第58話「ニンジャといえば『由美かおる』」
レッドめ、ご機嫌なのじゃ。
遠足のパンフレットを見せて興奮しておる。
こやつ、興奮すると耳がキツネになるようじゃの。
「めがねにんじゃ、いるかなぁ?」
本当に眼鏡スキーじゃのう。
今日はちょっと心配じゃったのじゃ。
いつ村長が現れて、ミコを引き抜くかヒヤヒヤだったのじゃ。
結局村長は来んで、昼もおやつの時間なのじゃ。
「は~い、今日のおやつはゼリーよ」
「うむ、ミコ、早くお茶の準備をするのじゃ」
「はいはい」
お、ドアが開いてレッドのご帰還じゃ。
「ただいま~」
「うむ、レッド、ミコを手伝うのじゃ、おやつの準備じゃ」
「は~い」
うむ、レッドのやつ、なんだか嬉しそうなのじゃ。
学校で何か良い事でもあったかのう。
「もってきた~」
「うむ、手は洗ったかの?」
「もち~」
さて、客もおらんゆえ、店のテーブルでお茶じゃ。
とは言ってもレッドはゼリーを持ってきただけでお茶はまだじゃが。
むう、レッドめ、うまそうに食いよる。
「レッドよ、うまいか?」
「うまうまです」
「そうか……して、今日は機嫌が良いようじゃが」
「!!」
おお、レッド、一瞬キツネ耳になりおった。
何か感じたのかの?
「どうかしたのかの?」
「えんそくです!」
おお、幼稚園かばんからチラシじゃ。
うむ、ぽんた王国に行くようじゃのう。
村長お手製のチラシ、パンフレットの切り貼りじゃ。
「レッド、遠足はどうかの?」
「たのしみ、わくわく」
おお、耳は引っ込んだがしっぽフリフリすごい勢いじゃの。
「ここ! ここ!」
「落ち着かんか、ニンジャ屋敷、ふむ」
まぁ、確かに子供の好きそうなアトラクションじゃの。
わらわも時代劇でお馴染みゆえ、楽しめたのじゃ。
「とくにこれ!」
「?」
「めがねにんじゃ、いるかなぁ?」
おお、ポン太が写っておる。
眼鏡ニンジャ……レッドは眼鏡スキーゆえ、しょうがないか。
「うむ、眼鏡ニンジャはおるとよいのう」
「たのしみ~」
「ふむ、レッド、ニンジャと言えば?」
「にんにん」
「名前を言うのじゃ」
うむ、レッド、食べるのもやめて固まってしもうた。
ミコがやってきてお茶を並べおる。
シロもパトロール帰りで席に着いたぞ。
しかしレッドは長考じゃのう。
「コンちゃん、レッドに何を言ったの?」
「うむ、ニンジャの名前を聞いたのじゃ」
ミコを見れば、
「はっとりくん?」
シロを見れば、
「赤影とか?」
レッドはまだ考え中じゃ。
「これ、レッド、寝ておらんか?」
「ふえ……」
「ニンジャの名前をあげるのじゃ」
「ゆみかおる」
「ぶっ!」
ミコもシロもわらわと一緒に吹き出しておる。
『誰の教育でありますか!』
『まったくコンちゃんは……』
『なんじゃおぬしら、何故わらわのせいなのじゃ!』
『他に誰がいるでありますか』
『わらわではな~い!』
皆で考える……レッドに一番世話を焼いておるのはポンかのう。
しかし今はここにおらんので責める事もできん。
だが……ニンジャで「由美かおる」がいの一番とはどうしたものか。
せめて「やしち」か「とびざる」だったらよかったのにのう。
『子供なのに、すごい気がするであります』
『わらわもそう思う』
『コンちゃんじゃないの? 悪影響の原因』
『ミコ、何故じゃ、お色気インストラクターはポンじゃ、エロポン』
『ポンちゃんは直球だもん……由美かおるは……』
三人して水戸の老公を思い出す。
うむ、ちょっと聞いてみるかの。
「これ、レッド、おぬしTVで見る美人は?」
「びじん……」
「そうじゃ、名前をあげるがよい」
「ばいしょうちえこ?」
「!!」
「なかむらたまお?」
「!!」
もう、三人そろってレッドをガン見じゃ。
この仔キツネはどういったストライクゾーンかの。
「ふむ、ここで好きな順はどうじゃ」
「コン姉、たまおちゃ、ちよちゃ、ミコ姉、シロちゃ……」
むう、美的センスは問題ないようじゃ。
「たまお」「千代」は眼鏡のせいとは思うがのう。
しかしじゃ……
「これ、おぬし、ポンが抜けておらんかの」
「!!」
「レッド、一番世話を焼いてくれるのはポンではないかの、ポン姉」
おお、レッドの目が震えておる。
わらわを責める目で見ながら、
「どうしろとー!」
あわれポン……もう帰って来ん方がよいかもしらん。
おお、またドアが開いたのじゃ。
今度は現場監督ではないか。
うむ、目で合図をしよる。
無視じゃ無視……今度は手招きかの。
「コンちゃん呼んでるわよ」
「今はお茶の時間な……」
うわ、途中までしか言っておらんのに怒りのオーラを感じるぞ。
ミコを怒らせてもまずいゆえ、行くとするかの。
「なんじゃ、せっかくのお茶のひとときを……」
「いいから、ちょっとちょっと!」
「?」
なんじゃ、この男は!
