第61話「ポンはお星さまに……」
「キツネの嫁入り」やったらポンが流されてしもうた。
長い付き合いじゃったが、ついに星になってしもうたかの。
これで本当にわらわが一番…
…待てマテまてーっ!
ポンが死んだらわらわが店番せねばならんではないかっ!
「しっかり術、使ったでありますか?」
「し、しっかり使ったのじゃ……」
鉄砲水の後のぽんた王国なのじゃ。
さいわい流されたのはそば屋とみやげもの屋、道路側だけで済んだのじゃが……
術を使って救出したつもりが、泥の中から出てくるのはハズレの悪人ばかりじゃ。
「コンちゃん、やっぱりわざと『やった』でありますか」
「違うーっ!」
「なんで悪人しか見つかってないんですかっ!」
「じゅ、術にも範囲があるのじゃ!」
むう、シロめ疑いの目をしておる。
「本当なのじゃ……」
ポンがわらわの術で死ぬ……信じられん。
ヒットポイントだけは無尽蔵っぽいキャラじゃったのに……
「あ!」
「どうしたシロ、ポンがいたかの?」
「刑事さんであります」
おお、本当じゃ。
泥まみれの駐車場を来おった。
「今日も見まわりに来たんですが……これは?」
「鉄砲水でこうなったであります」
「連中は?」
「連中……でありますか……」
助けたこわもて軍団、泥まみれなのじゃ。
「そやつらは、ここに攻撃に来て鉄砲水の餌食になったのじゃ」
「……」
刑事……シロの元主人、わらわの後ろに回りこんでしっぽを確認しておる。
「まぁ、何でもいいです、逮捕状出てるのでしょっぴきます」
「うむ、頼んだぞ」
刑事が携帯で呼び掛けると、あっという間に窓に金網を張ったバスが登場じゃ。
こわもて達をバスに乗せるのじゃが、
「あの……」
「なんじゃ」
「この間、写真見せましたよね」
「おお、あの時の写真がどうかしたのかの」
「あの男はいませんでしたか?」
「おったが……」
「この中にいないようなのですが……」
「そんなはずはないのじゃ……さっきまで拳銃を手にポンを人質に……」
そうじゃ、あのボスはポンを人質にしておったのじゃ。
「これ、刑事、あの男は本当におらんのかの?」
「ええ、最重要人物なので見間違いはないです」
「まぁ、わらわも見たゆえ……」
「流された……とか?」
「流された……ようじゃの」
「……」
「……」
むう、こわもて共を乗せた金網バス出発じゃ。
「鉄砲水で流されたのであれば下流で見つかるでしょう」
「うむ……そこで相談じゃが……」
「?」
「ついでにポンも探してくれんかの」
「ポンちゃん……あのタヌキのメイドさん」
「うむ、そうじゃ、頼めるかの?」
「探してみましょう、でもタヌキがばれたらどうなるやら……」
刑事のヤツ、力のない笑いなのじゃ。
「そうそう、今日は遠足だったのでは?」
「!!」
いろいろ騒ぎはあったものの、ニンジャ屋敷の方には聞こえてないようじゃの。
「うむ、そうじゃが、それが?」
「お昼はどうするんですか?」
「!!」
そうじゃ、そば屋は流れてしまったのじゃ。
見ればタヌキ爺、そば生地の玉をまだポンポンしておる。
「あれだけでは足りんのう……」
「犯人逮捕に協力していただいたので、ここは助け船を出させていただきます」
「!!」
刑事、携帯電話を掛けよる。
言葉を交わしたと思ったらもう終わりじゃ。
「すぐにバーベキュー一式が来ますよ」
「おお、おぬし、なかなかやるのう」
ここまでしてくれるとは!
でも「さつまあげ」、忘れんからの。
「いえいえ、協力してもらったですから」
「しかしのう、連中が来てやっつけただけで」
「いや……遠足……エサに使わせてもらったので」
「なぬっ!」
わらわがにらんだ時にはもう、刑事のヤツ車に乗っておった。
術の一つもかけようと思ったら、別の車がやって来おる。
「ちわー、綱取興業っす」
「おお、なんじゃ、配達人ではないか」
いつもの目の細い配達人じゃ。
「電話もらったので、バーベキューセットお届け」
「おぬし、何でも持って来るのう」
「うちは食品卸やレンタルが本業っぽいです」
「?」
「縁日の露店用品のレンタルしてるんですよ~」
「ほう」
「でも……どこに広げます? 泥だらけなんで」
「むう!」
「術使ってとっとと片づけて下さい!」
「は……おぬしわらわが術を使うの、知っておるのかの!」
「しっぽあるし……なんとなく……」
まぁ、ミコも見ておらんし、指を鳴らして一発清掃じゃ。
泥を除けるなんて一瞬なのじゃ。
「じゃ、コンロとテーブル、セットしときますね」
「うむ」
おお、目の細い男、すごい手際じゃ。
「後日回収に来ま~す」
あっという間に帰ってしまいおった。
「あの、目の細い男、もしやすごいヤツかも」
「本官もびっくりであります、働き者」
「しかしあの細い目がいかんのう、常に寝ているように見えるのじゃ」
「そうでありますね」
ふむ、この箱には食材……なんじゃこれは?
