第53話「わらわが一番なのじゃ」
ふはは、ポンがタヌキに戻ってもうた。
なんでも店長が「お外におやすみ」で取り込み忘れたらしいの。
ふふふ、これでわらわが「一番」なのじゃ!
って…喜んでおれんっっ!
ポンがおらねばわらわが店番をせねばならんのじゃっ!
ふわわ、朝じゃ。
むぅ、しかしなんじゃのう……
朝から騒がしいのじゃ。
「どうしたのじゃ!」
ふむ、まだ早いようじゃ。
ポンの姿が見えんのじゃが……
あやつ朝のお務めをさぼっておらんかの。
わらわの祠の掃除「させてやって」おるのに。
「どうしたのじゃ、朝っぱらからうるさい」
おお、店には店長とミコがおる。
二人ともしゃがんでどうしたのかの?
「ぽぽぽポンっちゃん!」
おお、店長、大声でどうしたのじゃ?
ポン……あやつは昨日信楽焼の狸を無き者(?)にしたのじゃ。
昨晩はダンボールの刑でお外でおやすみだったのでは?
「ぽぽぽポンちゃん!」
「これ、どうしたのじゃ!」
「ポンちゃん、ごめん!」
「店長何を謝っておるのじゃ」
店長はうつむいたままじゃが、ミコが顔を上げ……
「な、なんじゃそれは!」
ミコが振り向いたから見えたんじゃが、タヌキがおる!
タヌキと言えばポン、ポンと言えばタヌキじゃが……
わらわもしゃがんでタヌキになったポンを確認じゃ。
「どうしたポン、何故人の姿ではないのじゃ!」
店長何とかポンを捕まえて抱いておる。
しかしポンのやつ、タヌキになったらやりたい放題じゃ。
店長の腕を噛みまくっておるぞ。
「どうしたのじゃ、ポン!」
「コンちゃん……」
「おお、ミコは事情を知っておるのか?」
店長は壊れておるのでミコに聞くのがよかろう。
「ミコ、話すのじゃ」
「それがね……昨日ポンちゃんダンボールでおやすみだったでしょう」
「うむ、それがどうしたのじゃ」
ダンボールでおやすみ……反省するにはなかなかの刑じゃ。
わらわもよく食らうが、気持ちがくじける。
「ま、まさかそれでへそを曲げてタヌキになったのかの?」
「……」
「今までタヌキの姿に戻るなんてなかったのじゃ、それが……」
ポンがそれくらいでくじけるとは……信じられん!
「い、いや、まさかとは思うが……」
「……」
「昨晩は月の綺麗な夜じゃった」
「……」
「月の明かりでポンの術が解けたとか?」
「……」
「ミコ、何故黙っておるのじゃ!」
「店長さんね、昨日の夜、ポンちゃん取り込むの忘れたらしいのよ」
「そ、それは酷い! 悪魔の諸行じゃ!」
ダンボールの刑を食らっても、目覚めはお布団の中じゃから「愛」を感じるのじゃ。
それを取り込むのを忘れるとは……ポンがタヌキに戻ってもしょうがない。
「ポンちゃんごめん、人の姿に戻って!」
店長大泣きじゃ。
しかしポンも容赦なく噛んでおるのう。
「これ、ポン、もういい加減にするのじゃ!」
店長の腕からポンを奪取じゃ。
ポン、いいかげんに落ち着かんか、まったく。
って、いきなり噛み付きおった!
こやつタヌキ姿に戻ってわらわのことも忘れたかの!
「コンちゃん、ポンちゃん疑ってたでしょ?」
「ミコ、何の事じゃ」
「信楽焼のタヌキ、ポンちゃんが持って行ける訳ないでしょ」
「まぁ……面白がっておったのは確かじゃが……」
お、ポンめ、脱走しおった。
外に出たらもう見つける事もかなわんかも……
「きゃー! なになに~!」
悲鳴なんだか喜んでおるのやら……レッドの声じゃ。
「これ、なになにー!」
おお、レッドめ、ポンを捕まえて来おった。
「レッド、それはポンじゃ」
「えー! これがポン姉ー!」
レッドめ、すぐさまモフモフ開始じゃ。
「ほんとだ、ポン姉!」
レッド大喜びじゃの。
ああ、危ない、噛まれそうじゃ。
うむ、レッドのやつめ絶妙なタイミングでかわしておる。
もう、ポンをヌイグルミみたいにもみくちゃじゃ。
「これ、レッド、酷くしてはポンに悪かろう」
「よろこんでるよ?」
「嫌がっておるのじゃ」
「おとなしいのに~」
「ぐったりしておるのじゃ」
うむ、ポンは先輩ゆえに助けてやるか。
レッドの腕から救出じゃ。
「わ~ん、ぼくのポン姉~」
「抱っこはまた明日にするのじゃ」
うむ、ポンのやつすっかりぐったりしておる。
「……」
レッド、ポン姉と言っておったが……
こやつ本当にあの「ポン」なのかのう?
