一番大切な人は貴方なんです。
先生は一命を取り留めた。ただし、あたしは高濃度酸素であの部屋にいた全員を中毒にさせるところだったので(というか実際に何人か倒れた)、イヨ型ユーグレイマン管理者にしばらくお説教を食らってしまった。ううう、悪気はなかったんだよぅ。
お説教から解放された後、あたしはチョコレートを持ってもう一度先生の部屋へと行った。もう何年も寝たきりの先生は部屋に入ってきたあたしを見て笑った。
「ああ、イヨか。聞いたぞ、俺を助けるために他の奴らを殺しかけたってな」
「殺そうとしてない! その、結果的にそういう事に見えただけで……」
「ははっ、知ってる。お前が優しい奴だって事、俺が一番長く見てきたんだからな」
そう言って先生があたしに手を伸ばしたので、あたしは先生が寝ているベットの傍らで膝立ちをすると、先生はあたしの頭をなでてくれた。
「なぁ、イヨ。俺らが出会ってもう何年目だ」
「……五十四年くらい」
答えると、先生は俺も年を取るもんだと苦笑した。
初めてあったときのあのみずみずしく張りのある手は、もうしわくちゃで。元気よく研究所を駆け回っていた足腰は、もう立ち上がれないほど弱っていて。なのにあたしは何一つ変わっていなくて。
あたしは泣きたくなった。だってどうやってもあたしは先生と同じ時間の流れで成長できないんだもの。
「先生、あたしチョコレート持ってきたのよ。食べてみて」
「チョコレートか。懐かしいな。前に食べたのは、悠里がベルギー支部就任祝いに持って来たときだから、三年前か?」
あたしはラッピングされたチョコレートを差し出した。それを見て、先生は意外そうに目を見張る。
「お前がこれをやったのか?」
「悠里に手伝って貰った」
「そうか。ありがとう」
その一言だけでも十分嬉しかった。あたしはひょこっと身を乗り出して、食べて食べてと急かす。先生は慌てさせるなと怒ったように言ったけれど、ゆっくりと口に運んでくれた。
「──うん、うまい」
あたしはそれに更に笑った。良かった、美味しいって言ってくれた。
あたしは暫く先生とお喋りをしていたが、先生が話し疲れたと言ったので部屋を出た。部屋を出るとき、少し寂しかったけど我が儘は言えない。だって先生に負担をかけて、寿命を縮めさせてしまったら、それこそ嫌だから。
☆☆☆
後どれくらい先生と生きることができるかは分からないし、分かりたくもない。
少しでも長く、先生と一緒にいたいな。
元はミドリムシだって、そんな恋心を持ったって許されるでしょ?