汗くさいので好かんが……今日はいつになく真剣な顔なのじゃ。
「どうしたのじゃ?」
店を出てすぐに、
「コンちゃん、コンちゃんは……知ってるんだよな」
「?」
「ここにいるタヌキはポンちゃんじゃないよな」
「うむ……おぬし何か知っておるようじゃな」
「俺、山向うのダム工事のヘルプで……」
「ぽんた王国」
「知ってるのか!」
ふむ、店の中は……楽しくお茶をやっておる。
しかし店長はおらんのう。
ポン……タヌキもおらん、一緒に散歩のようじゃ。
「ここで話すのもなんじゃの、あのでかいのでドライブするかの」
「じゃ、乗って乗って!」
「何を焦っておるのじゃ」
ふむ、ダンプを吹き飛ばした事はあるが、乗ったのは初めてじゃのう。
おお、神輿の上から見たより景色がよいぞ。
ちょっとワクワクするのう。
うお、エンジンスタートじゃ、ちとうるさいが、勇ましいかの。
「で、何じゃ?」
「ぽんた王国のは……ポンちゃんなんだな」
「さらわれたらしいのじゃ」
「なんで知ってて助けに行かねえんだ?」
「ふむ、おぬしはあそこに行ったようなので言うが、ポン、結構しあわせそうではなかったかの」
「ま、まぁ、ここにいる時とあんまりかわらなかったような……」
「あやつはタヌキゆえ、仲間と一緒に暮らすのも良いかと思っての」
「でも、ポンちゃんがヤバいんだ」
「?」
「あの辺、ダムになるんだ」
「ふむ、要するにここと同じで沈むと?」
「コンちゃん、わかるだろ、立ち退きってのがあるんだよ」
「……」
「上の……俺の雇主が行動に……」
「何じゃ、暴力に出るのか、コテコテじゃのう」
「ポンちゃんも、あそこの住人もタヌキだから……」
「ふむ……人でないゆえ、手っ取り早くかの」
「上の連中本気だぜ」
「そうか……ポンのピンチじゃのう」
「ポンちゃんに聞いたら、ポンちゃんは術はないって言うじゃねぇか」
「聞いたのかの?」
「まぁ……コンちゃん、なんとかなんねーのか」
「……」
「あの『ぽんた王国』攻撃は明日らしいんだ」
「はあ!」
「何、急に大きな声を!」
「それは本当かの! 明日は遠足でぽんた王国に行くのじゃ!」
「え……何でそんな面倒な……」
「ちょ、ちょうど良いと思ったのじゃ」
「上の連中、それ、どっかで仕入れてる、絶対」
「遠足の話、昨日今日じゃぞ、何故漏れる!」
「上の連中、ずっと網を張ってるんだ」
「しかし!」
「そーいった嫌なタイミングで来るもんだぜ」
「むう……どうしたものよのう」
「俺、ポンちゃん助けに行くから、コンちゃんも行こうぜ」
「む……」
「約束だかんな~」
「……と、言う事なのじゃ」
「はぁ……困ったでありますね」
今は風呂、シロがわらわの背中をこすっているところじゃ。
「わらわも遠足に同行したいが、ミコがうるさいでのう」
「コンちゃん、お店をさぼろうさぼろうするでありますから、疑われてもしかたないであります」
「わらわは神じゃぞ、おるだけでご利益なのじゃ」
「本当でありますか~?」
シロのヤツ、疑っておる。
「ともかく、あの男の言葉、信じるとしてじゃ」
「?」
「わらわ、どうやって抜け出せばよいかの?」
「はぁ……」
「いい案はないかの?」
「本官は朝のパトロールの流れで遠足も同行するでありますよ」
「そうか……しかしシロは術がないであろう」
「やはりコンちゃんがいなくては……はて?」
「?」
「素直にミコちゃんや店長さんに話すのはどうでありますか?」
「あー、ダメダメ、ダメじゃ、いろいろ責任取らされそうじゃしな」
「やはり本官とコンちゃんで解決するしかないでありますか」
「おぬしもこっそり探しに行ったのをミコに知られたくあるまい」
「ミコちゃん、怒ったらこわそうであります」
「その通りじゃ……ではどうやって抜け出すかの?」
「う~ん」
「どうしたのじゃミコ、ビールビール」
「あ、お風呂あがったのね、はいはい」
「何を唸っておったのじゃ」
「これ」