第55話「おでこ眼鏡の委員長顔かの!」
「貧乳風俗」で検索開始じゃ!
ポンのさらわれた先を探す…何じゃ、電話が鳴っておる。
ふむ、たまおの父からのメールかの。
たまおめ、地鎮祭に呼ばれたようじゃ。
やはりタヌキに事情を聞くしかないようじゃのう。
ふむ、今日も店番をせんといかんのかのう。
朝から憂鬱じゃ。
目の前の食事にも気が沈む。
早いとこポンを連れ戻さんとなぁ。
ふむ、食卓にミコの姿はないの、台所のようじゃ。
『これ、シロ、聞こえるかの!』
『テレパシー……コンちゃん何でありますか?』
『うむ、昨日の事じゃが貧相を検索すると言っておらんかったかの?』
『貧乳を検索であります……ここにはコンピューターはないでありますが……』
おお、ミコとたまおがやって来たのじゃ。
ごはんと味噌汁が並んで食事もそろったぞ。
ホカホカごはんにシャケに味噌汁、卵焼じゃ。
シロめ、席に着いたたまおに、
「たまおちゃん、携帯電話で調べて欲しいであります」
「いいけど?」
「貧乳風俗で」
たまお、一瞬嫌な顔をして携帯を操作……してたら携帯が鳴ったぞ。
「うわ、メール、お父さんから!」
うむ、どうしたのじゃ。
こやつの父はなかなかの術者ゆえ要警戒かの?
「む……」
「どうしたのじゃ」
「お姉さま、これを……」
ふむ、文字が並んでおる。
「地鎮際に行くのでついて来い……かの」
「まさか私を連れ戻すとか」
「帰ってやればよかろうが」
「お姉さまがキスしてくれたら」
「むう、しかたないのう、目を閉じるのじゃ」
「え! 本当に!」
「ほれ、気が変わる前に目を閉じるのじゃ」
「私、感激です!」
おお、たまおめ、キスを待っておる。
おお、皆の目がビックリしておるのじゃ。
『コンちゃん本当にキスするの?』
『ミコ、何をバカな事を言っておるのじゃ』
隣で食事中のレッドを捕まえて、即たまおの鼻先へ。
キスしたらすぐに席に戻すのじゃ。
ふふ、レッドめ、眼鏡スキーゆえ、真っ赤になって固まってしもうたぞ。
「お姉さまの気持ち、しっかり受け取りました!」
「ふむ、わらわは親不幸な娘は好かんゆえ、早く行くのじゃ」
「はい、早く地鎮祭終わらせて帰って来ます」
「うむ、さっさと行くのじゃ」
「帰ってきたら、今度は一緒のお布団で!」
たまお、食事も忘れて行ってしもうた。
これで夜はゆっくり眠れるのう。
か、観光バスじゃ。
それもダブルで、二台で、店の中は人でいっぱいじゃ。
「五百円になりま~す」
何故わらわが人に愛想笑いせねばならんのじゃ。
「ありがとうございました~」
わらわは神じゃぞ神。
それが何が嬉しくてレジをやらねばならんか。
うう、隣で袋詰めのミコからテレパシーじゃ。
『コンちゃん、笑顔笑顔』
『ミコ、何とかならんかの!』
『しょうがないじゃない、観光バス二台もいるんだから』
『シロは?』
『パンの補充やってるでしょ』
うむ、さっきからパン補充にトレイやトングの補充をやっておる。
『店長は?』
『壊れてる……』
うう、店先でポンと一緒にたたずんでおる。
白髪増えておらんかの。
『あやつ働いておらんではないか、不公平じゃ!』
『店長さんは朝早くからパンを焼いてるの!』
『わらわ、もう我慢ならん、配達に行く』
「!」
うわ、ミコ、目が怒っておる。
な、何故か脇腹が痛いぞ。
うお、ミコの肘がヒットしておるのじゃ。
「うう……」
『ほら、キリキリ働く!』
『横っ腹が痛くてもう……』
途端にまた一撃。
さして力を込めておるように見えんのに死にそうな痛みじゃ。
「シロちゃん、私と代わって!」
「あ、ずるい、逃げる気かの!」
「違うわよ!」
「何が違うのじゃ~!」
「コンちゃんと一緒にいたら叩かずにいられないから」
「ミコ……配達行っていいぞ」
「私が見てないとサボるでしょー!」
うわ、ミコの髪の先っぽがうねっておる。
怒りを抑えておるようじゃ。
ミコが補充で、シロが隣におさまるのじゃ。
『シロ、何かいい手はないかのう』
シロめ、ニコニコ顔で働きおる。
こやつ、つくづく犬じゃのう。
『それでありますが……』
『なんじゃ?』
『コンちゃんは……キツネはキツネでも……』
『うむ、キツネじゃが、神じゃぞ神、神さま』
『お稲荷さまでありますよね……だからお客が多くなったのでは?』
『な……これはわらわのせいというのかの!』
うむ、また昔のような優雅な日々に戻るにはポンが必要じゃ。
早いとこポン救出作戦を実行するのじゃ!
「ポンちゃん、散歩に行こうか」
もうすぐ夕飯。
茜色に染まっておる景色の中で……店長は真っ白なのじゃ。
「もう許してよ……人間に戻ってよ……」
店長ボロボロなのじゃ。
罪の意識に塩になっておる。
「これ、店長」
「あ、コンちゃん」
わらわ、店長の手からポンのリードを奪うと、
「交代じゃ」
「コンちゃん……」
「店長、おぬしは疲れておるのじゃ」
「でも……」
「それにわらわもたまにはポンと散歩したいのじゃ」
「それなら……」
「では、ちょっと出かけてくるぞ」
うむ、店長の手からポンをゲットじゃ。
『シロ、おるかの?』
『何でありますか?』
おお、テレパシーの返事早いのう。
『ポンを確保した』
『では、神社で落ちあいましょう』
「ふむ、人がおらんものじゃのう」
「もう夕方であります、たまおちゃんも地鎮祭であります」
「では、早速術をかけてみるかのう」
ポンに手をかざして念を送る……おお、輝いておる。
人のシルエットになって……なんじゃこれは?
