し、右手に持つ長剣を下から振り上げるようにして攻撃を仕掛ける。その剣筋は鋭く、殆どの生物は視認する事も出来ず、何が何だか分から無いうちに胴体を両断されてしまう事だろう。
「甘い!」
だがユタネはこれにきちんと反応をし、下から来る剣を僅かに後ろに下がりながら自分の剣を上段から振り下ろして迎撃する。
金属同士がぶつかり合う甲高い音を立てて鍔迫り合いが始まった。
「まだです!」
しかしオリビアも自分の攻撃が防がれる事は予想していた。その為、鍔迫り合いが始まったのを確認した直後、敢えて自らの剣の力を緩める事でユタネの体制を崩そうとする。
「だから甘いのよ!」
ユタネの方もオリビアがやろうとしている事を予想していたのか、急に緩められた鍔迫り合いで体制を崩す事は無かった。
オリビアはそれを確認するとバックステップでユタネから距離を取り、睨み合いが始まる。
「やっぱり強いですね、ユタネさん」
「貴女の方こそ以前より数段強くなってるわね」
そんな会話をしながらも互いに互いの隙を見逃すまいと神経を張り巡られせている。
ユタネの武器は細く鋭い剣、所謂細剣だ。それに対してオリビアの剣は柄から刀身まで合わせて1mはある長剣である。普通に考えたらそんな武器同士がぶつかり合ったら間違い無く細剣の方が打ち負ける。
だがそこでユタネが「魔剣舞姫」と呼ばれる由縁が関わる。
「今度はこっちから行くわよ!」
ユタネが声を上げた直後、既にユタネの姿はそこには無く、背後から強力なプレッシャーを感じたオリビアは咄嗟に地面をローリングして背後に向き直った。
「よく避けたわね」
そこには自前の細剣をさっきまでオリビアの心臓があった場所向けて突き出しているユタネの姿があった。
「相変わらず急な一撃ですね……流石貴女の固有魔法空間魔法と言うわけですか……」
空間魔法。これこそがユタネをSSSランク冒険者まで押し上げ、魔剣舞姫と言う二つ名を与えた、ユタネの能力だ。
「まるで舞のような剣技と空間魔法による神出鬼没の戦闘法……魔剣舞姫の異名は伊達じゃありませんね」
オリビアは直ぐさま立ち上がり、未だ武器を繰り出したままの状態のユタネ向けて斬りかかるが、その前に再び消えたユタネが横から剣を繰り出す。
「はぁっ!」
オリビアは咄嗟にそれを弾き、そのまま反撃とばかりに連続で攻撃を仕掛ける。
「今度は私の舞を見せてあげる!」
そんなオリビアの攻撃をユタネは避け、あるいは弾きと、「魔剣舞姫」の二つ名に恥じない動きで次々と対応して行く。
数分、あるいは数十秒か最早時間感覚が分からなくなるような攻防を続いた後、とある一撃でその攻防は終わりを告げる。
それは最早何度目か分からない剣の打ち合いの時の事だった。
ユタネは横から迫り来るオリビアの剣を弾く。オリビアはそんな事分かりきっているとばかりに返す手で再び剣を振って来る。その時……
「終わりよ!」
ユタネが空間魔法を発動させてオリビアの剣を躱し、そのままオリビアの背後に現れ、本当に女性かと思わせるような鋭い蹴りをかました。
「くっ!」
蹴りを喰らったオリビアは剣を振っり切っていたと言う事も合わさり、体制を整える事が出来ず、そのまま地面へと倒れ込んだ。
そんなオリビアの頭部に容赦無く二度目の蹴りをかますユタネ。
オリビアはその蹴りで軽い脳震盪を起こし、一瞬意識を失った。
普通だったらあんな鋭い蹴りを頭部になんて喰らった死んでしまってもおかしくは無いのだが、そこはオリビアもこの大会の本戦に出るだけの実力を持つ者。その為一瞬意識を失うだけで済んだのだ。
「私の勝ちね」
ユタネはそんなオリビアの首元に剣を添えながらそう言い切る。
「ううっ……乙女の頭を蹴飛ばすなんて酷い事しますね……私の負けです。降参します」
オリビアは自身の首筋に添えられた剣を見て、一つ溜息を付いた後、自らの敗北を認めて降参をした。
「Aグループ第四試合の勝者は「魔剣舞姫」ユタネ・ブレイズ選手です!」
そして司会者の声を合図に静まり帰っていた会場が大きく沸いた。
***
『ファルシオン、レティ……』
『ダメです。何も感じません』
『やはり彼女達をギリギリまで追い詰めるしかありませんね』
『そうか……だがSSSランク冒険者はまだ何人かいる。一応そいつらの様子も見てみるとしよう』
『『了解!』』
会場が沸く中、和人とファルシオンとレティだけが冷静な目で舞台を降りて行くユタネ・ブレイズを見ていた。