さて、ポンがおらんでもお店は営業じゃ。
「コンちゃんコンちゃん」
「ミコ、何じゃ」
「……」
「何をジト目で見ておるのじゃ、感じの悪い」
「お店の時間なんだけど……」
「わかっておる」
って、何故わらわを責める目で見るのじゃ。
「これ、ミコ、ポンがタヌキになってしまったのはわらわのせいではない」
「……」
「あれは店長が取り込まないのが悪いのじゃ」
「そんな事じゃないのよ!」
「な、何じゃ!」
「開店準備してっ!」
うわ、ミコのやつ怒っておる。
「な、何故わらわがそんな事せねばならんのじゃ!」
「ポンちゃんがタヌキになっちゃったからでしょ!」
「!!」
「さっさとパンを並べてっ!」
「う、うむ、わかったのじゃ」
ミコ、目の奥で怒りの炎がメラメラしておった。
ここは怒られる前に素直に従っておくにかぎる。
「のう、ミコ」
「何? コンちゃん!」
うむ、まだお怒りのようじゃ。
「し……シロはおらんかのう?」
「シロちゃんには配達に行ってもらったの」
「そうかの……」
「……」
「たまおとか……」
「たまおちゃんは神社で巫女でしょ!」
「……」
「まったく……」
「……」
「……」
「店長はどうしたのかの……」
「こ、壊れてるの……」
「ふはは、朝と一緒かの、おかしいのう」
「ふう……」
「ミコ、どうしたのじゃ、ため息なんぞつきおって」
「コンちゃん……」
「何じゃ?」
「コンちゃん、店番を店長さんにやらせるつもりだったんでしょ?」
「うっ……」
「店員できるのシロちゃんくらいよ」
「うっ……」
「ポンちゃんタヌキになって私不安」
「う、うむ……確かに……」
「コンちゃん頑張ってね」
「コラ、ミコ待たぬか!」
「何? コンちゃん?」
「おぬしも店番できるであろうがっ!」
「サボる事ばっかり考えて……まったくモウ」
「わらわはここではミコの先輩じゃぞ、なんじゃその態度はっ!」
「じゃあ、私がお店をやるから……」
「うむ、それでよいのじゃ、早うお茶を持つのじゃ」
ふふ、いいのう「先輩」というのは。
昔わらわを封じたミコをあごで使って……
「コンちゃん家事やってね、ごはんの準備に掃除洗濯」
「うえ……」
ミコ、わらわの方を見向きもせんで行ってしもうた。
しょうがない、たまにはレジに立つとするかの。
「ちわー、綱取興業っす」
おお、目の細い配達人じゃ。
伝票にサラサラとサインして終わり。
「荷物ここに置いときま~す」
「ふむ、運ぶとするかの」
こんなの術で……
な、何故飛ばんのじゃ!
妨害する術が発動されとるようじゃ。
うわ、柱の陰からミコのジト目。
『何じゃミコ!』
『人前で術使っちゃダメでしょう!』
クソー、わらわ力仕事には向いておらんのに~
こ、このままではマズイ。
ポンがおらんでわらわが一番と喜んでおったらロクな事はないのじゃ。
は、早くシロのやつ、帰ってこんかのう。
『な、何故じゃ!』
こ、このパン屋はこんなに忙しかったのかの!
さっきからお客がひっきりなしじゃ。
『コンちゃんスマイルスマイル!』
『う、うむ、わかっておるのじゃ』
観光バス、おそろしや。
おお、バスガイドが声をあげた。
ようやくお帰りじゃ。
客は一気にはけてしもうた。
「お、終わった……」
「じゃ、私台所に戻るわね」
「ま、また観光バスが来たらミコも手伝うのじゃぞ!」
「はいはい、でも、シロちゃん帰ってくるわよ」
むう、ミコめ、手をヒラヒラさせながら引っ込んでしもうた。
あやつの方が絶対店番向きじゃ。
しかしわらわは家事なぞできん……
「ただいま戻ったであります」
「おお、シロ、待っておったぞ!」
「コンちゃんどうしたでありますか?」
こ、こんなにシロが輝いて見えるとは……まるで神のようじゃ。
「お客が多くて大変じゃったのじゃ!」
「そうでありますか」
「シロが早く帰ってこんのがいかんのじゃ!」
「午前中は見回りであります」
「シロはわらわの事なんてどうでもよいのかの?」
「……」
「おお! 何か言う事ないのかの!」
シロのやつ、笑っておる。
「何がおかしいのじゃ!」
「コンちゃんは……店番が嫌なだけでは?」
「!!」
「だったら……」
「し、シロ、おぬしわらわの文句ばっかなのじゃ!」
「コンちゃんの術でポンちゃんを元に戻せないでありますか?」
「!!」
おお!
シロに後光がさしたぞ。
一気に解決が見えたようじゃ。
「……」
「どうしたでありますか?」
「いや……気になる事があっての……」
「コンちゃんの術でポンちゃんを戻すであります」
シロのやつ、ニコニコしながら言いよる。
確かに……その手があったのじゃ。
しかし……のう。
「コンちゃん、どうしたでありますか?」