ずいぶん小さいシルエットじゃ。
現れたのは小学生くらいの小娘じゃのう。
おでこ眼鏡……委員長顔。
自分の体を確かめてびっくりしておるようじゃ。
「ななななんでっ! 人間になってるっ!」
「……」
「ににに二本足で立ってる!」
「……」
「ややややったー! 人間になれたー!」
仔タヌキのやつ、大喜びじゃ。
「ふむ、お喜びのようじゃが……」
「あーっ!」
「!!」
「あああアンタ何者っ!」
「……」
「なによ、しっぽある、キツネ!」
「……」
「アンタなんとか言いなさいよ!」
面倒くさそうなヤツが現れたわい。
「なんでアンタ人間の姿なのよっ!」
「シロ、頼む……」
「了解であります、仔タヌキは……名前あるでありますか?」
「な、なによアンタは! 犬? 犬よねっ!」
「名前を言うであります」
「しっぽ白いわ!」
「名前を言うであります」
おお、シロもうんざり顔じゃ。
銃を抜いたぞ、こやつ現場はよいかも知れぬが、調書は取れそうにないのう。
「吐けっ!」
「はわわ!」
「素直にしゃべらないとタイホであります」
「タイホ」のう……「発射」ではないかの。
『シロ、ご苦労じゃった、わらわが代わろう』
『え……さっき交代したばっかりであります』
『シロ、ドラマを見るであろう』
『?』
『刑事ドラマには「良い警官」「悪い警官」がつきものじゃ』
『本官「悪い警官」でありますか?』
『ともかく交代じゃ』
シロは不満そうじゃが、ともかく銃を向けられて固まっておるこヤツに聞くのじゃ。
「おぬし、名前はなんともうすのじゃ」
「ワタシ……みどり」
「ふむ、みどりとやら、おぬしはどうしてここに来る事になったのじゃ」
「……」
みどりめ、わらわを見上げて黙っておる。
お、急に怒った顔になったぞ。
「ななな名前を聞くなら自分から名乗りなさいよっ!」
「わらわはコン、こっちはシロ」
「バカみたい、そのままの名前!」
「いいから、どうしてここに……」
「なんでキツネと犬が人の姿してんのよ! どうして? ねぇ!」
ムカっ!
こやつ子供、質問攻めじゃ。
うるさくてたまらん。
ここは一つ驚かすとするか。
「ゴットアロー」
ふふ、ミコの術じゃがわらわも出せるのじゃ。
指を鳴らせば「光の矢」がみどりの足元に刺さるぞ。
「ぴっ!」
「わらわに聞かれた事のみを語ればよいのじゃ」
「……」
涙目になって震えておる。
効果テキメンじゃったが……何じゃ、シロめ肩を叩きおる。
『今回は本官が「良い警官」であります』
『むう……山さん役交代じゃ』
「みどり……どうしてここに来たでありますか?」
「……」
「本官のはおもちゃでありますが、コンちゃんのは当たれば死ねます」
なんじゃそれは。
わらわの方がおそろしいような言いようじゃのう。
「しゃべるであります」
「わわわワタシは……動物園にいたの」
「それがどうして?」
「夜、人間がやって来てワタシをさらって……」
「で?」
「そしてここへ」
「一度どこかに……犯人のアジトに行ったようでありますな」
うむ、みどりとやら、頷いておる。
「どこか……わからないでありますか?」
「……」
「別の動物園とか? ペットショップとか?」
「ぽんた王国……」
「ぽんた王国? 変な名前でありますな」
「ふむ、ふざけた名前故、ラブホテルではないかの?」
「みどり、知らないでありますか?」
うむ、みどりのヤツわからんようじゃの。
ウソをついておるようには見えんのう。
「あああアンタ達何で人間の格好してんのよっ!」
うわ、また何故何故モードに入りおった。
「どどどどーやって人間になったのよ!」
「うるさい……元に戻るのじゃ」
指を鳴らせば元通り仔タヌキじゃ。
「さて、シロ、これではっきりしたのう」
「この子はポンちゃんの身代わり……みたいであります」
「うむ」
「しかし、間抜けであります」
「何故じゃ? こっちは困っておるではないか」
「ポンちゃんの身代わりを置いたのに、服を持って行くのは不自然であります」
「まぁ……そうかのう」
「ポンちゃんの居場所が判れば簡単に救出できそうであります」
「ふむ……では警察の犬の出番じゃ」
「!!」
「ポンのニオイを辿るのじゃ」
「えーっ!」
「何が『えーっ!』じゃ」
「本官『警察の犬』で『警察犬』ではないであります」
「昇進試験と思って……」
「警察の犬で満足であります」
むう、こやつやる気ゼロじゃの。
「わらわの命令じゃぞ!」
「拒否であります」
「な、なんじゃとー!」
「大体一生懸命やらねばならないのはコンちゃんの方であります」
「な、なぬっ!」
「本官はパン屋の店員、ちゃんとできるであります」
「わらわだってできる」
「サボりたい張本人でありますよね?」
「うぐ……」
ふう、今日もレジかの。
いつもお茶しながらTVしていたテーブルが見える。
早くポンを連れ戻し、あの特等席に戻るのじゃ。
いきなりドアが開いて本日初のお客は……
おお、あれはシロの元主人の刑事ではないかの。