第54話「タヌキの正体は何者かの」
一度ポンを抱いてみたのじゃが…タヌキは本当にポンなのかの?
どーも「ニオイ」、違うようなのじゃが…
わらわの術であのタヌキから事情を聞くしかないかの。
うむ、押し入れの服もなくなっておる。
これは事件の「ニオイ」なのじゃ!
「コンちゃんの術でポンちゃんを戻すであります」
シロのやつ、ニコニコしながら言いよる。
確かに……その手があったのじゃ。
しかし……のう。
「コンちゃん、どうしたでありますか?」
「うむ、その事なんじゃが……」
「?」
「シロはポン……タヌキになったのを見たかの?」
「はい、朝の任務前に」
「うむ……で、どうであったかの?」
「え?」
「だから、どうだったかと聞いておるのじゃ」
「べつに……タヌキというだけで……」
「まったく……おぬしは本当に『警察の犬』かの?」
「であります」
「何も感じなかったのかと聞いておるのじゃ」
「……」
「どうじゃ? のう!」
「さぁ……」
「おぬし、警察の犬失格じゃ」
「はぁ……」
シロのやつめ、ポカンとしておる。
「おぬし、あれがポンと思っておるのかの!」
「え! 違うでありますか?」
「今……ポンはおらぬが、わらわはあやつを朝抱いたのじゃ」
朝、レッドから助けたからのう。
あの時しっかり腕に抱いたのじゃ。
「まだニオイが残っておる、ほれ」
シロめわらわの袖をクンクンしておる。
「ニオイ……違うでありますね」
「そうじゃ、シロはこれをどう思いのじゃ」
うむ、ようやくシロも考える顔になったのう。
「人間になっている時はニオイが違うとか……」
「本気で言っておるのかの?」
「うう……」
シロ、ちょっと困ったものの、
「本官、巡回で学校にも行ったであります」
「ふむ」
「レッドはタヌキをポンちゃんと言ってたであります」
「うむ……そう言えばそうじゃのう」
「レッドはポンちゃんと一緒の時間が長いので、間違う事もないかと」
「うむ、実はわらわもちょっとだけそう思っておったのじゃ」
って、シロの意見にいちいち考え込んでおったぞ。
「いや、やはりニオイじゃ、これはポンのニオイではない!」
「実は……本官も……ニオイの方が信ぴょう性あるかと」
「じゃろうが、あのタヌキは絶対ポンではないのじゃ!」
シロ、うつむいて考え込んでおるようじゃ。
ゆっくり顔を上げると、
「今は当の本人がおりませんので、戻って来るまでは……」
「うむ、確かにおぬしの言うのももっともじゃ」
「あのタヌキに術をかけて戻すであります」
「あやつは絶対ポンではない」
「でありました、でも、術で人にして事情を聞く事はできるであります」
「うむ、それは確かに……」
「あのタヌキがポンちゃんでなくても、無関係ではないでしょう」
「うむ……確かに無関係ではあるめい……しかし!」
「しかし……何でありますか?」
「シロ、おぬしもようやく『警察の犬』らしいの!」
「そうでありますか?」
「大体警察の犬のくせに、ポンのニオイにも気付かんかの!」
「……」
「ドラマなんかで活躍する警察犬とはえらい差じゃ」
「ああ! 本官は『警察犬』ではないであります」
「?」
「『警察犬』は捜査で大活躍」
「おぬしもそうであろうが?」
「本官は違うであります、『けいさつけん』でなく『けいさつのイヌ』」
「ど、どう違うのかの?」
「警察犬は事件や捜査で大活躍」
「……」
「警察の犬はせいぜい番犬程度であります」
「し、シロ、おぬしはそれでよいのかの?」
「そっちの方が気楽であります、それに……」
「なんじゃ?」
「本官、人間になってからは銃の腕は自信あるであります」
まぁ、確かにのう。
やたら撃ちまくるふしがあるが。
「タイホ」と「発砲」が同じ感じよのう、こやつの場合。
さて、今日も終わりなのじゃ。
しかし……
店長め壊れたままじゃ。
ポンを相手に目を真っ赤。
今日一日店先のテーブルで「ポンちゃん」つぶやいておったわ。
「これ、店長、いいかげんにせぬか!」
「あ……コンちゃん」
「店長が取り込むのをわすれたのがイカンのじゃ」
「うう……ごもっとも」
「わらわに代わるのじゃ」
「う、うん……」
「店長は明日の仕込みでもやっておれ」
ふふ、店長トボトボと行ってしまいおった。
これでポンと二人きりじゃ。
術をかけてこやつから聞き出すとするかの。
しかしシロもいてほしいものじゃが、今はおらん。
「よう、コンちゃん」
「!」
誰かと思えば現場監督ではないか。
こう、いいタイミングで現れるのう、この厄介者め。
にらんでおるのに近寄って来おる。
「何用じゃ」
「残り物でもって」
「今日はもう終うた」
「開いてるけど……」
むう、現場監督め、ドアを開けよる。
「札が下がっておろうが、お店は終わりじゃ」
「まだパン並んでるけど?」
「いちいちうるさいのう」
「って……それは?」
