瞬速の絶対者
前話に引き続きサブタイトルが思いつかない……
冒険者ギルドに来た和人達は、案の定驚愕の視線を一斉に浴びた。
「瞬速の絶対者だ……」
「おいおい、朝に依頼を受けたばかりだろ……何でこんな早く戻って来れるんだよ……」
「確かデスマウンテンと破滅の森だろ?どちらもここから数日はかかる場所だぞ……」
「確か瞬速の絶対者は驚異の移動速度を持つらしいけど……ここまで早いとは瞬速の名は伊達じゃないわね……」
「てかヴェルフェンさんも美人だけど、あの後ろの四人もかなりレベル高いぞ……」
「ああ……見た感じだと瞬速の絶対者の連れっぽいな……羨ましいぜ……」
そんな声があちこちから聞こえるが、和人とヴェルは完全に無視した。カレン達はまだ人間社会に全くと言っていい程慣れていないので、和人のコートのあちこちを摘みながらオドオドとしている。
「依頼達成報告だ。破滅の森には確かにデスピナスがいた」
カウンターまで来た和人は今回の依頼の報告を行った。和人の言ったデスピナスがいたと言う言葉に皆ゴクリと息を飲む。彼等からしたらデスピナスと言う存在は圧倒的強者であり、挑むのもおこがましいと思える存在なのだ。そんなものが近くの森にいたとなると、こうなってしまうのは仕方が無いだろう。
「そうですか……お疲れ様でした……」
報告を聞いた受付嬢も沈痛の面持ちで返事をする。
「まあもう既に俺が殺したが」
だが和人はそれを意図も容易く殺したと言いのけた。
「えっ?」
「「「「えっ?」」」」
沈痛の面持ちだった受付嬢も和人の言葉に目をパチクリさせた。
周囲で聞き耳を立ててた冒険者も和人の言葉に皆一様にポカーンとしていた。
「だからデスピナスは俺が殺した。ほら証拠だ」
そう言って和人は別空間からデスピナスを取り出した。
ギルドはその職業柄かなり丈夫で、かつ巨大に作られているため、デスピナスの7〜8mの巨体でも何とか入るスペースはあるが、やはりその迫力は隠せ無い。
ギルド内にいた冒険者や受付嬢達は皆ゴクリと息を呑み、デスピナスの死体を眺めて戦慄するだけだった。
「悪いな、デスピナスの討伐証明の部位をど忘れしてしまってな。どうしたもんかと考えた結果全部持って帰って来た」
今だに驚きで硬直していた受付嬢は、和人の言葉で漸く我を取り戻し、それを皮切りに他の冒険者達も次々と我を取り戻し、互いに近くの人と目を合わせてこれが夢じゃないと言う事を確認する。
そこで和人はそうだ!と何かを思い付いたような仕草をして、今だにデスピナスに戦慄している冒険者達に聞こえるように声を上げる。
「正直俺はこいつの素材はいらない。運が良かったお前等、ここにいる者に限りこいつの素材を一部くれてやる!」
「オ、オオオオォォォォォ‼︎」
和人の言葉を聞き冒険者達は一斉に歓声を上げた。
「よ、よろしいので?」
受付嬢がそう訪ねる。
「ああ。さっきも言ったが俺はこいつの素材はいらない。こいつより質が良くて、かつ巨大な素材も持っている」
それに、と言葉を区切り、デスピナスに群がって自分はこの部位をと話し合っている冒険者達を見て、微笑んだ。
「幸いにもあいつらの中に自分に自惚れるような馬鹿はいないだろう。俺の魔法で見たんだ。間違い無い。ああ言う奴等が高ランク冒険者になれば今後冒険者になる若者達が正しく成長する」
和人は別に善意でこんな事をしているわけでは無い。ただ単純に強い奴が沢山現れればこの世界がもっと楽しくなるだろうと考えているだけだ。
事実和人はデスピナスとは比べ物にすらなら無い魔物の素材を持っているし、何よりファルシオンやレティなど世界神そのものの装備も持っている。それに思想魔法と言うチートの権化とも言える魔法がある。デスピナスの素材等あっても無くても構わないのだ。
「お前等に言っておく。その素材をどうしようが俺は知らん。だが仮にそれに驕り、舐めた真似をすれば俺が殺す。それを正しく使いこの世界をもっと面白くしてみろ」
和人の言葉に皆ゴクリと唾を呑み、これは絶対正しく使おうと決意をした。
「ふわぁ……和人様かっこいい……」
「かっこいい……」
「僕等凄い人に出会ったな……」
「本当にかっこよすぎます。あれに惚れ無い方はいらっしゃるのでしょうか?」
神獣達は和人の目に光る怪し気な光りに頬を赤く染めて熱っぽい視線を送る。
「流石は私のマスターじゃ。何時見てもかっこよいのぉ……」
ヴェルに至っては何か悟りを開いたかのような雰囲気を醸し出し、和人を見つめている。
「さて、と……さっさと報酬を頂きたいのだが?」
「……へっ?あ!申し訳ありません!えーっと……」
どうやら受付嬢も和人の雰囲気にあてられていたらしく、和人が声を掛けた事で漸く我に返ったようだ。
