神獣の服
いい題名が浮かびませんでした。適当で申し訳ありません。
「身分証を」
「これだ」
「ほれ」
「確認しました、が……早過ぎじゃないですか?」
ブレイアルの街に帰って来た和人達は、出発時にも対応して貰った兵士の青年に街に入る手続きをして貰った。その反応はやはりと言うか呆れだった。
「まさかあの距離を一日掛けずに往復してくるとは……これが瞬速の絶対者の由来ですか……一体どんな魔法を?」
「秘密だ」
どうやらあの移動速度は何らかの魔法によるものだと思ってるらしく、都合が良いと言う事もあり秘密と言う形で誤魔化した。
「和人殿とヴェルフェン殿はともかくその方々は?」
門番の青年は和人達の後ろにいる四人の美少女を指差して、和人達に問う。その顔は心なしか少し赤く、チラチラと四人を見ては目を逸らすと言うあからさまなものだった。
(まあ仕方ないか……)
和人としてもヴェルと言う美少女と常に行動を共にしている事で抗体が出来ているが、もしそうで無かったらきっとこの青年程では無いにせよ、多かれ少なかれ似た反応をしていただろう。それは彼女等が人型になった時の話だ。
***
街の近くまで来た和人達は、一度人気の無い場所まで移動し、周囲の気配を探り誰も自分等以外誰もいないのを確認してから、四匹の神獣達に人型になるように命じた。
「ここらでお前等には人型になって貰う。街に入る時に身分証が無い事によって発生する金は俺が払うから、取り敢えずお前等は人型になって人間に紛れてくれ」
「分かりました。ご迷惑をお掛けします事を心から謝罪致します」
和人の言葉にカレンが答え、その後他の神獣達に目配せをする。それを見た神獣達もカレンに倣い頭を下げて次々に謝罪を述べる。どうやらカレンは何時の間にか神獣達の中ではリーダー的な存在になっているようだ。
「ったく、堅苦しいな。これっしきの事でそこまで堅くなるな。これは俺の勤めだ。お前等はお前等のするべき事をやってくれりゃあそれでいい」
和人は後頭部を掻きながらそう言うが、神獣達は態度を変えない。
「とにかく早く人型にならんと街に入れんぞ」
それを見かねたヴェルがそう言い、それに神獣達は頷き、次の瞬間には全員が全身に光を纏ってその形をどんどん人の形に近くしていく。
「終わりました」
そこにいたのは四人の美少女だった。
「改めてまして、応龍のカレンです」
「鳳凰のスミレです」
「九尾のローズだよ♪」
「霊亀のミセバ……」
カレンは深い青色の髪を項の辺りまで垂らしている。目は髪と同じ深い青色をしており、見た目17〜8歳の中性的な容姿の少女だ。身長は160cm程で胸はそこまで自己主張をしないが、全く無いわけでも無く、均整の取れた体躯をしている。
スミレは自らが纏う炎と同じ深紅の髪を腰の辺りまで伸ばし、深紅の双眸を持つ20歳程の女性で、170cm程の身長を持ち、カレンとは逆に自己主張の激しい双丘を持っている。体躯的にはボォン、キュッ、ボンッと言ったところだろう。
ローズは白に近い黄色の髪をツインテールに束ねた碧眼の少女で、150cm程の13〜4歳程である。胸は殆ど無いが、とても人懐っこい風体で、和人に妹のような印象を持たせる。
ミセバは和人と同じ黒髪黒眼に、黒髪の一部に藍色の髪が混ざっており、それらを肩辺りまでポニーテールに纏めてある。
年齢は16〜7歳程であり、カレンより僅かに年下と言った感じである。身長は160cmあるか無いか程で、体躯も均整が取れており、とても雅に見える。
神獣達の人型は皆決まって整っており、レティやアリアと同等と言える。
ヴェルはやはり別格の美しさを持っているが、そんなヴェルと一緒にいても決して見劣らない。
「よし、これで街に入れるな。んじゃ取り敢えずは服を着ろ」
そう、人型を取った神獣達は皆服を着ておらず、その美しい肢体を惜しげも無く晒している。和人からしたら美しい女性の裸体等ヴェルで見慣れてはいるが、もしこれが和人では無く他の男だったら一瞬で卒倒していただろう。
「あの、その……和人様は何も思われないのですか?」
「ん?」
カレンが顔を赤くしながら和人にそう問うが、和人は何の事か分からず首を傾げる。
「ですから、それは……」
「あーもうまどろっこしいな!つまりカレンが何を言いたいかと言うと、和人様はアタシ達の裸を見ても何も感じないのかって聞きたいんです!」
中々言い切らないカレンにイライラしたのか、ローズは思いっきり核心を突いた。
「ちょ、ちょっとローズ!あの、違うんです和人様!和人様は僕達のその、裸を見ても何も言わないので、何処か変じゃだったのかなと心配になっただけです!本当にそれだけです!」