おお、ようやくポンに気づきおった。
「これは?」
「ふむ、おぬしはこれを何と思うのじゃ?」
「ポンちゃん?」
「タヌキはみなポンであるかのような言いようじゃの」
「い、いや……じゃ、何?」
「まぁ……ポンかのう」
説明が面倒なのでポンにしておくのじゃ。
おお、現場監督ひきつっておる。
わらわをジト目で見ながら、
「元に……人の姿にしてやれよ」
「はあ?」
「どーせケンカでもして、コンちゃんが術かけたんだろう?」
「お、おぬしも言うのう」
現場監督ポンを抱え上げると、
「姉貴なんだから、妹に優しくしたらどうなんだよ?」
「ふん、わらわは何もしておらんのじゃ」
「じゃ、何でポンちゃんがタヌキに戻っちゃうんだよ」
「……」
「コンちゃん仕事ってガラじゃないだろ」
「……」
「ポンちゃんがいないと店潰れるぜ」
「なんじゃおぬしは、言いたい放題で」
そうじゃそうじゃ、こやつ言いたい放題なのじゃ。
「おぬし何しに来たのじゃ、いつも来る時間ではないのじゃ」
「パン買いに……そうそう、明日から別の現場に配属」
「やったのじゃ、わらわの事を悪く言うヤツはどっかに行くのじゃ」
「短い間だけど」
「ちぇっ、戻ってこんでいいのに、フン」
「山むこうのダム工事に短期ヘルプ」
「それならパンを買うのを許すのじゃ、中に店長おる」
「コンちゃん仕事しろよ~」
「わらわはポンと散歩なのじゃ」
そうじゃそうじゃ、散歩でここを一時離れるのじゃ。
しかし現場監督がよそに行くという事は……
むさくるしい連中が来なくなると言う事か。
お店の忙しさも少しは緩みそうじゃのう。
「コンちゃん」
「おお、シロ、今帰りかのう」
「であります、ポンちゃんと散歩でありますか?」
「うむ……こやつからそろそろ事情を……」
『今はダメであります!』
『な、何じゃいきなり小声で!』
『そろそろ来るであります』
「?」
と、シロの予言はレッドじゃ、千代のオマケ付き。
「ポン姉~!」
おお、いきなりポンを抱っこかの。
もうレッドにかかってはこやつもヌイグルミ状態じゃのう。
「あ、あの……」
「なんじゃ、千代」
「ああああのタヌキは?」
「ポンに決まっておろう」
「ええっ! ポンちゃんっ!」
ふふ、千代もびっくりじゃ。
「タヌキに戻ったの? どうして?」
「いろいろあるのじゃ」
「ポンちゃん、もうちょっと大きかったと……」
「!!」
そうじゃ、こやつはポンの名付け親でもあるのじゃ。
「千代はこれがポンでないとでも?」
「えさをあげてた時は……もうちょっと……大きかったような……」
「ふむ……」
おお、千代、レッドのところに行ったぞ。
ポンの頭を撫でてから……しっぽモフモフ。
「やっぱりポンちゃんかなぁ」
そ、それで決めるのかの……
ポンがちょっとあわれに思えてきたのじゃ。
さて、夕飯も終わって風呂かのう。
「これ、シロ、わらわは先に風呂に入るぞ」
「了解であります……」
「おぬしにはたまおの監視を命ずる」
「それもいいでありますが……ちょっと……」
「なんじゃ、どうしたのじゃ?」
シロに連れられて部屋へ……どうしたのかの?
「コンちゃんは気付かなかったでありますね」
「?」
押入れを開けよった。
どうしたのかの?
「服がなくなっているであります……ポンちゃんの分」
「!」
「怪しいであります」
「う、うむ、シロ、よく気付いたの」
「本官の着替えもここでありますので」
「シロ、クンクンするのじゃ」
「!!」
シロとわらわでクンクン……やはり匂うぞ!
「シロ、気付いたかの?」
「これは……タヌキのニオイでは?」
「うむ、今おるのとも違うようじゃ」
「犯人の狙いはポンちゃんでありますか」
「服も持っていったのじゃ、狸汁にする為に連れ去ったのではあるめい」
「では、今でもどこかに……」
「しかし何故ポンなのかのう」
「?」
「ポンは貧相じゃ、連れ去るならシロの方が……」
「て、テレるでありますよ」
「もしかして、貧乳狩人かも知らん」
「では、今ごろポンちゃんは……」
「あやつエロポンゆえに天職やも知れぬ」
うむ、シロ、難しい顔して腕組みじゃ。
「すぐ見つかりそうであります」
「おお、シロ、おぬし何かあるのかの!」
「ポンちゃんのいる風俗ですので、風変りなところでしょう」
「……」
「頭に『貧乳』のついた情報を検索するであります」
「……シロ、おぬし容赦ない言いようじゃのう」
「最初に貧相と言ったのはコンちゃんであります」
ふふ、今頃ポンのやつくしゃみしまくりじゃ。
しかし……ちと不安じゃのう。
すぐに狸汁にならずとも、太らせて狸汁やも知れん。
それにわらわも働くのは面倒なのじゃ。
早いとこ助けに行くとするかの。
ふむ、今日も店番をせんといかんのかのう。
朝から憂鬱じゃ。
目の前の食事にも気が沈む。
早いとこポンを連れ戻さんとなぁ。
ふむ、食卓にミコの姿はないの、台所のようじゃ。