「はい、こちらが報酬は閃貨3枚となります。それに続き討伐をして下さった為、追加報酬で閃貨2枚となります。しかし国宝の方はアキレス皇国にありますので、そちらに直接出向いて頂きます。そちらのギルドでこれを渡せば皇王様に連絡が行くので、お手数ですがアキレス皇国までご足労をお願いします」
だがプロ根性で持ち直し、きちんとした対応で和人に閃貨5枚と何らかの書類を渡して来た。
「分かった。まあ最初から行くつもりだったし、そのついでにでも持って行くよ」
和人はそう言って別空間に書類と閃貨5枚を放り込みカウンターから離れた。そして、そのカウンターに今度はヴェルがやって来て依頼の達成を報告する。
「連続ですまんが、デスマウンテンに住み着いた火竜の討伐終わらせて来たぞ」
そう言って火竜を二匹別空間から取り出そうとして、咄嗟に和人に止められる。
「ヴェル、ここでそいつらを出したらここがの壊れる。確か火竜は角が討伐証明部位だから俺がそれを切り取ろう」
火竜の大きさは大体10mを超える。流石に冒険者ギルドでも室内では10mを超える物体を置く事は出来ない。
和人は別空間から見える火竜の頭を一瞬で切り取り、カウンターに乗せた。
「もう驚きません……はい、確かに確認しました。こちらが報酬の白金貨40とマジックアイテムの応龍の剣です」
「応龍?」
意外な所で応龍の名を聞き、驚いてカレンの方を見たが、彼女も良く分から無いようで、他の神獣達にも確認を取ったが、皆知らないようで、一斉に首を傾げていた。
「この応龍の剣とはなんじゃ?」
ヴェルは受け取った応龍の剣を見ながら質問すると、受付嬢は待ってましたとばかりに説明を始める。どうやら説明したくてうずうずしていたようだ。
「それは過去に聖戦の平原にて神獣同士の激突があったとき、その場に落ちていた四つのマジックアイテムの一つです。幾ら鑑定しても良く分からなかったため、観賞用の道具となり、かつてのクーデル侯爵家の当主様に引き取られました。他のマジックアイテムも王族や大貴族様に引き取られたそうです。
応龍の剣の装飾は見ての通り、海のような青色の柄に、応龍が象られた滑らかな刃を持っております。これは色の使い方や具合が非常に美しい品です!」
どうもこの受付嬢はマジックアイテムマニアらしく、これについて語るその表情は恍惚としてあり、和人達をしても多少引いてしまうくらいであった。
「そ、そうか、ありがとう」
ヴェルも少し引き気味ながらもきちんと礼を言い、応龍の剣を別空間に入れる。
「じゃあ次はこいつらの登録頼んでいいか?」
まだ少し引き気味ながらも、今回の一番の目的である神獣達の登録を頼んだ。
「あ、はい!了解しました!」
「カレン、スミレ、ローズ、ミセバ、今から登録するからこっちに来い。そんな難しく無いから安心しろ」
和人に手招きされてカウンターまで来たカレン達は受付嬢の説明の元、必要事項を記入して行き、ギルドカードを発行して貰った。今回はヴェルの時とは違いGランクからだが、身分証として使うだけなので大した問題では無い。それにカレン達ならEXは和人に匹敵する力が無いといけないので無理だろうが、SランクやSSランクに直ぐになるだろう。いや、もしかしたらSSSランクもそう遠くない未来の話かもしれない。
「はい、こちらがギルドカードとなります。説明はカズトさんやヴェルさんがいらっしゃるので大丈夫ですよね?」
カレン達はそれに頷き、和人達に向き直る。
「和人様、これでよろしいんですか?」
「ああ、取り敢えず今日のところは宿を探すぞ。貴族とかしか使わないような宿なら空いてるだろう。料金も今回は依頼の収入で事足りるしな」
そう言って和人達はギルドから出ようとするが、今だにデスピナスの解体が出来ておらず、非常に通り辛い事になっている。
「俺がやった事ながら、面倒な……」
そう言って和人は無造作に手を動かした。無造作ではあるのだが、それは音よりも速く、解体をしていた冒険者達は和人が何をしたのかまったく分かっていなかった。
「行くぞヴェル、カレン、スミレ、ローズ、ミセバ」
和人の言葉と同時にデスピナスの体は首、両手、胴体、足とバラバラに別れた。それを確認することはせずに和人達はギルドの外へ出て行った。
「嘘だろ……」
誰かがそう呟くが、現実は残酷であった。
和人は武器を使っていない。しかし自分等が幾らやってもまともに傷も付けられ無かったデスピナスの体は、見事にバラバラとなっていた。つまりは身体能力と技術だけでここまで綺麗に切断をしたのだ。
「瞬速の絶対者……とんだ化け物じゃねーか……」
誰かが呟いたその声はギルドの静寂に呑まれて消えた。
次回はあの方達が出る予定です!
P.S
今回の投稿は時間を1で揃えるためあえて11時に投稿していますが、普段は基本的に12時投稿です




