戦闘指南
「おし、全員揃ったな?」
ミロガス大魔道学園の訓練場。主に生徒の自主練と戦闘指南に使われる場所に、2年S組の生徒達は集まっていた。
「じゃあとりあえずお前等一人ずつかかって来い。俺とヴェルはここに来たばっかりだからお前等の実力を知ら無いんでね」
「全力でかかって来て良いぞ。私とマスターは強いからな」
生徒達は男女に別れ、男子は俺、女子はヴェルの前にそれぞれ並んだ。
「まずは俺が行くぜ!」
俺の前に並んだ生徒の一人がそう言い、フィールドの上にやって来た。
「よし、最初はお前だな?名前は?」
「俺の名前はスミル。スミル・クレイモアだ。クレイモア男爵家の次男に当たる。あんたは貴族に対する礼儀が全くなって無いからな、俺がボコボコにして貴族に対する礼儀を教え込んでやるぜ!」
このスミルとか言う生徒は、典型的な馬鹿貴族のようだ。貴族は偉い。だから丁寧に扱われるのは当然だ。と思っている。だが生憎俺は貴族に対する礼儀持ち合わせて無い。貴族だろうが王族だろうが、気に食わなければそれ相応の対応をさせて貰う。逆に気に入れば平民だろうときちんとした対応を取る。そんなタイプだ。
「悪いが俺にそんな物は関係無い。貴族だろうが、平民だろうが、きちんと平等に実力を見る」
それ故ここはきっぱりと自分の心情を言う。舐められたら困ると言う事もあるが、何より今後こいつと同じクラスになる平民が不憫だ。
「たかが冒険者風情が生意気だぞ!絶対ボコボコにしてやる!」
俺の言葉が頭に来たのか、スミルが訓練用木剣を手に突っ込んで来た。
(流石はS組の生徒って所か……馬鹿だが動きは悪く無い。冒険者で言うとCランクくらいの実力はあるな……だが、感情を制御出来無いのが残念でもあるな……)
突っ込んで来たスミルを躱し、すれ違い様にスミルの足を払い、体制を崩した所にスミルが使っていた訓練用木剣をスミルの手ごと動かし、喉元に突き付ける。
「動きは悪く無い。だが感情に身を任せて動くのは減点だな。それを直せばCランク冒険者くらいの実力はあるだろう」
スミルは信じられ無いと言わんばかりの表情をしていた。恐らく自分の実力に自信があったのだろう。事実、今の年齢でここまで動けるのは凄いと言えるだろう。
「次は誰だ?」
悔しそうな顔をしながらクラスメイト達の集まる場所に戻るスミルを尻目に、次の生徒を呼ぶ。
「じゃあ次は僕が行きます」
すると、どこか大人しそうな印象を抱かせる少年が出て来た。
「よし、なら次はお前だ。お前の名前は?」
「は、はい!僕はグレイルと言います!姓はありません」
どうやらこのグレイルと言う少年は平民の出らしい。まあ俺にとってはどうでもいいことだが。平民でも実力があれば俺も相応の対応をしよう。
「オーケーグレイルだな。じゃあ早速かかって来いグレイル!」
「はい!行きます!」
瞬間、グレイルの影がぶれた。
(な⁉︎これは風属性の中級魔法、『韋駄天』⁉︎)
『韋駄天』。自分に風の補助魔法を掛けて動きを爆発的に早くする風属性の中級魔法。
中級魔法とは大体学園卒業レベルの難易度の魔法で、冒険者としてはそれ程珍しい訳では無いレベルだが、それを学園在学中に使用出来るのは、グレイルが魔法に関してかなりの才能がある証拠だろう。正直これには俺も驚いた。
「その歳で『韋駄天』を使えるのか。中々優秀じゃないか」
「先生こそ僕等と大して変わらない歳の癖に、教師を任されるくらいの実力じゃないです、か!」
会話の最後にその爆発的に速まった速度を活かした拳を繰り出して来る。どうやらグレイルは拳闘士のようなスタイルらしい。
「まあな。少なくともお前等全員よりは強い。そうじゃないの教えられないからな」
グレイルの加速した拳を片手で受け止めて、そのまま後ろに放り投げる。
「なっ⁉︎」
急に変わった視界に戸惑うグレイル。俺は飛んだままのグレイルに追い付き、腕を掴んで関節技を決める。
「俺の勝ちだな」
「……参りました……」
ようやく落ち着いた頭で自分が負けた事に気付いたのだろう。その表情からは、悔しさが滲み出ている。
「僕、結構自信あったんですよ。先生に勝てないまでも、一撃は入れられる自信が。でも、結果は一撃どころか、掠りすらもさせられず、受け止められるとは思っていませんでした。先生って本当にお強いんですね」
「まあな。正直な事言うと、グレイル。今のお前の実力じゃ俺に傷一つ付けられ無いだろう。でもな、お前の実力はこのクラスでもトップクラスだと思うぞ。まだ全員の相手をした訳じゃないが分かる。冒険者で言うとC〜B程度の実力はある。お前の歳でこれは相当凄い事だ」
グレイルの実力を分析し、大体の実力を説明する。俺の説明を聞き、グレイルの表情が悔しさから歓喜へと変わった。
「本当ですか⁉︎僕、この学園を卒業したら冒険者になりたいんです!」
グレイル曰く、冒険者は危険な仕事だけど、その分お金が貰えるから、実家の為にも高ランクになっていっぱい稼ぎたいとの事だ。
「成る程な……うん、悪く無いんじゃないか?頑張れよ?」
「はい!」
嬉しそうに皆の元に戻るグレイル。それを見てこいつは成長するなと悟った。
「次は誰だ⁉︎」
まだ生徒達は残っている。俺は声を掛けて次の生徒を呼んだ。さて、このクラスの生徒達の中に強い奴は何人いるかな?
次回はヴェルの戦闘指南の予定です。多分和人は出ません。和人の再登場は次々回(?)の予定です。