「ふふっカレンったら照れてますね。まあかくいう私も気にはなりますが……」
慌てるカレンを見てスミレが微笑む。その後チラリと和人を見る。
「和人様……どう?」
それにミセバばも便乗し、和人を見つめる。和人とヴェルは知らないが、神獣の本能は自分より強い異性に惹かれる習性を持つ。そして和人は圧倒的実力差を見せて彼女等に勝利した。つまり神獣達からしたら和人はどストライクな異性なのだ。
「そうだな……皆可愛いし、綺麗だ。俺はヴェルで見慣れてるからこんな反応しか出来無いがな」
和人の言葉に一斉に顔を綻ばす神獣達。この世界は一夫多妻制が普通であり、ヴェルがいるからどうとはならない。
「ほら、服だ。さっさとこいつを着ろ。何時までその姿でいるつもりだ?」
和人は思想魔法にて神獣達専用の服を作り、それぞれに渡してやる。
カレンには青色の上着に、水色のスボン、それに背中に龍が象られたジャケット。元々の中性的な容姿もあいまり、とても似合っている。
スミレには紅葉を彷彿とさせる風景が描かれてある緋色の着物を。自前の深紅の髪とうっすらと明るい緋色が上手にマッチングしており、綺麗に写る。何よりその紅葉を背景に飛ぶ深紅の鳥がとても幻想的で美しい。
ローズには白いと黄色が織り混ざったワンピースを。元が幼いローズにこの服装はとても似合い、より一層可愛いらしさを引き立てている。左胸の部分には九つの尾を持つ狐が描かれている。
ミセバは巫女服を彷彿とさせる着物だ。漆黒の生地に度々通る川をイメージした青色の線の存在感が素晴らしく、その畔に静かに佇む亀がとても引き立てられる。
「何か違和感とかあったら言え。直ぐ作り直す」
「いえ、とてもしっくりきます。動きも阻害され無いし……素晴らしいです」
「そうですね……確かにこの服は素晴らしいです。文句の付け所が全くありません」
「わー可愛い!それに凄く動きやすいし、何より丈夫!」
「完璧……」
和人の言葉に首を横に振り、逆に称賛の言葉を上げる。事実和人の作り出した服はこの世界の最高峰の出来であり、王族や有力貴族で無いと着る事は疎か、見る事すら出来無い程の代物だ。
「それなら良かった。その服には一応全属性、全状態異常の耐性と基礎ステータスを大幅に上げる魔法を付与させてある。俺やヴェルみたいに自らの魔力を具現化させたりしてるわけでは無いから、本来の自分の能力の100%を出せるかは分からないが、それ近しい動きは出来る筈だ」
神獣達は和人の説明に、ほーっと感心したようにして、自らの動きを何処まで再現出来るか動いてみた。
「確かに100%は無理ですが、99%は出せます。僕達は素がそれなりに強力なので、99%も出せれば大抵の相手には負けません」
「和人様やヴェルさんのような方々がごろごろといるわけありませんし大丈夫だと思われます」
「アタシ達、本来はちょー強いんだから!」
「十分……」
きちんと動ける事を確認した神獣達は、再び各々の服を見ては顔を綻ばしている。
「うむ、皆とても似合っておるぞ!」
ヴェルも彼女達の服装を見て感心している。どうやら和人が作り出した服は全員のお眼鏡に掛かったようだ。
「よし、なら街に行くぞ。さっさと仕事の終了を報告して、お前等のギルドカードを発行しないとな」
「「「「はい!」」」」
そうして今度は音速まで速度を落として、街に向かう。亜光速で行かないのは、それで街まで行くと、街に少なくない被害が出てしまうからだ。
遠目にブレイアルの街が見えて来たため、和人達は速度を普通の状態に戻し、門付近で急停止した。
突然現れた和人達に街に入るための順番待ちをしていた数名がギョッと目を見開いて驚くが、和人達は知らんぷりする。
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そして現在に至る。
「悪いがあいつら身分証を紛失している。仮証明を発行してくれ。代金は俺が持つ」
「分かりました。では銀貨四枚となります」
和人は懐から四枚の銀貨を出して兵士の青年に渡す。
「はい、確かに銀貨四枚頂きました。ではこちらが仮証明となります。有効なのは今日一杯ですので、早目に身分証を再発行してくださいね」
「ああ分かった。ありがとな」
青年兵士に礼を言って、和人はヴェルと共にカレン達の元に戻る。
「またせたなこれが仮証明だ。今日一杯しか使えないから早目にギルド行くぞ」
そう言って和人達はブレイアルの街に入って行き、夕暮れの人混みと喧騒に紛れてその姿を街中に消して行った。