「焼き鳥? 豚腹? バーベキューにしてはなんじゃのう」
「さっき露店のレンタルと言ってたでありますから」
「ビールもあればいいのじゃが……」
「コンちゃん……」
今日も店番なのじゃ。
『先日の一斉検挙の続報ですが……』
昨日のニュースをTVでやっておる。
おお、ボスの顔が出ておるな。
あやつもまだ見つかっておらんようじゃ。
「コンちゃんしっかり店番やってよ~」
「なんじゃミコ!」
「遠足帰ってから元気ないわよ」
「は?」
「そう……店長さんみたい」
「は?」
「今になってポンちゃんがタヌキになったの、ショックなの?」
「まぁ、のう……」
一瞬真実を告白しそうになったが、頑張って言わずにおったぞ。
もしも真実を語ったら、ミコにボコボコにされるの必至なのじゃ。
「しかし店長は……」
店長は店先に出したテーブルにおる。
リードを手にポンの身代わりと一緒じゃ。
「あやつも壊れっぱなしじゃのう」
「店長さん、ポンちゃんの事、好きだったんじゃない?」
「はぁ! ミコやシロならわかるがポンかの!」
「ポンちゃん、見た感じ若かったし……」
「中坊でどら焼き級じゃぞ」
「でも、一番お店で働いてたんじゃない?」
「わ、わらわだって!」
「コンちゃんいるだけよね」
「むう……」
レジから店長を見ておると……
何かポンの身代わりに言っておる……
しかし髪、白髪が目立つのう……
「しかしあれだけ壊れておるのに、パンはいつも通りに作るのう」
「ええ……体が覚えてるみたいよ」
ミコ、わらわをじっと見て、
「コンちゃんの術でポンちゃんを人間の姿にできないの?」
ギクッ!
いつか言われると思っておったのじゃ。
しかしわらわの術では、あの仔タヌキは「ポン」にはならずに「おでこ眼鏡」になってしまうのじゃ。
まぁ、姿をポンにすることは出来ても……姿を保っている間はわらわが念を送らんといかんから面倒で疲れるしの。
それに人の言葉をしゃべるようになっては、すぐに化けの皮がはがれるであろう。
「ポンがへそを曲げておる間は無理じゃ」
「そうなんだ……」
「ミコ! ミコの術はどうなのじゃ!」
「……」
「おぬしの術はわらわより強力なのじゃ」
「そうかしら?」
「おぬし、わらわを封じたのじゃぞ!」
「昔の話じゃない」
「それにおぬしの術はたまおを防ぐではないか」
「……」
「どうなのじゃ! ポンを戻せんのかの!」
「昔やったことがあるような気がするけど、今はもう出来ないと思うわ」
ミコのヤツ、手をヒラヒラさせて、
「私、配達に行くわね」
行ってしまったぞ。
ふむ、開店したてで客もおらんし、店長の様子を見るかのう。
うむ、店先のテーブル、なかなか良い雰囲気じゃな。
オープンテラスとかいうのかの。
しかしTVがないのでダメじゃな。
お、シロもパトロールから戻ってきおった。
「今日は早いのう、まだ開店したばかりじゃ」
「レッドを送って行っただけであります……コンちゃんは脱走中でありますか?」
「開店したてで客もおらんので、店長の様子を……」
「コンちゃんっ!!」
おお、白髪店長いきなり大声。
「な、なんじゃ店長、枯れておる割に元気じゃの!」
「さっきミコちゃんと話してるの、聞こえちゃったんだ!」
「な、何がかの?」
「コンちゃんの術でポンちゃんを元に戻して!」
「よーし、まかせるのじゃ、ていっ!」
もう、術をかけるのではなく店長にチョップじゃ。
ふふ、神のチョップで一発昇天じゃ。
「コンちゃん、店長さんの発言、すごかったでありますね」
「さっき店の中でミコと話していたのが聞こえたようじゃの」
「この仔タヌキに術をかけるのは……やっぱりダメでありますか?」
「あたりまえじゃ、こやつに術をかけてもおでこ眼鏡になるだけなのじゃ」
「おでこ眼鏡……みどり……でありました」
「なんでもよい、こやつはずっとポンの身代わりを演じてもらうのじゃ」
「こんにちは、どうしたんですか?」
おお、いきなり村長かの。
「むう、何用じゃ、ミコはおらんがの」
「ええ、さっきそこで会ったわ、今日はコン……ちゃんにお礼に来たの」
「?」
「ほら、ぽんた王国」
「ふむ?」
「おそば屋さんの人、村のおそば屋さんに来てもらう事になったのよ」
おお、そば屋のタヌキの爺さんの事じゃな。
「それはよかったのう」
「あれ……このタヌキ……」
「?」
「ポンちゃんは……」
「村長、命が惜しくばすぐに去るのじゃ!」
ふん、にらんだらすごい勢いで帰ってしまったのじゃ。
しかしまずいのう、ポンの事がばれぬか、心配じゃ。
さて、店番頑張るとするかの。
「シロ、逃げるでないぞ」
「コンちゃんサボる気満々でありますね」
「わらわは神ゆえ、おるだけでよいのじゃ」
「そればっかりでありますよ」